第13話 沈む太陽
第13話 沈む太陽
神紀2024年、冬。おもてなし部の財政支援が正式に打ち切られてから、四ヶ月が過ぎていた。部室は、かつての賑わいを失っていた。衣装は古くなり、備品は最小限。表の活動は月に一度の小さなイベントだけ。観光客の笑顔は少なく、おもてなしで得られるエネルギーは、かつての半分にも満たない。隠師としての力も、明らかに衰えていた。負人間の出現は減ったが、それは街の負の感情が疲弊して枯渇したせいかもしれない。新しい敵は現れない。でも、それは勝利ではなく、ただの小康状態に過ぎなかった。陽菜は一人で、神国の市街地を訪れていた。参道は少しずつ修復が進み、観光客も戻り始めていたが、以前の活気はない。土産物店のおばあさんは、店を畳む決意をしたという。陽菜は川のほとりに座り、水面を見つめる。――私たちは、何を守ったんだろう。負の将を倒した代償は大きすぎた。街の傷は癒え始めても、人々の心の傷は残る。経済の悪化、貧富の差、そしておもてなし部への冷たい視線。部室に戻ると、みんなが待っていた。五十鈴先輩が、静かに言う。「今日で、私の卒業が決まったわ」4年生の先輩は、就職活動を終え、遠くの都市へ行くことになった。
「ごめんね。みんなを置いて」翔子が拳を握る。「先輩がいなくなったら、私たち……」
美咲が涙を拭う。「私も、先輩がいないなんて寂しいです……」涼子がノートを閉じる。「大学側から、部室の明け渡し通告が来た。来月までに」凪が、笑おうとして失敗する。「もう、終わりかな」陽菜は、みんなの顔を見回した。絆は強くなった。負の将との戦いで、誰もが成長した。でも、現実は容赦ない。お金がなく、支援がなく、活動の場が失われていく。隠師としての使命は、まだ終わっていない。真の黒幕は、どこかにいるはずだ。でも、力は弱まり、メンバーは散り散りになろうとしている。陽菜は立ち上がる。「みんな……ありがとう」声が震える。「私たち、よく頑張ったよ。負の将を倒して、翔子ちゃんを救って、みんなで絆を深めて」翔子が呟く。「でも、街は壊れたまま。私たちのせいで」五十鈴先輩が首を振る。「違うわ。私たちは、できることをした。ただ、代償が大きかっただけ」涼子が静かに言う。「真の黒幕は、まだ見つからない。負のエネルギーを操る本当の敵は、別の場所で息を潜めているのかもしれない」美咲が泣き出す。「でも、もう戦えないよ……。力がない」部室に、沈黙が落ちる。岩淵先生が、最後に現れた。「君たちは、よくやった。聖地は守られた。負の将は倒された。それで、十分だ」先生の言葉は優しかったが、陽菜の胸に空虚だけが残った。夕陽が部室を赤く染める。陽菜は窓を開け、外を見る。沈む太陽。神国の聖地は、まだそこにある。でも、おもてなし部の光は、消えようとしていた。「解散……かな」陽菜の呟きに、誰も反論しなかった。みんなが、ゆっくりと立ち上がる。荷物をまとめ、部室を片付ける。最後に、陽菜はみんなを抱きしめた。「みんな、大好きだよ。また、どこかで会おう」涙が止まらない。
部室のドアが閉まる音。おもてなし部は、静かに終わりを迎えた。外では、夕陽が完全に沈み、夜の闇が広がっていた。聖地は守られた。でも、その代償は、希望の喪失だった。
誰もが、傷を抱えたまま、別々の道を歩み始める。真の黒幕は、まだ笑っているのかもしれない。この戦いの意味は、誰も答えられない。ただ、表の笑顔と裏の苦悩は、永遠に胸に残った。仲間との絆と、失われたすべて。希望と喪失が共存する、静かな終わり。
(第13話 終わり)




