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パンドラ・レコード  作者: 綴り手のツヅ
一章 一年一学期
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プロローグ

 五年前。世界は大混乱に陥った。

 ヨーロッパやアメリカで、とんがった帽子にボロボロのローブを纏った醜悪な人間のような何かが何もないところから炎を生み出して町や村が壊滅したとニュースが発表された。中国でも赤い巨大な鳥が目撃されるようになり、南極ではUMAとされているニンゲンの目撃が急激に上昇し、SNSで二足歩行の巨大な豚が熊を投げ飛ばす動画がアップされるようになった。

 日本も例外ではなく鬼や妖狐に河童などの妖怪の目撃がされるようになり、比例して重傷を負う人が急激に増えることになり、挙句には死者も多数出てしまっていた。中には、内臓全て抜き取られたり、神隠しかのように行方不明になる人さえもいた。

 都市伝説や伝承などで登場する「魔女」や「オーク」などの架空とされていた化け物がまさか現実として現れて人を襲い、なすすべもなく死者を多数出したことで人類の中に絶滅という最悪のシナリオがよぎった。

 しかし、ある日吸血鬼を討伐したという報告が全世界に広まることになる。

 それを境に様々な話が行き交うようになり、少年が鬼に殴り勝ったと噂になったり、ゾンビがただの遺体に戻った現象が発表され、ドラゴンを吹き飛ばす英雄が誕生し、魔女の魔法を無効化に成功した者が現れた。偉業なのかどうかはちょっと悩ましいがマーマンの調理法を確立した者も現れた。

 人間はまだ負けてなかったようだ。

 いまだになぜ人間に宿るようになったのかは不明だがアニメや漫画でもよくある能力のようなものが若い子供を中心に発現し、人々はそれを「オリジン」と呼んだ。また、そのオリジンを持つ人間は「魔力」という未知のエネルギーを獲得し、されを「魔法」として使用ができるようになった。

 オリジンを持つ人間は化け物…総じて、魔物に唯一対抗・討伐が可能な存在となり、人は彼らに希望を持った。その中でも飛び抜けて強かった七人の少年少女の偉業により、世界は一時的な平和を取り戻すこととなる。

 そして人々は、その惨劇を『黙示録アポカリプス』と呼び、再び訪れる可能性がある災厄に備えオリジンを持つ子供達を育成する学園を世界でオリジンの扱い方を理解するのが最も早く、魔力を魔法などの攻撃手段として確立した日本に設立し、その分校を各国に設置する。


 おそらく世界で最も安全で危険な場所であるその学園の名は『幻綾学園』。

 そこで「星継 輪廻(ほしつぐりんね)」の物語は始まる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『君達がいずれ、世界を救う英雄になることを切に願う』


 学園長の挨拶の最後にそれで締めくくられ、英雄というその言葉が俺を含めた新入生の心に留まる。

 この学園は、五年前に突如として世界に発生した魔物から人類を守るためにオリジンを持つ子供に戦闘技術を叩き込むカリキュラムが組み込まれている。そして、いづれは戦場で唯一の存在であり、人に希望を与える英雄を誕生させることを目的としている。実際に学園には何人か英雄と呼べる生徒が在籍しており、新入生の中には今の三年生や卒業生に助けられて英雄を目指した者も少なくない。

 俺も例外ではなく英雄に憧れて、狭い門かつ試験に合格し、この場にいる。


「それでは、最後に生徒会長からの挨拶とさせていただきます」

「はい」


 学園長の挨拶のあとのプログラムは滞りなく進み、最後の挨拶となった。幻綾学園を代表する生徒の清涼な声が体育館内に響き渡り、少女が登壇する。階段を登る音とともに全員が彼女に注目し、その少女を一目見て男女問わず息を呑み込み、目を奪われる。

 ちょうど腰あたりの長さの絹のような白い髪に、日焼けがまったくない肌。そして特徴的な真紅の瞳。"美"そのものを体現したような容姿でありながら纏う雰囲気は慈愛の満ちたもの。

 ほとんどの生徒が彼女を見てうっすらと頬を赤らめているが、それは仕方ないだろう。それほどまでに彼女は美少女なのだから。


「ご紹介されました幻綾学園生徒会会長を務めます、2年の「シンセシア・ミネダード」と申します」


 今度は、動揺と驚愕が波のように広がっていく。その名前は世界的にもあまりにも有名で、誰もが知っているものだからだ。

 「シンセシア・ミネダード」

 その名前は世界で最初に魔物を倒した人間で偉業を為した七人のうちの一人だ。また、幻綾学園で最強の七人とされる『大罪』の一人でもある、まさに伝説的英雄その人だ。


「まずは、皆様のご入学おめでとうございます」


 まだ生徒達が混乱していることを気にすることなく彼女は言葉を続ける。

 情報の整理がつかないものの、美貌を考えないものとして世界で最高の実力者の言葉は聞きたいと誰しもが耳を傾け、注視する……

 そして、衝撃的な一言が告げられる。


「私、婚約してますので告白は無しでお願いしますね?」

『ノォォォォォォ!!!!!』


 悲報。一目惚れして失恋した時間1分以内の生徒が量産される。

 彼女は嬉しそうに左手を出して薬指に嵌められている指輪を見せつけ微笑むと、おそらく失恋しただろう生徒は血涙を流し叫び、軒並み先生達により頭上にタライを落とされている。いや、あれはどうやっているんだろう。無駄に洗練されている気がするし、何度もこういったことがあったのかもしれない。

 まぁ、そうだとしたら何をしているんだと言うしかない。


「気を取り直しまして…貴方達には学園長が期待する英雄を目指してもらいます。そして、私は私達に並び立てる後輩を期待します。そう、私達…『大罪』に」


 そんな彼女自身が起こした茶番?のようなものを意に返さずに微笑みを絶やさずに彼女はそう言う。そこには先ほどの慈愛だけの雰囲気に歴戦の風格が混ざり、迫力を感じる。

 それだけで、ざわついていた体育館の中があっという間に静かになる。


「貴方達は様々な理由で入学されたのだと思います。憧れ、守りたい、助けたいからといった理由はもちろんのこと復讐、殺戮欲求などの理由もあることでしょう。その上であえて私は歓迎します」


 この学園は主に戦闘技術を学び訓練する学園だ。

 大体が夢や将来を見据えて入学する一般の高校とはまったく異なり、幻綾学園は魔物との実戦もあり命を落とす危険を孕んでいる。

 つまり、幻綾学園に入学すると言うことは大怪我を負っても、死んだとしても為したい何かがあることになる。そんな覚悟を持たない人は容赦なく試験で弾かれるのだ。故に、強くなりたいと望むのであれば理由がどのようなものであれ、彼女は肯定して歓迎する。


「自分の目的のため強くなれ。以上で、挨拶を終わらせていただきます」


 もはや弱肉強食に近い世界となった今、彼女の言うように強くなるしかない。目的を達成するためだけでなく、力が無ければたちまち死の渦に飲み込まれてしまう。そんな厳しい現実に、最高実力者の彼女の叱咤は身が引き締まる気分だ。

 そして、一度礼をした彼女は降壇して姿を消した。その後はそのまま式は終了し、クラスごとに順番に教室へ行き、担任の先生からの授業などこれからについて説明を受けるようで、自分のクラスから四つ左にあるクラスから移動を始めた。


「流石、『大罪』の一人って感じだったな輪廻。見えた魔力だけでも俺の倍はあったし」

「そうだな「タケ」…俺達も頑張らないと」


 移動の順番までまだ時間があり、ちょっと暇だと思っていた時に肩を組んで俺に話しかけた男は、「鎹 武尊(かすがいたける)」。幼少期からの幼馴染だ。俺はこいつをタケと呼んでいる。


「にしてもタケがちゃんと聞いてたの珍しいな」

「うっせぇ。流石の俺も最強の一人の話は聞くぞ」

「本当は?」

「一目惚れして失恋して発狂してタライぶつけられてました」

「お前もかよ」


 たんこぶがなぜか出来ているなと思ってたけどそういうことだったのか。まぁ、気持ちはよくわかる。俺も彼女の魅力に惹かれていたのは事実なのだから。

 とはいえ、れっきとした猛者なことを忘れてはならない。華奢で儚げでも、まず間違いなく俺たちを遥かに超える実力者だ。それに、魔力が感じられただけでも俺たちの倍以上もある。魔力の量がすべてというわけではないけどある程度の指標として比較され、一般的に多いほうが強者になる。おそらく、最低でも自分達よりも二倍以上には強い可能性が非常に高い。


「お、そろそろ俺達のクラスの番だな」


 隣のクラスが移動を始めたのを確認して、タケは自分の席へ戻っていった。


(あの人に会いたいな…)


 ふと、この学園を目指す理由となった人物の姿を思い浮かべて、先生の指示に従い体育館を後にするのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 新入生が体育館を去り何人かの教師が片付けを始める中、ステージのすぐ隣にある控室では先ほど登壇し、演説をしていたシンセシアがソファに座り、楽しそうに誰かと会話している。その誰かも、コーヒーの入った紙コップ片手に窓辺に腰掛けて笑っている。

 その誰かの胸のバッジは、二年生を証明する同じ銀の校章であり彼はシンセシアと同じ二年生の同級生なのだろう。それも実力主義な学園が故に権力が強い生徒会長と恐れなく談笑できるくらいには親しい仲なのが分かる。


「シアの目からみて今年の新入生はどうだった?」

「そうですね…去年の私達と比べますと平均は今年の方が良いと言えるでしょうね。もちろん私達『大罪』を除きますが」


 シンセシアの発言は正しい。

 『大罪』の功績により、一時的に世界から魔物は大幅に減少したものの年々出没数が増えていくのに合わせて幻綾学園の合格基準は高くなっており、新入生の質は比例して上昇している。

 また、魔物の脅威が増えたことで自分の身を守る術やある程度の魔法などアポカリプスがあった一年後から全ての教育機関に組み込まれ学ぶことになったというのも理由の一つに違いない。


「逆に言えば、異質はあまりいないようにも考えられます」

「異質はいない…か」

「はい。現時点はですが」


 戦闘員の質が向上したことは喜ばしいことだ。しかし、異質と呼ぶべき生徒は二人の見立てではいないと結論を出す。

 確かに、個々の実力は魔物を倒して平和を維持する組織の部隊に引けをとらないものの自分たちのような圧倒的な存在はなかった。

 とはいえ、まだすべて決まるわけではない。授業で鍛えるのはもちろんのこと、実戦や波乱、佳境を乗り越えるたびに確実に実力は増す。願わくば、”きっかけ”と呼べる機会に恵まれればいいのだが。


「育つまでは俺達が守る。それでいいさ」

「ふふっ…そうですね」


 青年はコーヒーを飲み干し紙コップをごみ箱に捨てるとソファに座り、待ってましたかのようにシンセシアは自らの頭を青年の肩に預けて、嬉しそうに目を細める。青年も仕方ないなと思いながらも頭に手を乗せて髪型が崩れないように撫でる。偽りなく絶世の美少女が甘えてくる彼女はどうしようもなく可愛くて、誰もが虜になるその魅力は彼女が背負う『色欲』の大罪にピッタリといえる。


「会長、副会長。今後のことで相談があるのですが」

「りょりょりょ了解いたしました!……ふぅ…すぐに向かいますので、生徒会室でお待ちくださいな」

「お、おう…ちょっと待ってくれ」

「? はい、了解しました」


 ノックの音と他の声が聞こえて、慌てて離れる。イチャイチャしていたことがバレたかと思ったが、扉越しだったおかげで何も気づかれてないようだ。そして、話かけた生徒が相談したいというのはおそらく新入生に向けた”サプライズ”のことだろう。二人はすぐに切り替えて撤収の準備を終えて控室から外にでる。


「では、行きましょうか『竜斗』様」


 シンセシアは入学式の挨拶で見せたものよりも可愛い微笑みを浮かべて、荷物がない方の手を伸ばす。

 『強欲』の大罪人『如月 竜斗(きさらぎりゅうと)』はそれに応じ、仲睦まじく生徒会室にもどるのであった。

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