第4話 隠された使命
第4話 隠された使命
涼子の意識が戻ったのは、負人間との戦いから三日後のことだった。病院のベッドで目を覚ました涼子は、淡々と状況を説明された。負のオーラの侵食は軽度で、後遺症は残らないという。部員たちは交代で看病に訪れ、陽菜は特に長く付き添っていた。「ごめんね、みんなに心配かけて……」涼子が弱々しく笑う。陽菜は首を振った。「私たちこそ、守れなくてごめん。もっと強くなればよかった」その言葉に、涼子は静かに目を伏せた。「でも、あの敵……本当に人の負の感情から生まれるなんて。怖いよね」誰も答えられなかった。退院後、部室での活動が再開された。表のアイドル活動は一時休止。キャンパス内の事件は「不審者の乱入」として処理され、表向きは収束した扱いになっていた。しかし、おもてなし部の部員たちにとって、何も終わっていないことは明らかだった。ある日の放課後。岩淵先生が全員を部室に集めた。「君たちも実戦を経験した。そろそろ、真の目的を話す時が来た」先生は古い巻物を広げ、ゆっくりと語り始めた。「隠師の役割は、負人間を倒すことだけではない。大元の負の感情を操り、負人間を生み出す存在――『負の将』を倒すことだ」部室が静まり返る。「負の将?」翔子が聞き返す。「ああ。負人間はただの兵卒に過ぎない。誰かが人々の心に溜まる負のエネルギーを集め、意図的に負人間を創り出している。そいつを倒さなければ、戦いは終わらない」先生の言葉は重かった。負人間は自然発生するものではなく、操られている。誰かが、意図的にこの聖地を狙っている。五十鈴先輩が真剣な顔で質問する。「その負の将は、どこにいるんですか?」「まだわからない。だが、出現パターンを分析すれば、近いうちに手がかりが掴めるはずだ」訓練はさらに厳しくなった。変身後の戦闘練習、負のオーラへの耐性強化。みんなの表情から、余裕が消えていく。そんな中、翔子が燃えていた。「負の将だって? だったら絶対倒すよ! この聖地を守るのが私たちの使命なんだろ!」彼女の熱血な言葉に、陽菜は少し救われる思いがした。でも、他の反応は違った。美咲が、部活の帰りに陽菜を呼び止めた。「陽菜ちゃん……私、怖いよ」二人はキャンパスのベンチに座る。夕陽がオレンジ色に空を染めていた。「戦うこと自体が……。あの時、涼子先輩が倒れたの見たら、もう無理かもって思っちゃって」美咲の声は震えていた。いつも癒し系で穏やかな彼女が、こんなに怯えている。陽菜は言葉を探す。「私も怖いよ。でも、逃げたらもっと怖いことになるんじゃないかな。この聖地が、みんなが壊されちゃう」「でも、私にできることなんて……。結界張るくらいしかなくて、みんなみたいに強くないし」美咲の目から涙がこぼれる。陽菜はそっと手を握った。「美咲ちゃんの結界がなかったら、私たちもっと危なかったよ。みんな、必要としている」でも、美咲は首を振る。「陽菜ちゃんはリーダーみたいにみんなを引っ張れるし、翔子ちゃんは強いし……私なんて、足手まといじゃないかな」その言葉に、陽菜の胸が痛んだ。チーム内の感情のすれ違いが、はっきり表面化した瞬間だった。部室に戻ると、五十鈴先輩が一人で残っていた。「美咲の様子、見たわ」先輩の声は静かだった。「みんな、限界に来ているのかもしれない。特に美咲は」陽菜は俯く。「私がもっとしっかりしてれば……」「あなた一人で背負うことじゃない。でも、リーダーとして、みんなの気持ちを繋ぐのは大事よ」その夜、陽菜は眠れなかった。――敵は強い。負の将なんて、どれだけ恐ろしいんだろう。隠師の役割の重さが、初めて本当に実感として胸にのしかかる。一方、翔子は一人で訓練場に残り、拳を壁に叩きつけていた。「くそっ……もっと強くなりたい!」彼女の目には、使命への燃えるような思いと、どこか焦りが混じっていた。涼子は退院後、静かに分析を続けていた。負人間の出現記録をノートにまとめ、何かを探している。凪は明るく振る舞おうとするが、時折笑顔が引きつる。チームは一つに見えて、実はバラバラだった。岩淵先生は、そんな部員たちを静かに見守っていた。「これからが本当の試練だ」先生の呟きは、誰も聞いていなかった。外では、夜風が冷たく吹き抜けていた。負の将の影が、少しずつ近づいていることを、まだ誰も知らない。
(第4話 終わり)




