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オモテナ師  作者: N旅人
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第15話 神国伝説

第15話 神国伝説

神紀2025年、夏。宇治陽菜は、神国の小さなアパートでパソコンに向かっていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、机の上に置かれた巫女衣装の写真を照らす。それは、おもてなし部の活動を記録した一枚。笑顔で並ぶ仲間たち――翔子、涼子、美咲、凪、五十鈴先輩。みんなの目には、希望が輝いていた。あの頃は、負の将を倒したばかり。勝利の余韻に浸っていたのに、現実はすぐに牙を剥いた。街の荒廃、財政難、そしておもてなし部への冷たい視線。最近は、細々と神国伝説という物語を書き続けている。文学部の知識を活かし、隠師の戦いを神話風にアレンジしたフィクション。それが、彼女のささやかな抵抗だった。画面には、最新の原稿が開かれている。『神国伝説 ~神国の聖地を守った巫女たち~』古の巫女たちが、負の闇に立ち向かう物語。おもてなしの心で人々を繋ぎ、絆の力で怪物たちを払う。実在した戦いを、フィクションとして描くことで、直接的な主張を避けていた。陽菜は、仲間たちとオンラインで繋がっていた。グループチャットは、月に一度のペースで活気づく。翔子:「陽菜の新章、読んだよ! めっちゃ熱い! あの戦いのシーン、先輩っぽいキャラがカッコよくていいね!」涼子:「歴史的正確さは問題ないわ。伝えたい内容も上手く織り交ぜてある」美咲:「私、癒し系のキャラが好き……。みんなを守る結界、ちゃんと描いてくれてありがとう」凪:「動画編集、任せて! 次は朗読動画作ろうよ」五十鈴先輩:「遠方からだけど、原稿チェックしたわ。いい感じよ」みんなは、それぞれの進路に向けて道を歩んでいた。でも、心は繋がったまま。陽菜は、岩淵先生にも相談していた。「神国伝説。うまくいくといいのですがどうですかね。」岩淵先生は「今は反響が少なくても、一人でも見てくれる人が居れば徐々に広まってゆくはず」と答えた。その後も陽菜は個人ブログに、物語をアップし続けた。最初は、数人の読者しかいなかった。「昔、神国の聖地に負の闇が迫った時、巫女の姿をした勇者たちが立ち上がった。おもてなしの心で人々を繋ぎ、笑顔を集め、そのポジティブなエネルギーで変身し、闇を払ったという……」フィクションとして明記し、歴史や伝説の再解釈だと注釈を加える。しかし、物語は美しかった。巫女たちが観光客をもてなし、絆を深め、裏で怪物と戦う。二重の顔。表の笑顔と裏の苦悩。勝利の代償として、街が傷つく描写も、丁寧に織り込んだ。読者が、少しずつ増えた。SNSでシェアされ、「心が温まる」「神国に行きたくなった」「巫女さんたちの絆に泣いた」というコメント。ある日、陽菜のブログに、観光客からのメッセージ。「神国伝説、読みました! 神国方面での旅行の参考にします。実際の巫女アイドルさん、いらっしゃるんですか?」陽菜は、胸が熱くなった。――これだ。仲間たちと相談し、小さな活動を再開した。自費で巫女衣装を修繕。神社周辺の広場を借り、無料のパフォーマンス。物語を朗読し、簡単な巫女舞を披露。最初は、観客数人。陽菜がマイクを握る。「いらっしゃいませ。神国伝説をお届けします」翔子がエネルギッシュに舞い、涼子が語り、美咲が優しく手を振り、凪が盛り上げる。観光客が、ぽつぽつと集まる。「これが、伝説の巫女さんたち?」「可愛い! しかも、物語とリンクしてる!」反応は上々だった。おもてなしのエネルギーが、微かに戻ってくる感覚。隠師の力も、かすかに脈打つ活動は、地道に続けた。ブログの更新、SNS投稿、小さなイベント。物語を知った人々が、口コミで広がる。「本物の御師さんが、伝説を再現してるらしいよ」参加者が増え、笑顔が増える。地元商店主が、寄付を申し出た。「君たちの活動、街を元気にしてくれる。少しだけど」観光協会が、会場提供。政治家の一人が、ブログを引用。「神国の新しい文化。神国伝説は、観光振興に繋がる」支援者が、少しずつ増えた。陽菜たちは、「御師」と呼ばれるようになった。古の御師のように、聖地を訪れる人を心からもてなす者。徐々に権威が、取り戻されていく。それでも黒影通信社の報道は、相変わらずだった。「おもてなし部の残党が、自費で活動再開? 復興優先の今、必要か?」黒崎影人の記事が、特に辛辣。しかし、世論の流れが変わり始めていた。「神国伝説、素敵」「メディアの批判、ひどすぎる」「御師さんたちを応援したい」コメントが、陽菜たちの側に傾く。陽菜は、川のほとりで仲間たちと集まった。夕陽が、水面を黄金に染める。「私たち、権威を取り戻しつつあるよ」翔子が笑う。「エネルギーが、戻ってきた!」涼子がノートを開く。「黒影通信社の動き、異常よ。記事の露骨な批判が強くなってきている」美咲が手を握る。「黒幕、ほんとにあそこかも……」凪が目を輝かせる。「次は、どうする?」五十鈴先輩が、静かに言う。「もう少し、民意を集めてから。国の政治家も、こっち側に傾き始めてる」陽菜は、みんなを見回した。活動が拡大。新たな支援者、新たな笑顔。おもてなしで得るエネルギーが、確実に増えている。御師としての権威が、蘇る。しかし、黒影通信社の闇は、まだ発覚していない。黒幕の正体は、霧の向こう。陽菜の胸に、小さな決意が灯る。――いつか、暴く。神国伝説は、現実を変え始めていた。おもてなしの心が、静かに、しかし確実に闇を押し返す。外では、優しい夏の風が吹いていた。

(第15話 終わり)

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