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マザコン息子「母さんの味じゃないからマズイ」私「それ私が作ったんじゃないけど?  作者: 品川太朗


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3/5

第3話:その涙の訳は「お義母さんと違う」


「そうですよね……? 美味しい、ですよね……よかった……」


 美咲さんは両手で顔を覆い、子供のように泣きじゃくっている。


 私はティッシュの箱を彼女の前に差し出しながら、事態が飲み込めずにいた。

 ただの美味しい昼食を食べただけで、なぜこれほどまでに泣く必要があるのか。


「落ち着いて、美咲さん。ねえ、何か訳があるのよね? 翔太は何と言って文句をつけてくるの?」


 私は少し身を乗り出して尋ねた。


 翔太の話では、「家事がまともにできない」「料理が食べられないほどマズイ」と聞いていた。

 しかし、目の前の部屋は整頓されているし、料理も問題があるとは到底思えない。


 美咲さんは涙を拭うと、少しずつ、ぽつりぽつりと話し始めてくれた。


「翔太さん……いつも言うんです。『母さんと違う』って」


「母さんと、違う?」


「はい。味付けも、洗濯物のたたみ方も、掃除の仕方も。全部お義母さんと比べられて……」


 美咲さんの口から語られたのは、耳を疑うような息子の言動だった。


 例えば味噌汁。

 味が薄いわけでも濃いわけでもない。「母さんが使っている味噌と違う」からダメだと言う。


 例えば洗濯物。

 靴下の丸め方が「実家と逆だ」と言って、わざわざ全部やり直させる。


 掃除機をかける順番、洗剤の銘柄、タオルを干す場所に至るまで。


「毎日言われるんです。『母さんの味はもっとこうだった』『母さんならもっと手際がいい』『お前はなんで母さんみたいにできないんだ』って……」


「はーーーーー」


 話を聞き終えた私は、これまでで一番大きく、重い溜息をついた。

 天井を仰ぎたくなるのを必死に堪える。


 なるほど、そういうことだったのか。


 翔太の言い分は、「料理が下手」なのではなく、「私のコピーではない」というクレームだったのだ。


 味覚も生活習慣も、二十数年暮らした実家の基準が絶対で、そこから少しでも外れることを許さない。

 それは指導でもなんでもない。ただの幼稚なワガママだ。


 私は姿勢を正すと、目の前で縮こまっている美咲さんに頭を下げた。


「ごめんなさいね、美咲さん」


「えっ!? や、やめてくださいお義母さん! 頭を上げてください!」


「いいえ、謝らせて。翔太は家族以外の人と暮らしたことがなくて、あなたが新しい家族だということが、よく理解できていないみたい」


 私は顔を上げ、申し訳なさで一杯になりながら続けた。


「あの子をそんなふうに、手のかかる男に育ててしまったのは私だわ。本当にごめんなさい。あなたがこんなに追い詰められるまで、気づいてあげられなくて」


 私の言葉に、美咲さんはまた瞳を潤ませたが、今度は少し安心したような表情を浮かべていた。

 少なくとも、目の前の姑は敵ではないと分かってくれたようだ。


「……それで、お義母さん。これからどうすれば……」


「そうね」


 私は壁に掛かった時計を見た。夕刻が近づいている。

 そろそろ翔太が帰ってくる時間だ。


 本来なら、誤解が解けたのだから私は帰るべきだろう。


 でも、このまま帰ってしまえば、また今夜も美咲さんは翔太に「母さんと違う」とネチネチ言われることになる。

 それはあまりに不憫だし、何より私の腹の虫が収まらない。


「美咲さん、もしよければ、今日の夕食も一緒に食べていいかしら?」


「えっ?」


「翔太が実際にどんな文句を言っているのか、この目で見届けたいの。それに……少し、あの子にはお灸を据えないといけないみたいだから」


 私は意識してニッコリと笑顔を作った。

 自分でも分かる。これは目が笑っていない時の顔だ。


 美咲さんは一瞬きょとんとしたが、すぐに力強く頷いてくれた。


「はい! ぜひ、お願いします!」


 その顔には、最強の援軍を得た安堵感が浮かんでいた。


 さて、翔太。

 あなたがどれだけ立派なご託を並べるのか、たっぷりと聞かせてもらおうじゃないの。

第3話をお読みいただきありがとうございました。


息子の無神経な言動に、母・由美子の怒りがついに頂点へ!

美咲さんの味方についた由美子が仕掛ける、痛快な反撃が始まります。


次回、第4話。

ついにあの言葉を叩きつけます。


「公開処刑!『あなたはただのマザコンよ』」


スカッとしたい方はぜひ次のページへ!

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