第5話 闇の足音
第5話 闇の足音
負の将の存在を知ってから、部員たちの日常はさらに緊張を帯びていた。表の活動は少しずつ再開された。観光地でのパフォーマンスは控えめになり、キャンパス内のPRが中心になった。それでも、観光客や学生たちの笑顔は変わらず、おもてなしのエネルギーは少しずつ溜まっていく。しかし、裏の顔は別だった。岩淵先生の指導のもと、負人間の出現パターンを分析する作業が始まった。涼子が中心となって、過去の記録と最近の事件を地図にプロットしていく。「この辺りに集中してる……。大学周辺と、観光地の神社近く」涼子の冷静な声。みんなが地図を囲む。そんなある週末。神社近くの観光地で、いつものように小さなパフォーマンスを終えた帰り道。突然、悲鳴が上がった。「何!?」翔子が振り返る。広場の端で、観光客が逃げ惑っている。黒いオーラをまとった負人間が、ゆっくりと現れた。今度は一人ではない。二体。「また……!」五十鈴先輩が即座に指示を出す。「一般人を避難させて! 変身!」人ごみを離れ、近くの林に入って変身。隠師の姿になった部員たちが、広場に戻る。負人間は観光客を襲っていた。一体が女性を追いかけ、もう一体がベンチを破壊している。明らかに知能が高い。無差別に暴れるのではなく、恐怖を煽るような動き。「こいつら、前のより賢い……!」翔子が突進し、一体に拳を叩き込む。衝撃で敵が後退するが、すぐに反撃。黒い爪が翔子の肩をかすめ、彼女が歯を食いしばる。陽菜はサポートに回り、みんなの力を高める。「みんな、気を付けて!」涼子が遠距離から光の矢を連射。美咲は結界を張り、一般人を守る。凪は陽気な動きで敵の注意を散らし、五十鈴先輩が全体を指揮。二体同時は厳しかった。一体を翔子と五十鈴先輩が抑え、もう一体を涼子と凪が攻撃。陽菜と美咲は後方支援。負人間の動きが連携しているように見える。一体が囮になり、もう一体が隙を突く。「これ、ただの負人間じゃないかも……!」涼子の言葉に、みんなが息を飲む。激戦の末、二体を浄化。黒いオーラが消え、残ったのは意識を失った一般人の姿。戦いが終わると、部員たちは息を切らしていた。観光客たちは遠くから見ていたが、怪我人は出なかった。先生が後処理をし、事件は「集団パニック」として片付けられた。部室に戻った後、みんなが地図を囲む。涼子がノートを開いた。「今回の出現場所も、前のパターンに一致する。しかも、敵の行動が高度化してる。無差別じゃなく、恐怖を最大限に広げるような動き」彼女の目が鋭くなる。「誰かが、意図的に負の感情を増幅してる。負人間をコントロールしてる証拠よ」部室が静まり返る。「負の将……?」陽菜の呟きに、先生が頷く。「その可能性が高い。負人間はただ生まれるだけじゃない。誰かが、人々の心の闇を集めて、操ってるんだ」翔子が拳を握る。「だったら、そいつを早く見つけて倒さないと!」でも、美咲は俯いたまま。「でも、どうやって……? 敵はどこにいるかわからないのに」五十鈴先輩が静かに言う。「涼子の分析を信じましょう。パターンがわかれば、必ず手がかりが掴める」その夜、陽菜は一人でキャンパスを歩いていた。観光地の戦いを思い出す。あの負人間の目。まるで、こちらを見下すような知性を感じた。――誰かが、私たちを狙ってる。風が冷たく、木々がざわめく。遠くで、黒い影が一瞬揺れた気がした。でも、振り返ると何もない。家に帰ってからも、不安は消えなかった。一方、涼子は部室に残り、一人で地図とノートを見つめ続けていた。出現場所を線で繋ぐ。円のような形が浮かび上がる。「この中心に……何かある?」彼女の呟きは、誰も聞いていなかった。闇の足音が、少しずつ近づいていた。負の将の影が、聖地を覆い始めていることを、部員たちはまだ完全に理解していなかった。でも、時間は残り少ない。次の戦いが、すぐそこまで来ていることを。
(第5話 終わり)




