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マザコン息子「母さんの味じゃないからマズイ」私「それ私が作ったんじゃないけど?  作者: 品川太朗


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第1話:SOSは身勝手な理由で

どこにでもいる専業主婦の由美子。

息子が結婚してようやく一安心……と思いきや、その息子から「嫁の料理がマズすぎる」と迷惑な電話が。


渋々、お嫁さんの教育に向かった姑が見たものとは。


全5話、一気読みできるボリュームとなっております。

最後までお付き合いいただければ幸いです。


 私の名前は由美子、五十五歳。


 近所のスーパーで多少のパート仕事はしているが、生活の大部分は家事に費やしている。ほぼ専業主婦と言っていいだろう。


 ほんの半年前までは、夫と私、そして息子の翔太の三人暮らしで、毎日それなりに慌ただしかった。洗濯物の山と格闘し、大盛りの食事を作っていた日々。


 けれど、その息子が結婚を機に家を出てからは、嘘のように静かな時間が流れている。

 今は夫と二人、お互いに干渉しすぎず、穏やかに暮らしている――はずだった。


 ◇


 静かに、とは言っても、翔太の新居は実家から徒歩三十分。自転車なら十分程度の距離だ。


 スープが冷めない距離、なんて言葉があるけれど、正直なところ近すぎる。


 なぜそんなに近い場所に新居を構えたのか。

 どうやら翔太は当初、私たちと同居しようと画策していたらしい。それを、お嫁さんの美咲さんがやんわりと反対し、今の場所に落ち着いたようだ。


 正直なところ、私自身も同居には反対だった。

「嫁に来る」と言ったって、こちらだって気を使う。他人同士が一つ屋根の下で暮らすのは、想像以上にエネルギーがいることだ。


 適度な距離感でお付き合いできるなら、その方がありがたい。

 向こうも新婚だし、当分は二人水入らずで過ごしたいだろう。


 そう配慮して、私からは翔太の家には近づかないようにしていたのだ。用事があればラインで済むし、わざわざ小言を言いに行くような野暮な真似はしたくない。


 ところが最近、その翔太から頻繁に「ヘルプ」の電話が掛かってくるようになった。


「もしもし母さん? 俺だけど」


「なに、どうしたの? 仕事中じゃないの?」


「いや、昼休み。それよりさ、頼むよ母さん。今度の休み、うちに来てくれないか?」


 電話の向こうの翔太の声は、切羽詰まっているというか、どこか苛立っているようだった。


「行くって、何しに? 遊びに行くわけじゃないんでしょう?」


「違うよ、指導しに来てくれよ。美咲のやつ、家事もまともにできないんだ」


 翔太は大きなため息をつくと、堰を切ったように愚痴をこぼし始めた。


「まず飯がマズイ。本当に食えたもんじゃないんだ。味付けがおかしいし、味噌汁なんて出汁の味がしない。毎日あれを食べさせられる俺の身にもなってくれよ」


「美咲さんだって仕事をしているんでしょう? 慣れないうちは仕方ないわよ」


「いや、あれは慣れとかの問題じゃない。センスがないんだ。それに掃除だって雑だし、俺のシャツのアイロンがけも変なシワがついてるし……」


 延々と続く息子の泣き言。


 要約すれば、

『自分の理想通りの家事が提供されていないから、母さんが来て美咲を教育してくれ』

 という、あまりにも身勝手な要求だった。


「母さんからも言ってやってくれよ。ちゃんと料理を教えに来てくれ」


「あんたねえ……」


 私は呆れて電話を切ろうとしたが、翔太もしつこかった。

 それから三日と空けずに電話がかかってくる。


 あまりのしつこさに、夕食の席で夫に相談してみた。


「……というわけなんだけど、どう思う?」


「ふむ。翔太のやつ、そんなことを言っているのか」


 夫はビールを一口飲むと、苦笑しながら言った。


「大げさに言っているだけだとは思うが、こう毎日電話がかかってくるんじゃ、お前も気が休まらないだろう。とりあえず一回、様子を見てきたらどうだ?」


「そうねえ……」


「もし本当に、美咲さんが家事で困り果てているなら、手を貸してやるのも親切かもしれんしな」


 夫の言葉も一理ある。


 もし本当に家事が壊滅的で、若い二人の生活が破綻しかけているのなら、アドバイスくらいはしてあげてもいいかもしれない。


 それに、翔太があまりに騒ぐものだから、一体どんな「マズイ料理」が出てくるのか、少し気になり始めていたのも事実だ。


「わかったわ。じゃあ、次の休みに一度だけ行ってみるわよ」


「ああ、頼んだぞ」


 こうして私は、気が進まないながらも、息子のSOSに応える形で新居へ向かうことになった。


 ◇


 週末の昼下がり。

 自転車を漕いで十分ほどで、真新しいアパートの前に到着する。


 オートロックを抜け、玄関の前に立つ。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 一抹の不安を抱えながら、私はチャイムを鳴らした。


『ピンポーン』


 一拍置いて、ドアの鍵が開く音がする。


「――はい」


 ドアがゆっくりと開き、お嫁さんの美咲さんが顔を出した。


「お義母さん……」


「こんにちは、美咲さん。急にごめんなさいね」


「いえ! わざわざすみません、今日はお願いします」


 久しぶりに会う彼女は、緊張しているのか随分と顔色が暗かった。

 まるで、これから裁判にかけられる被告人のような怯えようだ。


 (ふう、と私は心の中でため息をついた)


 これは、思ったよりも根が深いかもしれないわね。

第1話をお読みいただきありがとうございました。


自分の理想を押し付け、母親に泣きつく翔太。

一方で、姑の訪問に怯えきっているお嫁さんの美咲さん……。


由美子は一体、どんな「壊滅的な家事」を目の当たりにするのでしょうか。


次回、第2話「震えるお嫁さんと完璧なキッチン」。


ぜひ、下の【次へ】ボタンからご覧ください!

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