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オモテナ師  作者: N旅人
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第1話 おもてなし部

第1話 おもてなし部

神紀2024年、春。春の柔らかな陽光が神国大学のキャンパスを優しく照らしていた。桜の花びらが舞い散る中、新学期の賑わいが始まっている。

「おーい、陽菜! 遅刻しちゃうよー!」勢田翔子の明るく弾む声が響く。宇治陽菜は慌てて駆け寄りながら手を振った。「ごめん、ごめん! 電車が遅れちゃって!」二人は並んで歩き始める。陽菜は文学部二年、翔子も同じく二年。おもてなし部の大切な仲間だ。活動の話になると、翔子はいつも目を輝かせる。「今日から新学期の本格活動だよね! ご当地アイドルとして観光客をおもてなしするんだ! 私、超楽しみー!」陽菜はくすっと笑って頷いた。「翔子はいつも元気だね。でも確かに、今年は神国の観光地で本格的にパフォーマンスするって。先輩がすごく張り切ってるよ」おもてなし部――正式には神国大学おもてなし部。表向きは、神国市の聖地を訪れる人々に、伝統的な「おもてなし」の心でもてなすサークルだ。部員たちは可愛らしい巫女風の衣装を着て踊ったり歌ったり、地元の魅力をPRするご当地アイドル的な活動がメイン。最近はSNSで「可愛い巫女さんアイドル」として少しずつ人気が出てきていた。部室に着くと、すでにみんなが集まっていた。

リーダーの五十鈴陽菜(四年生)は責任感が強く、しっかり者。冷静な頭脳派の河崎涼子(二年生)、少し臆病で癒し系の浦田美咲(一年生)、派手好きでいつも明るい古市凪(一年生)。そして顧問の岩淵先生が、穏やかな笑顔で立っていた。「みんな揃ったわね。それじゃあ、今年度の活動について説明するわ」五十鈴先輩の声で部室が静まる。「今年は特に、神国の聖地に来る観光客を増やすために、私たちおもてなし部が中心となってPR活動を行うの。週末は神国神社周辺でパフォーマンス、平日の空いた時間はキャンパス内でチラシ配りやSNS更新。みんな、笑顔を忘れずにね」「はーい!」翔子が一番元気に返事をする。美咲は少し緊張した様子で頷き、凪は「衣装もっとキラキラにできないかなー」と小声で呟いていた。活動初日の土曜日。部員たちは可愛らしい巫女風の衣装に着替え、神国神社近くの広場に立っていた。観光客の流れが多く、カメラを構える人もちらほら。

「いらっしゃいませ! 神国市の魅力を、私たちおもてなし部がお届けします!」陽菜がマイクを握り、明るい笑顔で呼びかける。翔子が隣でエネルギッシュにダンスを披露し、涼子はクールに歌い上げ、美咲は恥ずかしそうに手を振る。凪は観客を巻き込んで盛り上げる。観光客から拍手が沸き起こる。「わあ、可愛い! 写真撮っていい?」「巫女さんアイドルだって? 初めて見たわ!」反応は上々だった。陽菜はほっと胸を撫で下ろす。みんなで練習した振り付けと歌が、ちゃんと伝わっている。パフォーマンスが終わり、片付けをしていると、五十鈴先輩が声をかけてきた。「みんな、よくやったわ。でもまだこれからよ。もっとたくさんの人を笑顔にできるように、頑張りましょう」夕方、活動を終えて大学に戻るバスの中。陽菜は窓の外を見ながら、満足感に浸っていた。――おもてなしって、こういうことなんだ。人を喜ばせ、自分も嬉しい。そんなシンプルな幸せ。しかし、その平穏は長くは続かなかった。翌週の月曜日。授業を終え、部室に向かおうとした陽菜のスマホに、岩淵先生から緊急の連絡が入った。【今日の放課後、全員部室に集合。遅れるな】短い文面に、陽菜は少し違和感を覚えた。先生はいつも優しくて、こんな強い口調は珍しい。部室に着くと、すでに全員が揃っていた。先生はドアを閉め、鍵をかけた。「先生、どうしたんですか?」陽菜が尋ねると、岩淵先生は静かに息を吐いた。「君たちに、話しておかなければならないことがある。おもてなし部の……本当の役割についてだ」部室の空気が一瞬で張り詰める。「本当の、役割?」翔子が首を傾げる。先生はゆっくりと口を開いた。「君たちがやっている観光PRやアイドル活動は、確かに大切だ。しかしそれは表の顔に過ぎない。おもてなし部は、古来よりこの神国市――神国神社の聖地を守るために存在してきた」みんなが顔を見合わせる。「守る……って、何から?」美咲の小さな声。先生の目が鋭くなった。「異界の敵から。そして、人の心に巣食う負の感情から」誰も言葉を失う。「具体的には、後で詳しく話す。だがまず、君たちには体と心を鍛えてもらう必要がある。今日から、特別なトレーニングを始める」「トレーニング?」涼子が冷静に聞き返す。「ああ。戦うための、な」先生の言葉に、部室は凍りついた。陽菜は胸の奥に、得体の知れない不安が広がるのを感じていた。――私たちに、何が起きようとしているの?外では、桜の花びらが静かに散っていた。

(第1話 終わり)

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