一話 頭脳の時代は終わった、これからは力の時代だ!
2026年4月。
俺は10年ぶりに日本に帰ってきた。
10年前、俺が六歳の頃、親父の転勤に合わせて俺はアメリカに引っ越した。
これから小学生になると言う時期に急に海外への引っ越しの話を親から持ち掛けられた時は不安で仕方なかった。
今まで交わしてきた日本語が通じない環境に身を置く恐怖を幼いながらも感じていたのだ。
しかし、慣れてしまえばアメリカでの生活も案外悪くなかった。
気がつけば日本の年号が平成から令和に変わり、俺は16歳、高校生になった。
俺が中学を卒業すると同時に父親の日本への転勤がまた決まり、俺は日本に帰ってきたのだ。
今日は日本で俺が通う事になる高校の入学式だ。
中学卒業直後に急に日本へ帰国すると告げられ、焦った俺だったが、既に親父の知り合いが理事長をしている学校に話は付けておいたそうなので、俺は一切受験せずに特待生として入学する事が出来た。
しかも、その高校なんと偏差値が70オーバーの超名門校なのだ。
授業に着いていけるかどうか少し不安であるが、これからの学校生活が楽しみである。
…などとこれからの学生生活に胸を踊らせながら、俺は支給された制服を鼻唄混じりに、ご機嫌に着用し、登校の準備を終えて、リビングに入る。
「親父、どうよ息子の晴れ姿。」
「おー、中々似合ってるじゃないか。馬子にも衣装だな。」
親父は新聞片手に適当に返事を返す。
相変わらずマイペースだな…。
この親父の性格に今までどれだけ振り回された事か。
「昇、そろそろ家を出た方が良いんじゃないか?遅刻するぞ。」
昇とは俺の名前だ。
フルネームは進道昇だ。
「それは親父もだろ。早く新聞読み終えて会社行けよ。」
そう言って俺はリビングを後にし、家を出て学校へ向かう通学路を辿る。
天気は快晴でとても清々しく、気分の良い朝だ。
俺は舞い散る桜を背景に優雅に歩く。
途中、他の通行人と目があったので元気良く挨拶をする。
「おはようございます!」
うむ、我ながら元気の良い素晴らしい挨拶だ。
この挨拶だけで地球温暖化も解決出来るのでは無いかと思う程に最高だ。
俺は自分の挨拶を自画自賛し、悦に浸る。
しかし…。
「ひっひいいぃ!その制服…あの難都高校の…。ごめんなさい!許してぇ!」
ただ挨拶しただけなのに、何故か通行人に逃げられてしまった。
「…変な人だな。」
俺を見て逃げ出した通行人の後ろ姿を見送りながら、俺はそう小さく呟いた。
気を取り直して学校への道のりを歩るきだす。
しかし、そこでさっきまで何も感じなかった違和感に気付く。
俺とすれ違う通行人や、道端にある花屋や八百屋のおっちゃん達がよそよそしく俺に視線を向けてくるのだ。
まるで、俺に怯えているように…。
…いったい何なんだ?
俺の顔に何かついてんのか?
「あの、俺に何か用ですか?」
「ひっひいい!すみませんでした!」
回りからの視線に耐えきれず、すれ違った通行人に質問してみるが、帰ってきたのはさっきの通行人と同じ、悲鳴のみ。
…何かがおかしい。
こんなに怯えられるような事をした覚えはないぞ。
俺は何処か様子がおかしい通行人達からの視線を訝しみながらも学校に向かうのだった。
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ちょっとしたハプニングがありながらも何とか学校に着くことが出来た。
ここが今日から俺が通う東京都立難都大学付属高校だ。
日本の高校では最も偏差値が高く、大学では東京大学に次いで日本二位の超名門校だ。
「ここで、始まるんだ。俺のハッピースクールライフ!」
俺は沸き上がるテンションを解放し、スキップしながら体育館へ向かう。
体育館には既に大勢の生徒が席に着いており、俺も急いで適当な席に座る。
そして、程なくしてこの学校の理事長武田力士が壇上に上がり、式辞を述べて入学式が本格的に始まった。
「新入生諸君、入学おめでとう。こうして君達の晴れ姿を見られた事を心から嬉しく思うよ。…さて、早速だが、君達にはここで喧嘩してもらう。」
「は?」
突然の理事長の発言に俺はすっとんきょうな声を漏らす。
しかし、俺以外の生徒達は皆、理事長の言葉を当然のように受け止め、その場で立ち上がった。
「これから始める喧嘩は武器よし、騙し打ちよし、協力よしのバトルロイヤルだ。この喧嘩の結果を見て、君達の喧嘩偏差値を測定し、配属するクラスを決める。…それでは、春の入学バトルロイヤル…開始!」
理事長のその言葉と共に体育館にいる全ての新入生達が一斉に殴り合いを始めた。
体格差、性別関係なく、皆が各々のスタイルで戦っている。
「なんだよ…これ。いったい何がどうなって…。」
「へへっ!隙有り!」
突然始まったバトルロイヤルを前に呆然としていると、巨大な金槌を持った大男が俺に向かって金槌を振り落としてきた。
「なっ!?」
俺は咄嗟に金槌を避け、大男から距離を取る。
「ほう?お前中々動けるな。何かスポーツやってたのか?」
「アメリカでキックボクシングとアメフトをちょっとな。」
金槌を避けた俺を見て驚いた表情を浮かべた大男の質問に対し、俺は簡潔に答えた。
「お前、クソエリートじゃねえか!お前を倒せば俺の喧嘩偏差値も爆上がりってもんよ!」
そう大声を挙げながら、大男は俺に向かって金槌を振り降ろしてくる。
俺はその攻撃を軽々と避けながら大男に質問を投げ掛ける。
「喧嘩偏差値ってなんだ?何で俺達は今ここで喧嘩しなくちゃいけねえんだ?」
「喧嘩偏差値は喧嘩偏差値だ。自分の喧嘩の実力を周りと比べて相対的に評価した数値だ。これが高ければ高い程良い。」
「具体的にどう良いんだ?」
「偏差値によって配属されるクラスが違えんだよ。偏差値0~10代が即退学。入学でもお構い無く、この数値が出たら直ぐにサヨナラだ。20~30代がCクラス、この学校の最底辺。Cの奴らに発言権も人権もねえ。40~50代がBクラス、中堅だ。可もなく不可もなくの人間ばかりだ。60~70代がAクラス、この実質的なトップだ。何をしても許される。だから、俺含めて全員Aに成ることを望んでんだよ!」
そう叫びながら、金槌を振るってくる大男の攻撃を難なくいなしながら、思考を巡らす。
…つまり、このふざけたバトルロイヤルの結果次第で学校内での待遇が変わると言うことか。
正直、喧嘩はあまり乗り気じゃないが、退学はしたくない。
せめて、次の編入先が決まるまではこの学校に籍は残しておきたい。
唐突にこんな馬鹿げたバトロアを始めるような馬鹿学校だが、世間の評価はかなり高い。
せめて、退学を免れさいすれば、俺の経歴に箔がついて編入しやすくなるだろう。
「悪いが、俺も退学はごめんなんだ。少し眠っておいてくれ。」
俺は大男が持つ金槌を裏拳で砕き、がら空きになった大男の腹に向かって、思い切り拳を叩き着けた。
その直後。
大男は後方にぶっ飛び、体育館の壁にめり込んで気絶してしまった。
「やり過ぎだか…?まあ、良いか。取りあえず、退学しない程度に何人か伸して後は目立たないよいにやり過ごそう。」
こうして、俺の波乱万丈な学校生活はバトルロイヤルから始まったのであった。




