第3話 負との接触
第3話 負との接触
神国大学のキャンパスは、いつもより騒がしかった。午後の講義が終わったばかりの時間帯。中央広場に集まった学生たちがざわめき、遠くから悲鳴のような声が聞こえてくる。「何? どうしたの?」陽菜は翔子と一緒に部室へ向かっていたが、異様な雰囲気に足を止めた。スマホをチェックする学生たち。誰かが叫ぶ。「なんか変な人が暴れてるって! 広場の方!」二人は顔を見合わせ、走り出した。広場に着くと、そこはすでに混乱の渦だった。学生たちが逃げ惑い、スマホで撮影する者もいる。中央に、黒いオーラをまとった人影が立っていた。人間の形をしているのに、顔が歪み、目が赤く光っている。手が異様に長く、爪が鋭く伸びている。――負人間。陽菜の脳裏に、岩淵先生の言葉が蘇る。あれは、間違いなく。負人間は近くのベンチを蹴り飛ばし、金属がねじ曲がる音が響いた。逃げ遅れた学生が転び、悲鳴を上げる。「みんな、逃げて!」五十鈴先輩の声が響いた。いつの間にか、部員たちが集まっていた。涼子、美咲、凪、そして岩淵先生も。先生は静かに頷く。「来たか。……君たち、準備はできているな?」陽菜の心臓が激しく鳴る。訓練はしてきた。でも、これは本物だ。負人間がこちらに気づいた。低いうなり声を上げ、ゆっくりと近づいてくる。「今だ。変身しろ!」先生の合図で、みんなが一斉に動いた。陽菜は胸に手を当て、訓練で教わった言葉を呟く。「おもてなしの心よ、力を貸して――隠師、発動!」体が熱くなり、光が包む。巫女風の衣装が変化し、白と赤を基調とした戦闘服のような姿に。手には鈴のような武器が現れる。他のメンバーも、それぞれの変身を遂げた。翔子は赤い炎のようなエフェクトをまとい、拳を握る。「よし、行くよ!」五十鈴先輩は青い光を放ち、リーダーらしい落ち着きを保つ。「みんな、陣形を! 陽菜、サポートを頼む!」初の実戦。訓練とは違う。負人間の気配だけで、膝が震える。負人間が突進してきた。翔子が真っ先に飛び出し、拳を叩き込む。衝撃で負人間がよろめくが、すぐに反撃。黒い爪が翔子をかすめ、彼女が後退する。「強い……!」涼子が冷静に分析しながら、遠距離から光の矢のようなものを放つ。負人間の動きが一瞬止まる。美咲は後方で防御の結界を張り、凪は陽気な動きで敵の注意を引く。陽菜はみんなの動きを見ながら、サポートに回る。おもてなしで得たエネルギーを分け与え、仲間たちの力を高める。負人間のオーラが濃くなり、周囲の空気が重くなる。学生たちの恐怖が、敵を強くしているのかもしれない。「このままじゃ、まずい……!」五十鈴先輩が叫ぶ。負人間が大きく腕を振り上げ、黒い波動を放つ。みんなが防御するが、衝撃で弾き飛ばされる。その時、涼子が前に出た。「ここは私が!」彼女は冷静に敵の動きを読み、隙を突いて強力な一撃を放つ。負人間の体に亀裂が入り、黒いオーラが漏れ出す。「今よ、みんなで!」総攻撃。翔子の拳、五十鈴先輩の斬撃、美咲の結界で閉じ込め、凪の陽気なエネルギーで弱体化。陽菜はみんなの絆を繋ぎ、力を集中させる。負人間が悲鳴のような声を上げ、崩れ落ちた。黒いオーラが霧散し、残ったのは普通の学生の姿――意識を失った誰か。戦いが終わった。変身が解け、元の姿に戻る部員たち。息を切らし、互いに顔を見合わせる。「勝った……?」翔子の声が震える。しかし、喜びはすぐに消えた。涼子が突然膝をつく。彼女の腕に、負人間のオーラが少し残っている。触れた部分が黒く染まり、彼女の顔が青ざめる。「涼子!」陽菜が駆け寄る。涼子は意識を失い、倒れた。先生がすぐに処置を始める。「負のオーラに直接触れたようだ。一時的なものだが、危険だった」救急車が呼ばれ、キャンパスはさらに混乱。負人間の正体は、先生によると「人の負の感情が凝縮して生まれた存在」。倒せば浄化されるが、触れると侵食される。部室に戻った後、みんなは重い空気に包まれていた。「私たち、本当にこれを続けられるの……?」美咲が小さな声で呟く。誰も答えられない。陽菜は涼子のことを思い、拳を握った。――負の感情から生まれる、だって?それが本当なら、敵はどこにでもいる。人の心の中に。チームの結束は、まだ弱い。今日の戦いで、それがはっきりわかった。病院に運ばれた涼子は、数日で回復する見込みだという。でも、陽菜の胸には不安が残った。これが、始まりに過ぎないことを、直感で感じていた。夜、陽菜は一人でベッドに横になり、天井を見つめる。――私たちは、守れるのかな。この聖地を。そして、自分たちを。外では、風が木々を揺らしていた。
(第3話 終わり)




