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しゅんしゅんを見に行こう  作者: 石江京子


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2.お出かけの計画

 あっくんは、新幹線が大好きだ。

『しんかんせん』とは言わずに、しゅーんと速く走るから『しゅんしゅん』と呼んでいる。


「そうねぇ。新幹線の見えるところはいいかも」


 ママは少し考え込んでから話した。


「それなら、いっそ東京駅にしようか」

「えっ」


 わたしは予想外の答えに、びっくりした。

 おばあちゃんの家に行く途中で、駅のホームから新幹線の見える場所がある。そこだと思ったのに。

 東京駅はかなり遠いような気がする。


「電車を乗りついで往復(おうふく)したら半日がかりになってしまうけど、ゆうちゃんも一緒に行かない?」

「連休中だよね?」

「うん。休みのときだと通勤ラッシュにもあわないでしょ。東京駅だったら、改札内にお土産(みやげ)を買えるようなお店がいっぱいあるから、何か買って帰ろうよ」


 何かおいしいものを買えると思ったら、わたしは急に行ってみようかなという気持ちになった。


 おばあちゃんのところへ行くときに目にするのは、白くて青いラインが入っている新幹線だった。ママの話だと、あっくんが一番好きなのは、絵本やビデオで知った緑と赤の新幹線がつながっているものだという。

 

 東京駅にやってくる白い新幹線は、東海道・山陽新幹線で『のぞみ』など。緑色をしているのは北海道新幹線や東北新幹線の『はやぶさ』で、赤い色のものは秋田新幹線の『こまち』らしい。他にも青い北陸新幹線の『かがやき』など、東京駅の新幹線ホームに行けば、たくさんの種類の新幹線を見ることができる。 


「計画を立てて、あっくんに見せてあげよう」


 わたしとママは、気づくと東京駅の新幹線の時刻表まで調べていた。

 お昼ご飯を早めに食べて、電車を二回乗りかえて東京駅に着いたら、入場券を買って新幹線ホームに行く。あらかじめ、あっくんの好きな新幹線がいつ来るのか調べておけばいいに違いない。

 緑の『はやぶさ』と赤の『こまち』が連結(れんけつ)している新幹線は、一時間に一本くらい東京駅にやってくることが分かった。 


「これなら、ちゃんと見られるよね。あっくん、喜びそう」

「うん。どんな反応をするか楽しみだわ」


 わたしとママはすっかり乗り気になっていた。いつもママの姿を見ていると胸のもやもやが出てくるのに、今は全く出てこなかった。




 こうして、連休がやってきた。

 当日の朝、ママはあっくんのために、絵本や小さなおもちゃ、おやつに水筒、着がえ、お手ふきなどいろいろ準備する。 


「持って行くものがたくさんあるねぇ」


 思わず口を出すと、ママはすました顔をした。


「当り前でしょ。あっくん、きっと途中から抱っこって言うから、荷物持ってよね」

「うん。分かった」


 普段、ママはあっくんも荷物もこうしたこまごまとしたことも一人で(かか)えているんだなあと改めて思った。

 わたしだって普段は忙しい。学校のこと、勉強のこと、友だちのこと、いろいろやらなきゃいけないことも悩むこともたくさんある。


 あっくんが生まれてから、大変なときはいつもおばあちゃんが来ていて、わたしは日常の小さなことしか、かかわってこなかったように思う。特に昨年から中学受験で(じゅく)に通うようになってからは。

 今日は特別に手伝う日なんだと思えば、素直になれる。


「あっくん、これから東京駅に行くよ。新幹線、しゅんしゅんを見に行くよ」


 わたしは、ママと一緒になってあっくんに話しかける。あっくんは大きく目を見開いて、じっとこちらを見つめる。


「しゅんしゅん、しゅんしゅん」


 単語しかしゃべれないけど、よく理解してくれたみたい。すっかり喜んでいる。

 わたしはあっくんと手をつないで、家を出発した。


 十一月の風は少し冷たいけれど、空はよく晴れていて、いい天気だった。

 あっくんの歩き方は、とことことどこか不安定で、同じくらいの子が走っているのを見ると、やっぱりぎこちない。こうして近くで見ると、ママが気にするのもよく分かる。


 駅までの間に「だっこ」とあっくんが言い出す。ママはバッグをわたしに(あず)けて「はいはい」と応えながら、抱っこする。


「帰りは(つか)れて、ずっと抱っこかも」


 ママの言葉に、すでに疲労(ひろう)感があるような。

 三歳の子どもって意外と重いんだよね。ママのバッグも重いんだけど。


 最寄(もよ)り駅に着くと、ようやくあっくんは歩くようになった。

 やがて、規則正しい走行音がして、電車がホームに入ってきた。


「でんしゃ」


 あっくんは指さして興奮(こうふん)気味だ。


「乗るよ」


 電車のドアが開くと、あっくんはママと手をつないで機嫌よく乗った。長い座席の真ん中にちょこんと腰かける。

 こうして目にすると、本当にかわいい弟だなあ。ママの心配とか、すぐに泣いてしまうところなんか吹き飛んでしまいそうなくらい。


 お昼すぎの時間帯で、車内は空いている。

 あっくんは後ろの窓の外を見たくてしょうがないみたい。靴をぬがせたら、さっそく後ろ向きに座った。ずっと窓の外の景色を見つめていた。


「おとなしい子ね」


 となりに座ったおばさんに声をかけられて、ママははにかむような笑顔を見せた。あっくんは、気に入らないことがあるとすぐ機嫌をそこねて(さわ)いだりするけど、電車のなかでは上機嫌だ。


 乗りかえると、今度は二人ずつ向かい合わせになる座席。あっくんはママの(ひざ)の上で、窓の向こう側を楽しそうにながめていた。


 都心に入ると、さまざまな電車ががたごとと音を立てながらどんどんやってくる。水色や黄緑のラインの電車がたくさん通るので、そのたびにあっくんは「でんしゃ」と大きな声をあげた。


「やっぱり好きなものがあれば、よくしゃべるよね」


 ママとわたしはうなずきあった。何だか、わたしはママと共犯者(きょうはんしゃ)になったような気分だった。



 東京駅に着いて入場券を買い、新幹線の来るホームにたどり着いた。

 たくさんの人とたくさんの音に囲まれている。大きな荷物を引きながら通る人。家族連れ。ざわめき。いろいろな放送。発車ベル。それに、電車の走る音。

 時刻表を調べた新幹線がここに来るまで、あと10分。その間にも、青い屋根の目立つ新幹線『かがやき』が通りすぎていった。


「あーっ」


 ホームまで抱っこだったあっくんは、ママから降りて、新幹線を指さした。興奮しすぎて、逆に言葉が出ないみたいだけど。


「青いしゅんしゅん来たね」


 声をかけているうちに、別のホームに電車がやってくる。あっくんはどこも目が離せない様子。

 いよいよ目的の新幹線のアナウンスが響いてきた。



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