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第1話 目覚め

目の下の線が歪んでいるという理由だけで、私は出来損ないと呼ばれていた。


そのことを、私は目覚めて間もなく理解した。


――いや、理解させられたと言った方がいい。


目を開けた瞬間、視界は白一色だった。

白い天井にやけに冷たい光が降り注いでいる。

まるで病室だな。


身体を起こそうとすると、関節が軋む。

痛みは無いが、まるで長い間使われていなかった機械を無理やり動かしたような違和感がある。


周りの状況を確認するため、カプセルからゆっくり身体を起こすと部屋の隅に鏡を見つけた。

自分の容姿を確認するために鏡の前に立つ。


「……これは」


そう呟いて、私は鏡を見つめた。


人間と見分けがつかない……

皮膚は柔らかく、指先には細かな皺まで刻まれている。

爪の間には、わずかに汚れすら残っていた。


作り物にしては、あまりにも生々しい。


それでも、分かっている。

私は人間じゃない。


そう思わせる決定的な理由が、一つだけあった。


鏡に映る整った造形。

中性的で、年齢は若く見える。


そして、目の下。


左右の目の下に、細い線が刻まれていた。


人型ロボットには、必ず目の下に線がある。

それは人類とロボットを区別するために与えた印。


一般的な個体の線は、定規で引いたようにまっすぐだと記憶にある。


けれど…


私の線は、歪んでいた。


ほんのわずかに、波打つように。

途中で途切れ、また続いている。


「……?」


その歪んだ線を見た瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ。


同時に映像が脳裏に流れ込んでくる。


この部屋に横たわる自分。


そして、その傍らに立つ二人の人影。


30代前後に見える男女だ。

酷く慌てた様子だが、それを悟らせまいと必死に笑顔を浮かべ、カプセルの中の私を見ている。


だが、その笑顔とは裏腹に目からは涙が零れていた。


嗚咽を漏らしながら、声を押し何度も、何度も私に語りかける。


「……いつまでも…いつまでも、愛しているよ」


この言葉だけが、鮮明に残っている。

何故二人がその言葉を私に語りかけているのかは見当がつかない。

なのに、その言葉を思い出した途端、視界が歪み頬を何かが伝う。


「……?」


指で触れると、透明な液体が付着した。


――涙。


「……なんで、出るの?」



疑問を口にした直後、部屋の扉が静かに開いた。


数人の女性の容姿をしたロボットが入ってくる。

皆、同じような非常に整った顔立ちで、同じような目の下の線を持っている。


まっすぐな線。


彼女達の視線が、一斉に私へ向けられた。


「スリープ状態個体の起動を確認。個体番号――」


一人が端末を見て、言葉を止めた。


「……不明?」


別の個体が近づき、私の顔を覗き込む。

そして、目の下に視線を落とした。


一瞬の沈黙。


その空気だけで、分かってしまった。


「ああ……」


低い声が、感情のない声で告げる。


「出来損ないだ」


その言葉は、淡々としていた。

怒りも、侮蔑もない。

ただただ、事実を報告するようだ。


「線が歪んでいる。規格外だ」


「能力測定を行う」


「再利用は不可だろう」


人型のロボット達が口々に会話を始める。

彼女達の会話は、私を物として扱っていた。


――出来損ない。


その言葉が、妙にしっくり来る。

目の下の線だけでなく、身長や体格で明らかに私は彼女達に劣っていた。


能力測定の結果は、すぐに出た。


身体付きから想定される馬力や、立ち振る舞いから導き出される思考力等の各項目の能力値は…全分野、平均以下。

いくつかの項目では、最低値だそうだ。


「……やはりな」


誰かがそう言った後、こちらに興味が失せたのか彼女達は部屋から出て行った。


誰も居なくなった部屋で、私は理解した。


私は、必要とされない存在なのだと。


身体中の血が下に落ちるような感覚、目覚めた瞬間に出来損ないだと、必要のない存在だと突きつけられ少なからず絶望していた。


それでも…それでも、胸の奥で消えないものがあった。


泣きながら私に言葉をかけてくれた、あの二人。

名前も思い出せない。


ただ、一つだけ確かなことがある。


あの人たちは、私を――

出来損ないだなんて、思っていなかった。


涙を流し、僕を愛してると言ってくれた。

それを思い返すと、冷えきった心に火が灯るような暖かな感覚を覚えた。


そうだ……


「……探そう」


私は呟いた。


記憶の中の、あの声を。

「いつまでも愛してる」と言ってくれたあの人たちを。


たとえ、必要とされない存在でも。


たとえ、出来損ないでも。


私は、自分が何者なのかを知りたい。


歪な線の残る目元を、そっと拭い部屋から出た。

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