生徒会勧誘
目を覚ます。
視界に映った天井は、入学するために入った寮のものでも実家の天井でもない。"生徒会"に加入する際にあたって与えられたシェアハウスの一室の天井だ。
体を起こしてみると全身の筋肉が悲鳴をあげる。昨日、最強の2人と模擬戦をしたのだから当然のことだ。動けない程ではないが、今日が休みで本当に良かった。
トントン
「輪廻、起きてる?」
「未来か?うん、今起きたよ」
扉をノックした未来が俺の起床の確認をする。すると、扉は開かれて…
「うわ!ゾンビかよ!?」
「ききき筋肉痛でまともに動けない…」
「いやいやいや、ここまで這ってきたのか?」
「そだよ」
「なんのホラーだよ…」
朝だからなのかちょっとボサついている髪が散らばっていて顔が隠れているので、もし白い服ならまるで某呪いのビデオの怨霊だったなと布団を押し除けて立ち上がる。
「おーい輪廻と未来、め……2人とも何してんだ?」
「「気にしないでください!」」
部屋の扉の前でエプロンを畳みながら竜斗"先輩"が姿を現して、今のこの妙な状況を見て呆れている。
「そ、そうか…ひとまず飯は出来てるから出来そうなら降りてこい」
「「了解」」
そうして、竜斗先輩は下のリビングに戻って行って未来はなんとかドアを支えに立った。俺達は朝食を食べるために互いに肩を貸して支え合いながら頑張って階段を降りる。
その際に、どうして生徒会メンバーでシェアハウスすることになったのか原因である昨日の出来事を思い出す。
「そんな緊張しないでくれ。ただの勧誘なんだし」
俺と未来は模擬戦を終えた後に生徒会室に連れて来られていた。対面にはコーヒーを飲みながら寛いでいる竜斗さんがいて、伝説の英雄を前にして俺と未来は死ぬほど緊張していた。
いや、竜斗さんでなくても学園の実質トップの権力を持つ生徒会なのだから否応なく緊張してしまう。
「では、改めて俺は生徒会副会長の如月竜斗だ。今日は2人を勧誘するためにここに連れてきた」
「あの…質問なんですけど」
「あぁ、いいぞ未来」
「なんで私達なんですか?」
手を挙げて俺達を選んだ理由を質問する未来。それは俺も知りたいことだった。
「入学するにあたって新入生のオリジンを俺は把握している。その中でもオリジンに頼り切りになってない2人に注目していたからだな」
「?どういうことですか?」
「単純なことだよ。現状、オリジンを除いた素の格闘で1番強いのが2人ってこと。2年3年の中堅辺りならきっとタメはれると思う」
「でも格闘が強くてもオリジンには勝てないと思うんですが…」
オリジンを持つ人相手に格闘で挑むことは丸腰で戦車に突っ込むようなものだ。当然、敵うわけがない。それが世界での常識で、だからこそ戦場の最前線には優秀なオリジンを持つ人がいる。
いわばオリジン至上主義の世界。オリジンがどれだけ強い効果を発揮するかによって人の評価が変わる世界。残酷な現実ではあるが生きるためには仕方ないのだろう。
「本当にそうか?」
「「え?」」
「例えば、炎を出すオリジンの能力者が居たとしよう。その能力者は炎を周囲に放つだけで大抵は勝利できる。だが、対策されて炎を軽減できる人間に懐に潜られたら確実に負ける。自滅狙いの攻撃が出来るならまだしもその考えができて実行できるのは頭がイカれていないと出来るわけがない」
竜斗さんが言っていることは間違えていない。オリジンでの戦闘に慣れていたら確かに格闘に弱いのだろう。しかし、なぜ人と戦うことを前提にしているのかが分からない。
まるで、人と戦うことが確定しているように聞こえる。
「年々、人間の平均的戦闘能力が高くなるのにつられて魔物の脅威も増している。つい先日、前線に築いていた能力者による防波堤が決壊した。理由はオリジンの持続攻撃を突破されてなす術もなく殺されたからだ」
「「っ!?」」
「その魔物は『ベヒーモス』。速い硬いデカいの三拍子が揃ったそいつにオリジンを発動する間もなくほとんどが体当たりで死んでいる。誰もオリジンを使わない戦闘を知らなかったせいだ」
その事実を語る竜斗さんは真剣な表情の中に悔しさを内包していた。一度、重くなった雰囲気を変えるためにコーヒーに口をつけて落ち着く。
人間は魔物からすれば脆い。対して、低級の魔物でも人間はオリジンを持つ能力者でなければ一切ダメージを与えられない。古代からずっと個ではほとんどの生物に劣るのが人間だ。武器を手に入れて戦えるようになっただけで人間そのものの肉体は弱いままなのだ。
「今の学園の方針はオリジンの扱いだけじゃなく、肉体とそれを動かす技術とメンタルを鍛えるものになった。ただし、急に変えるのも難しいから大罪が1人ずつ弟子として鍛えることにしたんだ」
「えっと…」
「それってつまり…?」
「生徒会勧誘は2人を弟子にするための口実ってことだ」
「「えぇぇ!?!?」」
生徒会室に俺と未来の叫び声が響く。
世界の生ける伝説に弟子入りするというとんでもないことに驚くなという方が無理だ。いわばスポーツのプロ選手が見込みあるからとつきっきりで練習をしてくれるようなもの。
大罪に弟子入りを志願したい人間は大勢いて、そもそも会うことすらほとんど出来ない存在から弟子にならないかというお誘いは能力者なら誰もが夢見ることだ。
「生徒会に入れば今の寮の部屋から数段快適な生徒会役員専用の家でシェアハウスとして過ごせるぞ」
「急に釣り始めた!?」
「ちなみに広さは今の寮の部屋の3倍くらいかな」
「「広っ」」
「おまけで専用のレコードを作るぞ」
一拍を置いて、俺と未来の声が重なる。
「「えぇぇ!?!?」」




