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パンドラ・レコード  作者: 綴り手のツヅ
一章 一年一学期
2/2

副担任は先輩らしいです

 入学式が終わり、自分の教室に着いた俺達は疲れもあるだろうからと30分の休憩時間が与えられた。クラスメイトは早速他の生徒に話しかけていて親睦を深めている。中には元から友達だった人もいるようで、入学式の出来事について感想を言い合っていた。

 聞き耳を立てると、男子のグループも女子のグループも生徒会長の話題で持ちきりで、男子達はまだ知らぬ生徒会長の婚約者に対して怨嗟の言葉を吐いてるいて、女子達は彼女の容貌についてはしゃいでいたり、中にはうっとりとした様子で「お姉様…」と呟くちょっと危なそうな思考に陥りかけている人もいる。頼むから正気に戻ってほしい。

 ちなみに、俺は一人で窓の外を見つめている。

 え?タケはどうしたのかって?あいつは速攻で他の人に話しかけにいって血涙流してるよ。あの裏切り者め。


「ねぇ、君。私と組まない?」

「……?」


 俺も裏切ったタケに呪いの言葉でも言ってみようかと桜がもう散り切って、緑色の葉が見え始めている木を見てため息を吐いていた時に、ふと透き通った女の子の声が耳に届いた。

 彼女が呼ぶ「君」が俺ではなく、勘違いだったら恥ずかしいだけなので周りを見てみるが誰もおらず、なおかつ彼女がまっすぐ自分のことを見つめていて、俺のことを呼んだのは間違いではなかったようだ。

 とはいえ、組むというのはどういうことだろうか?


「そう、君だよ君」

「え、えっと…組むってどういうことかな?」

「それは後で分かることだよ。とりあえず私は「「夢乃ミライ(ゆめのみらい)」。ミライでいいよ!あと、いつも通りの態度で大丈夫だからね」

「あぁ。俺は星継輪廻。呼び方は好きなものでいいぞ」


 彼女…ミライから差し出された手に応じ、俺も手を伸ばして握手を交わす。

 吸い込まれそうな黄金色の瞳の彼女は、黒い髪をゴムで一つに纏めてポニーテールにしていて、女性平均の身長より少し低いくらいだろうか? きっちりと制服は着込まれていて、なんというか優等生って雰囲気だ。

 そんなミライはずっと見られていることに気づいて少し恥ずかしいのかほんのり頬を赤らめて目を伏せており、俺もその様子を見て視線の方向を変える。


(あ)


 その視線の先にはクラスメイトほぼ全員がこっちを観察していて、女子達は学園生活初日で発生したラブコメイベントに目を輝かせていて、男子達は揃ってノートに何か書き始めている。いや、怖い怖い怖い。

 あと、タケ。お前も混ざって何か書くんじゃない。釘っぽいのも頼むから出さないでくれ。


「はいはーい。初日からイチャイチャするのはいいが、全員席に着いてくれ」


 ガラガラと教室の前の扉が開かれて、俺も含めたクラスメイト全員が教室中に響き渡った声の人物に注目した。

 彼は俺達と同じ制服を身に纏っていて、胸にあるバッジは二年生の証明でもある銀色。黒みがかかったグレーの髪に、蒼穹の瞳と挙げた特徴は外国の人のようだが、達者な日本語と顔立ちが日本人っぽい。ハーフだったりするのだろうか?

 それにしても先輩である彼は何か用なのだろうか?今の発言的にも間違えて来たわけではなさそうだ。


「まぁ、俺が誰かは後で説明する。とりあえず座ってくれ」


 突然の乱入者に皆唖然としていたが、言う通りにそれぞれ自分の席に座り、先輩は教卓の前に立った。


「改めて、俺は生徒会副会長の如月竜斗だ。この度、Eクラスの副担任を務めることになった。よろしくな」


 ざわっと教室中に動揺が広がる。その名前は、「最初の希望」という異名のあるシンセシアと同じレベルで知られているものだからだ。

 そして、竜斗は彼がいなくなったら人類は絶滅するだろうと言われていることから「人類最終防衛ライン」と呼ばれている。他にも知識が豊富で錬成魔法を生み出し、オリジンを持つ人間が扱う武器…通称『原点録(レコード)』を作り出して戦う手段を増やしたことから「アルケミスト」と呼ばれ、間違いなく生ける伝説だ。

 この点においては他の大罪の六人よりも大きく人類の生存に貢献しているのは間違いないだろう。まさか、今日だけでそんな要人に会えるとは思わず、ほとんどのクラスメイトは口を開いて驚いている。


「とはいえ俺は仕事で忙しいからサポートしに来る機会は少ないだろうが許してくれ」

「ところで担任の先生というのはどちらにいかれたのでしょう?」


 俺の二つ前の席にいる女子が手を挙げて質問をした。そういえば体育館からここまで案内していた先生は休憩以降どこかに行ってしまっていた。


「あの人は保健室で寝てる」

『えぇ…』

「俺達大罪がそれぞれの一年のクラスの副担任を務めることが今日決まったことを伝えたら一年の担任が全員ぶっ倒れてな…そういうわけで他のクラスでも大罪が対応してる」

『あぁ…』


 困惑と納得がクラス中で一致する。

 一応生徒という立場ではあるものの、英雄どころか救世主でもあり大罪の七人は反旗を振り返せば世界は滅ぶためそれの抑止のためにも非常に権力が高くなっている。ちょっとした軍隊くらいなら簡単に動かせると噂もある。

 そんなトップ中のトップが突然「君のサポートに入るからよろしく!」されたら卒倒するのも仕方ない気がする。

 皆が心の中でまだ名前も知らぬ担任に回復を祈るのであった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「では、君達には俺と戦ってもらう」

「え」


 あのあと、俺達は校庭に連れられて早々に竜斗さんがそう告げた。

 当然、俺達の反応はというと…


「やったぁぁぁ!!!」

「あの強欲の英雄と戦えるって…ヤバすぎんだろ!!」

「拝啓お母さん。私、どうやら天国に来ちゃったみたいです!」


 意外と思われるかもしれないが、ほとんど全員が大いに喜ぶ結果になった。

 なんせ、あの如月竜斗と手合わせできるのだから。例えるなら、プロの野球選手が自分達と一緒にプレーしてくれているようなものだ。はしゃいでしまうのも無理がない。

 かくいう俺も興奮していて武者震いしている。


「質問です!」

「いいぞ。どうかしたか?」

「戦闘の形式はどうされるのですか?」

「そうだなぁ…」


 先程担任の先生の行方を質問した女の子がまた質問をして、竜斗さんはその答えにちょっと迷っている様子だ。

 そんな時に少し離れた場所から聞こえる声があった。


「私と竜斗様対、私と竜斗様の生徒達全員ではいかがでしょうか?」

「お、いいな。それでいこう」


 校舎の方から生徒達を後ろに連れてシンセシアさんが現れて、その提案はすぐ採用された。

 ちなみに、俺のクラスメイトの男子達は完全にシンセシアさんに目を奪われている。婚約者がいるのだからそういうのはやめてやれと思う。


「ねぇねぇ輪廻」

「ミライか。どうした?」


 男子達に呆れの視線を向けていたら、服をつんつんと摘まれて小声でミライに話しかけられた。


「竜斗さんとシンセシアさんの二人の表情、特に柔らかい気がしない?」

「そう言われると…」

「それとみんなシンセシアさんの可愛さに目を奪われてるけどさ、薬指の指輪…竜斗さんの薬指にも同じのない?」

「あ…」

「……まだ気づかれてないっぽいし」

「言わぬが仏…だな」


 このことを知られたら、たちまち男子達が竜斗さんを襲って返り討ちにあい、無惨な屍が積み上がる阿鼻叫喚な地獄になるのが簡単に思い浮かんだ。


「さぁ、ひよっこ共」


 その声が聞こえて俺とミライで二人は同時に竜斗さんの方向を向いた。

 するとそこには先程まで制服だったのに、いつのまにか戦闘服に着替えている竜斗さんとシンセシアさんがいた。竜斗さんは黒を基調としたフード付きのローブを纏っていて、シンセシアさんは白いシスターのような服になっていた。

 そして次の瞬間、まるで嵐と呼ぶべき魔力の奔流が俺達を吹き飛ばそうと叩きつけてくる。


「「かかってこい」」


 慈愛や優しさをまったく感じない笑みと挑発的な手招きと言葉に、俺達一年の二クラスは大罪二人に立ち向かうのであった。






 結果は歴然。


「や、やっぱり…強すぎる」

「あれが世界トップ…」


 即興だったため作戦も何もなかったものの生徒40人で挑んでも誰一人として埃一つつけることさえ叶わなかった。ほとんどの生徒が地に倒れていて、息も絶え絶え。

 怪我をして血を流した人はいないけど、俺を除いて男達は全身泥まみれだ。


「君、名前は?」


 四つん這いになって息を整えようとしていたら名前を竜斗さんに聞かれた。


「顔を上げなくてもいい。言えそうならゆっくり教えて欲しい」

「は、はい……ほしつぐりんね…です」

「輪廻…じゃあ、君は?」


 竜斗さんは俺の隣にいたミライにも名前を聞いた。


「ゆめのみらい…です…お二人とも、強すぎ…」


 ミライも仰向けに倒れて俺と同様に肩で息をしている。

 ぶっちゃけた話、死ぬほど辛かった。竜斗さんもシンセシアさんも武器は使わず徒手格闘のみだったが、向かってくる拳や蹴りは「鬼」を彷彿とさせるもので、反撃を考えることすら出来なかった。

 だけど、俺含む生徒の中で直接攻撃を全て回避したのはミライだった。格闘は苦手なのか雑な動きではあったが、ギリギリで躱していて感心したのと同時にちょっとした悔しさもあった。


「どうだ、シア」

「えぇ。十分な実力…期待できます」

「「?」」


 顔をあげると竜斗さんの隣にはシンセシアさんが立っていて、満足そうに優しい笑みで微笑む。竜斗さんも何かをシンセシアさんに確認して、間をおいて笑みを浮かべて驚くことを提案してきた。


「二人とも、生徒会に来ないか?」

「「え……えぇぇ!?!?」」

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