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いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪ 

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪ その4

 前世で父王にぶっとばされて亡くなった、王太子アルフォーデ(前世のアンディ)は転生した。


 ニフラン侯爵家の次男、アンディ・ニフランとして。



 彼の両親と兄と姉は、彼が普通じゃないと早い段階で気付いていた。

 だって彼の初めて喋った言葉が、とんでもない暴言だったからだ。


「ちくちょー、ぼうにょくおやちが! ちにくちゃれ、ちゃんくーる

(畜生ー、暴力親父が! 死に腐れ、ジャンクール!)」


 普段の精神状態なら、絶対にしないミス。

 けれどこの時唐突に、赤ん坊であるアンディの脳内に流れ込んで来た夥しい情報のせいで、そんな余裕がなかったのだ。

(うるさい、うるさい、うるさい、何だよコレ、頭が割れる。くっそぉおおおおおおおー。

 ん、僕、もしかして赤ん坊になってんのか?

 あの親父に殺られたのかよ!!! ぐわぁー!!!)


 との後に、「畜生、暴力親父が!」の(くだり)に繋がるのだった。

 


 

「「「「えっ、今のアンディが喋ったの? 

 嘘だろ(でしょ)!?」」」」




 ニフラン家に遅れて誕生した、第二子の姉とは10歳違いの可愛い末っ子(アンディ)


 癖のある緑髪の巻き毛で、猫のようなつり目の黒瞳は、まるで人形のように可愛いらしい。


 それが眠っているベッドの上で、こんな寝言を叫んだのだから。

 信じられず、目を見開く一家だ。



 彼の傍にずっといたのは、乳母が数日間里帰りした代わりに寝泊まりしていた母、ロンドアネルである。

 馴れない育児を心配し、様子を見に来たのはなんと家族全員だった。


 使用人は気を利かせ、「何かあったらお呼び下さい」と言って、家族団らんを応援し席を外していたので、この衝撃は他者には知られていない。




 まだ1歳前のアンディはいつも、「アババァ、ダァ、ヒシャア、デュフフ」等と声をあげ、愛らしい笑顔でみんなを見ていた印象が強い。


「今日も可愛い寝顔と寝言が聞こえるのかなぁ?」

 そんな軽い気持ちで、息子と弟を覗きに来たのに。 

 何てことだろう!



 だがタイミングの良いことに、ニフラン侯爵家は過去の王家や貴族の歴史変遷を綴る、栄誉ある上位文官の一族だった。

 表に出せないシークレット案件も、その任に就く当主の父トリニーズと兄ブランシュは、その幾つもを知識として蓄積していた。



「お父様、今の発言を聞きましたか?」

「ああ、聞いた。世間を知らぬはずの赤ん坊が、発するものではなかった。これはきっと……」


「そう、ですよね。記憶持ちですね……」

「あぁ、そうなるだろうな」


  眉をひそめ、2人は真剣な顔で頷き合った。




◇◇◇

「え、じゃあ。アンディは、昔の記憶を持つと言うのですか?」

「ああ、恐らく。ブランシュらとも聞き取れた部分を合わせてみたが、アンディはアルフォーデ王太子だろう。

 ジャンクール国王は5代前の我が国の王だ。

 彼を暴力親父と言うのなら、確実だ。


 王太子はジャンクール王に殴られて、全身打撲と脳内出血で亡くなっている。

 表向きは病死だがな。母親も毒殺されている。

 恐らく無念で死にきれず、生まれ変わっても記憶が消えなかったのだと思う」


「そ、そんな。辛い記憶を背負って、生まれてきたと言うのですか? なんて不憫な」


「たぶん、そう言うことだ。過去にも何件かの事例が報告されておる。トラウマの為か人を信じられずに、碌な人生を送らなかったようだが」


「ではアンディもそうなると言うの? 酷いわ、こんなに可愛い我が子なのに!」


「いや、全員が不幸だった訳ではない。穏やかな家庭で人生を終えた者もおる。

 その時は貴族家でも、仲が良かったらしい」


「仲良くすれば、トラウマは薄れるのかしら?」


「どうだろうな。アンディがアルフォーデ王太子の生まれ代わりなら、抱えているものや知性もかなり高い。

 一寸の闇も感じさせてはいかん。できるかの?」


「やりますよ、お父様。アンディはきっと、この家族なら安全だと思って、選んで生まれてきたんだ。

 弟の心を守るよ」


「私だってそうよ。私の唯一の弟なんだもの。

 幸せにさせるに決まっているわ」


「俺はもう、心を決めている。

 この子は子供扱いせず、対等な言葉を使っていくし、決して誤魔化したり不当なこともしない。

 だが息子として大事にする」


「私も大事にしますわ。この子は遅くに生まれてくれた愛の結晶だもの。

 この年の私を選んで宿ってくれたのは、きっと運命だと思うわ。

 前世があってもなくても、私の子供よ。

 それに前世なら誰にでもあることだもの、みんな少しは影響を受けているはずよ。

 この子はそれが多いだけ。

 愛していることは変わらないわよ」



 父トリニーズ、母フレンベス、兄ブランシュ、姉ビルランジェは、アンディに対して固い誓いをした。



 思いがけず前世を思い出し、うっかりと寝言として叫んだアンディは、眠っている振りをして大人達の会話を聞いていた。


(どうせ、気持ち悪いと思っているのだろう? 捨てられるのかな? 大人なんてみんな勝手だからな!

 でも、今度はただでは死なないぞ!)



 前世に学んだ魔法学や知識も覚えているから、一矢報いてやる。かかって来いや!


 なんて薄目で話を聞いていたアンディだが、彼らの気持ちを聞いて複雑になった。


(どうせ口だけだ。人間は理解できない者を恐れるんだから)




◇◇◇

 そんな感じで始まったアンディの人間不信は、いきなり頓挫した。


 斜に構えた彼だったが、家族は赤ちゃん言葉を使うことなく、大人のように接してくれるし、嘘も誤魔化しもない。


 冗談を言って笑わせようとする時も、父トリニーズは必ず「冗談だから深く考えるなよ」と念を押してくる慎重さだ。


 アンディは思考を読める訳でもないのに、常にトリニーズが聖人のように振る舞っていた結果、彼は悪い狡猾な奴らにまでつけ込まれるまでになった。


「貧乏で明日のパンも買えないのです」「子供が病気なんです」「親が死んで学費がなくて、退学になりそうなんです」「病気で働けないのです」等などと、領主がお人好しだと噂が立ち、タカられたり騙されだしたのだ。


 普段から誤魔化しなどしないトリニーズだから、経営はホワイトで、福利厚生も充実している。

 領地に住む住民はとても満足しており、みんなから好かれていた。

 だがその分、あまり蓄えは多くなかったが。


 困窮する民からの申請には時間がかかると言って、自らの財産を切り崩し施すほどだった。それを何故か夫人も止めないのだ。


「もし騙されたとしても、そこに苦しんでいた人がいなければ良かっただけですもんね」

「そうだよな」

 なんて言って微笑んで。



 それと言うのも、アンディに恥じぬように生きようと誓ってから、ますます誠実さに加速がかかっていたからだ。

 特に不幸な悩みを聞くと、アンディと重ねて気持ちが揺れてしまう。


 探り探り、家族と関わっていたアンディだが、あからさまな可笑しな状態を知り、頭を抱えた。


「もう分かったよ、お父様。家族のことを信じてるから、聖人みたいになんてならなくて良いから。

 そんなに甘くして裏取りもしないで、悪人に金を流せば犯罪に繋がるでしょう。

 それに誠実に稼いだお金は、家族に使うものでしょ?

 お姉様の持参金もなければ、足元を見られて辛いのはお姉様なんですよ。

 これからは領主としてだけでなく、父親としてもう少しお考え下さい!」


 その言葉に、

 家令が「よくぞ、言って下さりました。アンディ様」

 執事が「まさに、その通りでございます。さすがアンディ坊っちゃん」

 侍女もメイドも「もっと言って下さい、坊っちゃん。私達だって怪しいと思うタカリにも、旦那様は疑いもせず…………」

と、(アンディ)にエールを送ったのだ。


 その声にトリニーズは、「そ、そうだな。すまんな、アンディ。その通りだよ、はははっ」と声をあげて笑い、そして少し泣いていた。


 いつも当たり障りのない言葉しか発しないアンディが、この時ばかりはかなり強い勢いで批判してきたからだ。

 それも姉のことまで配慮してくるなんて。



「これから気を付けるよ。ありがとう、心配してくれて。さすが俺の息子だな、頼りになるよ。

 ははっ、ずびっ」


「僕は別に……。もう、こんな子供に謝らないで下さいよ」


 アンディの嘆息した様子に、いつもは少し緊張感があった邸内が柔らかな雰囲気に包まれたのだ。


 それがアンディから家族に心を許した、第一歩だった。




◇◇◇

 その後はもう、開き直った(アンディ)は普通に家族に接することにした。

 その際の年齢は僅か3歳であった。


 もう既に一度、トリニーズを戒めてしまい、それを家令や執事達に見られ、今さら淡々とした状態になるも変だと思って猫を被るのを止めた。


 父トリニーズを観察していたように、母フレンベス、兄ブランシュ、姉ビルランジェにも隠蔽魔法を使い、様子を見ていた彼だから、瑕疵なんてない彼らを受け入れない訳にはいかなかった。

 と言うよりも、純粋に嬉しかった。

(こんなお人好しもいるんだな。昔の城にいた者達とは全然違うんだもん)



 素を出した彼に、家族は泣いて抱きしめて、ちょっと引きぎみの彼に、「愛してるよ。生まれて来てくれてありがとう」と、離してくれなかった。


 アンディは照れくさいと同時に、穏やかに過ごせる暖かな家庭を知ったのだった。





◇◇◇

 その頃3歳の彼は、魔法を普通に使えた。

 2歳まではどうしても発音が伴わず、魔法の詠唱を失敗していたので、詠唱なしで簡単な魔法を使う程度に留めていたのだ。

 大失敗したら、家族に負傷させてしまう危険があるからだ。


 どんな魔法を使う気だったんだか?



 伊達に厳しい王太子教育を受けて来た訳ではないので、危機管理はしっかりしていた。


 そして………………。

 トリニーズを騙して金を掠め取った奴らを、アンディは既に2歳の時から追跡魔法によって行方を追い、その行動を把握していた。

 空間転移魔法は前世から得意だったので、生まれた時から何度も挑戦し、ついに1歳では詠唱なしでいろいろ移動できるようになった。



 ただ赤ん坊はすぐ体力を消耗し眠くなる。

 それに周囲が寝静まらないと活動ができない制限付きだった。




◇◇◇

 やっと3歳になった時。

 侯爵家の庭を散策し、「絵を描くのに一人になりたい。集中するのに少し離れていて欲しいの」と、可愛くお願いすれば即許可がでたのだ。


 その時にはもう、深夜散歩した森の中で仲間になった魔タヌキに、自分(アンディ)の姿に変身して貰い、身代わりとして置くことで自由に活動しだした。

 如何せんタヌキの描く絵だから、下手くそである。

 でもそれを見て、侍女は安心した。


「勉学も優秀で言葉遣いも丁寧。あの融通の利かない頑固爺の家令にも気に入られる聡明さ。

 けれど、絵が壊滅的って。このギャップ最高です。

 天はやはり贔屓はしないと安心できますわ!」


 その侍女は、他の侍女やメイド達にもそれを共有した。

 すると「坊っちゃんは絵が好きだけど、下手だから恥ずかしいのですね。しょうがないですから、離れて見守りましょう」と、絵を描く時はみんなが少し距離を取ったのだった。


「キャー、可愛い。顔も可愛らしいけど、あのツンデレ具合最高」

「誰にでも得て不得手があるのですね。なんか安心しました」

「あの下手さも愛おしいですわ。上手でなくても頑張っていらっしゃる姿、頭が下がります」



 いつの間にかそれは、家令にも執事にも他の使用人達にも伝わり、最終的には家族にも伝わった。

 そしてみんなで、ほっこりしたのだった。


 それはアンディの本意ではなかったが。



 ちなみに魔タヌキとは、主人と使い魔の契約を結び、アンディは報酬を渡すことになっている。

 魔タヌキは深夜にアンディに出会った時、莫大な魔力で殺られると覚悟した。

 それからは彼に忠誠を誓っている。

 彼には親友の魔キツネもいる。




◇◇◇

 魔タヌキが、絵を描いている間に。


 ちょっと空間転移で出かけ、被害にあった金額を悪人からサクッと回収してきた。

 隠蔽魔法も自身にかけていたから、白昼堂々の犯行だった。

 だから相手は全く気付いておらず、警戒もしていないのだ。


 そのお金は余裕がなくて減額されていた孤児院と教会に、トリニーズ名義で寄付して来た。

 元々寄付はニフラン家の個人予算でしていたので、個人予算が減れば寄付も減っていた状態なのだ。

 悪党のせいで、とんでもないところにしわ寄せが来ていたのだった。




◇◇◇

 その後にアンディはトリニーズに、国へ詐欺の被害届けを出させた。

「お父様、ご覧ください。金を借りた者達の本当の名前を調べました。

 虚偽の報告をした届けを出し、他に被害が及ばないようにしましょう」


「どうしてこれを? ああ。頑張って調べてくれたんだね。ありがとう、アンディ」


 トリニーズは彼を優しく抱きしめた。

 突然のことに戸惑うも、嫌な気持ちは全くしないアンディ。


 そしてトリニーズに紡がれる言葉に、感情が激しく動く。

「お前が優秀なのは分かっているよ。でも危険なことはしないでおくれ、俺はお前のことの方が大事なのだから。

 俺に足りないことは、直接伝えておくれ。不甲斐ない父ではあるが、それなりに生きてきた経験と少しばかりの伝手もある。

 少しだけでも託しておくれ」


「大事? 僕のことが?」

「ああ、そうだよ。今も辛い記憶を持っているのだろう?

 出来るならお前には、嬉しい気持ちだけで生きて欲しいよ。

 どうして神様は、こんな思いをお前にさせるのか。

 もうずいぶんと辛いことを経験してきただろうに。

 明日になれば、辛い記憶などなくなれば良いと何度思ったことか。

 優秀でなくて良いから、元気に育ってくれるだけで十分なのに」


 トリニーズとこんな風に話したことはなかった。

 いつも前世の記憶のことは、触れられて来なかったから。


 嗚咽を堪える父と、泣いていると気付かない息子。



「馬鹿だね、お父様は。こんな便利な子供、いくらでも利用すれば良いのに」

「お前が悲しむくらいなら、俺が命をかけて何でもする。 だから……そんなこと言うな、言わないでくれ…うっ」

「……分かった。約束するよ」


 その様子を陰から見守る家族と使用人達は、感動していた。家族以外、辛い記憶のことはよく分かっていないが、そこら辺は「おねしょか何か」だと、各自で想像して補ったようだ。




◇◇◇

 その後家族とアンディは、前世のことについて話をした。

 そして過去にあった出来事を知り、共に悲しんだ。

 

「レイカ様と、ついでにジャンクール様の墓参りをしようか? 申請をすれば、王家の墓に花を手向けることをできるんだ。

 アンディは空間転移できるのだろうが、それではあずましくないだろう? それにみんなで挨拶もしたいんだ。息子さんのことは大事にしてますってさ」


「お父様、ありがとうございます」


「あら、私だって挨拶するわよ。可愛い息子ですよって」

「俺もだよ。頼りない兄を助けてくれてます。ありがとうと言ってくる」

「私だって行くわ。世界一可愛い弟は、私にお任せ下さいとね」


 みんな良い顔で笑っている。

 それを見てアンディは、改めて良い家庭に転生したのだと思えた。

 前世の記憶がなければ、それに気付くこともなかっただろう。


「ありがとうございます、お母様、お兄様、お姉様。

 僕はこの家に生まれて幸せです」


 そしてもう憚ることなく泣くことができた。

 その涙で我慢できなくなったみんなも泣いて、アンディを抱きしめて泣き続けたのだ。





◇◇◇

 遠慮がなくなった彼は、父と兄に付いて王宮の図書室に訪れた。

 その日の付き添いは姉のビルランジェだ。

 国の歴史書を読み終えたアンディは、自分と親の生きた時代を確認し、だいぶん改竄されていることに気付いた。


 ジャンクールの親世代は、他国との小さい衝突はあったが比較的平和が続いた。けれどその衝突や流行り病で王子が次々と亡くなり、第四王子が王位を継いだ。

 その後国王は莫大な魔法の力で国を守り支えたが、王妃と王太子を病気で亡くすと悲しみに倒れ、そのまま早世したと。


(歴史なんてそんなものだよな。どろどろした王家の恥を残すはずないよな。でも…………当時の裏歴史が残る、お父様のいる歴史変遷部署にならきっとあるはず。

 文書によっては禁書扱いの物もあるだろう)

 

 アンディは姉の耳元でその事を伝え、父の文書課へと向かうことにした。

 不在を問われたら、トイレだと答えて貰うことにした。最悪でも便秘だと思われる程度だろう。


「頑張って、アンディ。落ち着いてね」

「うん、ありがとう。行ってくるよ」


 そして隠蔽魔法をかけて文書課に入室し、父の足をつついてメモを渡す。

(お邪魔します)

 そのメモを見た父は頷き、該当文書を渡してくれた。

 読み終わった後は禁書のある部屋を開けて、プライベートな日記や歴史変遷書記官の文書も確認した。



 結局のところジャンクールは魔法の力を使い、騎士や使用人達を脅して手を下させて兄王子達を殺し、自分が王位に就いた。

 けれど彼は愛を信じられず浮気を重ね、愛していた王妃が死んだ後精神を崩壊させた。

 息子であるアンディについても謝罪の叫びをあげていたらしい。

「殺すつもりなんてなかったのに。レイカの愛した忘れ形見だったのに、俺はなんてことを!」と、時々正気に戻った時に王妃への愛と共に、息子への謝罪を繰り返し、半年も経たずに拒食で亡くなったと記されていた。


 (ジャンクール)の生い立ちも悲惨であり、母親が毒殺された後は厳しい環境で生き、魔法の力がなければ早期に淘汰されていただろうとも。


「結局こいつ(ジャンクール)も、幸せではなかったんだな。

 お母様のことを好きだけど信じられず、それに僕のことで後悔もしたんだ。

 そうか………………」


 憎んでいた父親にそんな苦悩があったのかと、初めて知った。

 不覚にも哀れにも思えたのだ。


 そして母の残した日記にも目を通す。

 母の愛を感じると共に、父への気持ちも知ることになった。




◇◇◇

 申請が通り、王家の墓地に墓参りすることになったニフラン一家。


 白い花束を持ち、黒い衣装に身を包んで門を潜る。

 当然のことながら、墓地の門扉には警備をする騎士がその場所を守っている。


 海が見渡せる小高い丘は整備されていて、歩きやすいように石畳が敷き詰められていた。


 周囲には防風林に囲われ、そよそよと穏やかな葉擦れと、小鳥の囀ずりが聞こえてくる。


「落ち着ける場所ね。きっとみんなゆっくり眠れているわね」

「ええ。とても静かだもの」

「俺は少し寂しいな……。賑やかなのに馴れてるから」

「そう言われると、そんな気がしますね」


 アンディが祈る時に邪魔をしないよう、家族は先にお参りをしてから、周囲を歩いて来ると告げた。

 アンディのもう一つの家族だから、積もる話もあるだろうと思って。


 5代前だから、少し奥にその墓石はあった。

 レイカとジャンクールは王と王妃である為、隣に墓石が作られていた。

 アンディの前世であるアルフォーデの墓は、王子や王女の場所であり少し離れた場所にあった。


「お久しぶりです、お母様。もう苦しみはないですか?」


 答えはないが、それからも言葉を重ねていく。

 不思議なことに涙は出ず、微笑みを浮かべていた。


「お母様の人生は、不幸だけではなかったのですね。僕のことを愛し……お父様のことも嫌いではなかった。

 最後まで王妃として懸命に生きたこと、深く尊敬致します。

 僕が転生したように、お母様もそうなのでしょうか?

 もしそうならば、今度はもっと幸せになれるように願っています。

 僕はもう、幸せになりましたよ」


 再度礼をして、母に別れを告げた。

 そして父の墓前の前に立つ。


「あなたのことももう、許すよお父様。あなたも被害者の部分もあったみたいだしな…………。僕はもう幸せだから、謝らなくて良い。さっさと成仏しなよ」


 

 やはり答えはないも、「ありがとう、アルフォーデ」という感覚が脳裏に過った。

 そして爽やかな風が、彼の頬を擽ったのだ。


「さよならお父様。今度は素直に生きなね」



 そして前世の、自分の墓石の前に立ったアンディ。

「アルフォーデである僕も、勉学に励んで頑張ったよね。お母様に愛されて、お父様の無関心に腹を立ててさ。

 一生懸命に生きたよ。だからこれからも、未練なんて残さないように、生きていくよ。

 さよなら、アルフォーデ」



 アンディは気持ちの整理を付け、今の家族であるニフラン一家の元に走った。



 アンディの思っていた通り、母であったレイカの魂は商家の町娘として生まれ変わった。

 今の彼女は、自由に商いの手伝いをしている。





◇◇◇

 そんなアンディは、トリニーズに詐欺を働いた悪人から資金の回収はしていたが、それ以外の罰は与えていなかった。

 トリニーズは国に詐欺の被害届けを出していたが、国の役人に賄賂を渡していた悪人は、捕まることはなかった。


 今の国王は政務を側近頼みにし、自らは趣味の金魚の交配実験に心血を注いでいる体たらくだ。


「ああ、また愚王かよ。どうして平和な世が続くと、アンポンタンが王位に就いちゃうんだろう?

 他に適任の奴がいるのに!」


 家族はアルフォーデとアンディを共に受け入れてくれているし、アンディが目を光らせているので、更なる詐欺被害にはあっていない。

 けれど他の領地では、相変わらず被害報告があると言うので、調査していたアンディ。



 と言うか、前世で王太子教育も早期に終えるほど優秀で、礼儀作法も完璧だ。

 最早、魔法学の研鑽くらいしか、やることがないのだ。


 けれど家庭教師には「先生が教えるのが上手いのです」と、謙虚な気持ちも忘れていない。

 教師の職を奪ってはいけない配慮と、目立ち過ぎないカモフラージュである。


 転生後に不安だった家庭環境も、最高な状態である。



 総合的に彼は退屈していた。

 だからこそ彼は、悪党に罰を与えようと思ったのだ。


 当然ながら私刑は罰せられるので、トリニーズ達には内緒である。


 当時悪党につけていた追跡魔法は、解除を忘れてそのままであった。

 普通ならば魔力が減るので気付くのだが、幼い時の注意力の散漫さ(すぐ珍しいものに目が行く)と莫大過ぎる魔力の前には、何の影響も与えなかったのである。



 それを辿り空間転移を使えば、悪党はほどほどの店を構えていた。古物商ドランジェと看板が出ている。


「くそっ、やっぱり潰しておけば良かった。この分じゃ被害者も多いだろうに!」


 その店の横であの時の悪人男が、何やら喚いているではないか?

「取りあえずむしゃくしゃする。一発殴っておくか」と、隠蔽魔法を使い様子を覗く。

 

 すると綺麗な娘が、その男に絡まれているではないか。


「おうおう。借金が払えなければ、この店を貰うぜ。恨むんなら博打をした父親を恨むんだな。

 でも俺は優しいから、あんたが妾になってくれるんなら良いぜ! どうする? ふへへへへっ」


 欲望に満ちたいやらしい顔の男は、娘の手を取り掌を舐めた。

「止めて下さい。放して!」

「気の強いのも良いな。そんな女が屈辱に身を堕とすのが、何よりも興奮するんだ。まあ、また来るよ」


 アンディは嫌悪に溢れ、店を出た男を道に落ちていた棒で後ろから殴り付けた。

(変態はもげて死ね。または腐って死ね)


「痛ぇ、誰だバカ野郎! ん、誰も居ないぞ。確かに殴られたのに? 変だな???」


 頭を擦りながら店に入っていく男を確認し、アンディは娘の店である魔道具屋に入った。


「なあ、娘さん。さっきのいけすかない奴は何なんだい?      

 良ければ話してくれないか?」


 少し躊躇いながら、娘は話してくれた。


 父親が顔見知りに連れられた場所は、掛け金を付けたカードゲーム場だった。

 初めは勝ったゲームだが、次第に負けが込んで、気付くと借金をしていたと言う。


 今は行っていないが、顔見知りに借りた金に高額の利子が付いて困窮していると言う。

 その権利書がいつの間にか、隣の商人に売却されたそうなのだ。

 辛うじて利子は払っているものの、それもいつまで払えるか不安があるようだ。


「話は分かったよ。僕の家もこの男に詐欺にあったんだが、名を変え品を変えて警らに捕まらないんだ。

 だからここまで追って来たんだ。

 近いうちに男の店で騒動があると思う。

 娘さんはそれまで何とか耐えておくれ。

 きっと何とかするから」


 自信満々に話す男は、成人しているように見えた。けれどその正体は、魔タヌキの変身魔法をアレンジし変装魔法に昇華したアンディ、3歳であった。


 娘は頷き、信じると約束してくれた。

 どことなくその男から、懐かしさを感じ信じる気になったのだ。


「分かった、それまで頑張ってみる。それと貴方の名前を教えて下さい。私はハルカよ、よろしくね」


「ああ、よろしく。僕はアンディだ」


 握手をすると、アンディも何か不思議な気がした。

 そして彼女が髪をかきあげる仕種に、(レイカ)を思い浮かべた。


(もしかして、貴女は………………)



 更に話を進め、隣の男がビーン・ドランジェと言う男爵令息だと分かった。

 辛うじて籍は男爵家だが、生まれは庶子だとのこと。


 本来のアンディなら、庶子の待遇に何らかの配慮をしただろう。きっと大変なこともあったのだろうと。

 前世と言えど、王太子だったから。

 


 でも今回はダメだった。

 だってきっとハルカは、(レイカ)の生まれ変わりに違いないからだ。


(母の人生にお前はいらない。きっといやらしく放れないだろうから、排除が必要だな。ふふふふふっ)


 仄暗く微笑むアンディに、家族が心配で声をかける。


「アンディ。辛いことがあったなら、お姉様に言って頂戴。何でもするわ」


 他の家族は一歩遅れたと悔しがり、二人を見ていた。


「特に悩みなんて。いや、実は……僕は絵心が壊滅的なんです。それで上手くなるには、どうすれば良いのかなって。大丈夫ですよ、まだまだ練習しますから!」


「そうなのね……でも私はアンディが頑張った絵なら、それだけで素晴らしいと思うわ。

 絵が上手くないと困るのは画家だけよ。

 好きに描けば良いのよ」


「はい、ありがとうございます。さすがお姉様です」



 アンディは心からの笑みを浮かべ、優しい人だなぁ。この人がお姉様で良かったなぁと思った。

 絵が下手なのは、魔タヌキに身代わりを頼んだ時に報告を受けていた。

 本当のアンディは、当然ながら魔タヌキよりは上手い? たぶんマシだと思う。

 でもそれを逆手に取って、悩みを相談したのだった。


 その話は、みんなが知っていることだから。


 

 取りあえず誤魔化したアンディなのだ。





◇◇◇

 その後。

 深夜にビーン・ドランジェの店へ空間転移で押し入り、魔法で作った空間物置に荷物を全部放り込んだ。


 金庫も借金の証書も全部、ぜーんぶ、ポイポイッと。


 それから変装魔法で大人アンディになり、ハルカの元へ訪れて金貨を渡した。

「これは借金の利息で、貴女の家が取られ過ぎた利息分の額です。丁度お父様の借入金の額になりますね。

 今後ビーンは捕まり裁判を受けることになりますから、その前に僕がお渡ししようと思います。


 ああ、気にしないで下さい。

 僕、実は高位貴族の子供なんです。

 今は立て直して、詐欺被害分以上に栄えていますから。


 でもビーンに足元を見られたら困りますから、親戚中に頭を下げて借りたと言って下さいね。

 そして必ず、借金の証書を取り返して下さい。

 返していないと言われたら困りますからね。


 では、返して来て下さい」 



「え、ええ。ありがとう。でも、本当にこんなに大金を良いの?」

「勿論です。必ず取り戻せますから。

 僕は、いえ僕の家族はですね、お金より矜持の問題になりますから、任せて下さい!」


「それなら、分かったわ。ありがとう、行って来る」


 颯爽と出掛けた彼女の後を、隠蔽魔法をかけてこっそり追いかける。


 窃盗が入り、荷物がなくなった店内は広々していた。

 そこに借金を返すと、ハルカが現れたのだ。


「今は忙しい。急ぎじゃなきゃ、帰ってくれ!」

 苛立ちを隠さないビーンは、ハルカを忌々しく見た。


「借金を返そうと思って。でも忙しいなら「待て、いくらだ。それなら話は別だ。置いていってくれ」


「親戚に頭を下げて、お金を借りました。今日で全額支払いますから。借金の証書も下さいね」



 いつもより強気のハルカに無性に苛立つが、今は少しでも多く金が必要だ。

 でも借金の証書も盗まれている。


 けれど金が欲しいビーンは、証書を持ってくると言ってハルカを待たせた。

「どうせ借金がなくなれば、あいつは構わないのだろう。それにいざとなったら、それは偽造だと訴えてさらに絞り取れば良い。

 暫く売り物がないから、せいぜい利用してやろう。

 俺の後ろには男爵がいるから、平民は逆らえんだろうしな。クククッ」



 アンディは思った。

 きっとビーンは証書を偽造すると。

 それは当たり、さらに汚い思考も筒抜けで知ることになった。


「最低だな。この子悪党は。もう見逃せない。私刑決定だな!」


 その後ビーンはハルカに借金の証書を渡し、彼女は魔道具屋に戻って来た。


 ハルカは父親と共に、再びアンディに頭を下げた。

 そしてこの国を去り、魔道具屋を隣国で開くことを伝えてくれたのだ。


「どうもありがとう、アンディ。前々から魔道具の発展している隣国の親戚から、こっちで一緒に共同開発しないかと誘われていたのよ。

 こんな父だけど、魔道具のことにはすごい知識を持っているのよ。

 私も父に憧れてこの道に進んだのだから」


「アンディ君ありがとうな。君が居なかったら、どうなっていたことか。

 俺は生活面はダメダメで、女房が死んでからハルカに苦労ばかりかけてんだ。

 本当に面目ないよ」


「お父さんは真面目過ぎたのよ。カードゲームだって賭け事じゃなければ、子供でも遊べる健全な場所ならこんなことにならなかったよ。

 人を見て付き合いはしないとだけど、趣味はあった方が良いもの」


「娘が優しい。本当にゴメンなあ。もうハルカに苦労はかけないからな」

「泣かないでよ、お父さん」


 ハルカは、父親の背を撫でて慰めている。

 それをみるアンディは、親と子が逆みたいだと思いながら口角があがった。


「そうか。まあ、元気でな。そのうち隣国へ行ったら、旨い飯屋でも案内してよ」


「ええ、任せて。それまで店の基盤を固めておくから!」

「そうか。じゃあ、頑張って」

「ええ、ありがとう。貴方もお元気で」

「アンディ君、元気でね」


 明るい父親と元気なハルカなら、何処に行っても大丈夫だろう。


「さよならお母様。楽しそうで良かった」


 

 アンディは空間転移で、家族の待っている家に帰ったのだ。





◇◇◇

 ビーンに対する方針は決まっている。

 以前にトリニーズが出した侯爵家の訴えは、証拠不十分で不起訴になっていた。

 ビーン・ドランジェ男爵令息は、父であるブランチ・ドランジェに泣きついて揉み消して貰ったのだ。


 アンディは、それを含めて許さないことにした。


「国が腐ってるんなら、私刑もやむなしだよね」



 そう言った後、ドランジェ男爵家の余罪とビーンの罪を暴き出し、魔タヌキと魔キツネに協力を得て、号外新聞を王都に配布した。


 魔タヌキは長年絵に親しんだだけあり、文字の転写くらいは朝飯になっていた。

 魔キツネは、人手?が足りないので駆り出された形。

 でもその対価に、魔タヌキには浴びるほど大量の酒樽100個と、魔キツネには油揚げといなり寿司と稲荷チラシを100人前を差し出すことにした。


 何事にも、ギブアンドテイクは必要である。



 アンディが記事を書き、魔タヌキが魔法でその記事を魔力を多く含んだ紙に転写し、魔キツネがそれをコピーしていく作業である。


 魔キツネはアンディの文字を理解できないが、魔タヌキの魔力が通されれば、その文字が理解できるようになる。

 そうすると、(読み込みができて)コピーが容易にできるようになるのだ。


 紙代はビーンの金庫に入っていたお金で買ったので、アンディの持ち出しはなしである。



 翌日。

 徹夜で作った号外をレイカ新聞と銘打ち、隠蔽魔法で姿を隠したアンディが、空から次々と落として行った。

 最初は何だ?と首を傾げた人々も、衝撃的な内容に見入ったのだ。


「何だドランジェ男爵が人身売買だと! これは酷い」

「男爵の息子は違法賭博の借金のカタに、娘を妾にしろと迫ったとあるぞ」


「借金の利息がこんなに? 酷いもんだな、ドランジェ男爵の商売は」

「これは本当なのか? 以前は詐欺も働いていたそうだぞ。それも仮名を使って、援助金の詐欺だって。セコいな」


「これもそうか? 警らに訴えたが、受け付けて貰えなかったとある。酷い役人もいたもんだ」


「「「「それよりこの新聞社は新しいな。攻め込んだ記事ばかりで、違っていたら捕まるぞ。どうなんだろう?」」」」



 貴族の犯罪を赤裸々にした新聞社は、命の危険がある。大丈夫なのかと、人々が心配するくらいの内容だったから。


 真偽不明のその内容は、ちゃんとした警ら隊に調査され、男爵達は捕まることになった。

 多くの被害者がおり、その内容は嘘がないと判断されることに。

 男爵は爵位が取り上げられ、財産は被害者に分配された。

 アンディが持ち出した、ドランジェの店の品は隣国で売り払い、必要資金を引いた分は押収される前の金庫に戻していた。




 犯罪を知らなかった妻や娘は生家に戻され、男爵とその息子、そしてビーンは鉱山奴隷となり、まだまだ被害金に不足している金を返すことになる。


 男爵の嫁も違法な借金のカタに嫁ぎ、使用人の様に扱われていたから、男爵の悪事は知らない。

 子供も同じように、使用人として働かされていたので、生家に戻れて良かっただろう。

 男爵は愛人にだけ、湯水のように資産を注いでいたようだ。



 誰のせいで捕まったか分からないが、取りあえず庶子であるビーンが責められことに。


「せっかく籍を入れてやって旨い蜜を分けたのに、全然役に立たんとは!」

「こんな奴に期待してたんですか? 無駄な出費でしたよ」

「そ、そんな。俺は頑張ったのに!」


「何処がだ! 本当に優秀なら、このピンチを金でも出して救ってくれただろうに」

「だから無駄だったんですよ。卑しい平民の母親の血が入っているですから」

「お母さんを、お母さんをバカにするな! この野郎!」



「うるせえぞ、お前ら。仕事せんなら、鞭でしつけるぞ! 

 バシィーンッ!!!!!」


「「「ヒィ、働きます。やりますから!!!」」」

「さっさと動け、飯を抜くぞー」

「「「そんなぁ、それだけは止めて!!!」」」


 そんな感じで裁きは下された。

 特にビーンは、ハルカの借用書を偽造したことで、その分の罪も上乗せになった。

 それでも男爵達より、鉱山で働く年数は少ないのだが。




 父親と異母兄に責められるビーンは、きっとかなりの苦痛だろう。それが権謀術数を実地で学んで来た、王太子の思考である。



 満足したアンディは魔タヌキと魔キツネに、約束より多めに約束の品を手渡したのだった。


「さすがアンディの旦那だ(タヌキ使いが荒いけど、報酬が太っ腹だ)」

「また手伝いますわ。いつでも呼んで下さい!(出来ればもっと楽な仕事でお願い。魔力を使いっぱなしの徹夜は、お肌にとても悪いのよ)」


「ああ、ありがとう。さすが知性の魔タヌキのグレープと、芸術家の魔キツネのエリーザだね。

 最高の仕事だったよ!」


「ま、まあ、それほどでも(あるかな)」

「え、芸術家だなんて。ありがとうアンディ様」


 機嫌を良くした2匹は、満足して空間収納に報酬を入れて去っていった。


「本当に優秀だよね。予定の半分で終わったもの。また何かあったらお願いしようっと。ありがとうね!」



 アンディは人間も使い魔にも、礼を尽くす質である。実は使い魔達に好かれているのを、彼は知らない。





◇◇◇

 その後も彼の追跡魔法に、以前にかかった悪党達へ通達をしていくアンディ。


『ドランジェ男爵達のように罪を暴かれたくなかったら、お金は返し悪事を止めろ。byレイカ新聞社』


 そんなことを繰り返していると、

 ニフラン侯爵家に「騙してごめんなさい」との手紙と共に、受け取っていたお金を返しますと、50名を越える者からお金が届いたのだ。


 何となくアンディのせいかと思うが、トリニーズは彼には触れず、

「改心してくれたなら良かったよ。さて、今まで侯爵家なのに、全然何も買ってやることも出来なかった。

 この機会だから、みんなにお小遣いをあげような」と言って、かなりの金額を子供達に分け与えたのだ。


「これはお姉様の持参金に「あら、アンディの分はいらないわよ。今の侯爵家は安定しているもの。なんなら私の分もあげちゃおうかしら、可愛い我が弟に」い、いやいらないですよ」


「そお? じゃあ、ちゃんと管理しときなさい。お父様がまた騙されたら、アンディの助けが必要かもしれないし」


 アンディはギクリとして、そうだねと言って話を打ち切ったのだった。



「アンディは本当にすごいよ。あの新聞を空から落としたのお前だろ? 取材力もあるし、最高だぜ!」


「ちょっと、ブランシュ。お口チャックよ」

「え、お母様、何言ってるの? あー、ごめん内緒にするんだったね!」


「お兄様の馬鹿、馬鹿兄! 仕事しか脳のない、デリカシーゼロの万年彼女出来ない男!」

「ちょっと、それは酷いよビルランジェ。お前だって彼氏いないだろ!」


「私は良いのよ。まだまだ若い13歳ですもの。それに比べてお兄様は16歳なのに。おほほほほっ。

 それに大事なアンディが心配だから、婚約者も決めないで下さいね。私は自分で選んでいく主義なので!」


「モテないのは同じだろう。もうその話題には触れるな。俺のHPが激減りだから。可愛い妹からの仕打ちは、キツイ!」



(な、なんか俺の悪事?がバレてる感じ? どうなんだ?)



 焦るアンディに、母であるフレンベスが微笑んだ。

「気にしなくて良いのよ、アンディ。何かあってもみんなで責任を取る覚悟よ。

 アンディが正しいと思うなら、トコトンやってみたら良いわ。今回のことはスッッッキリしたんだから。

 国は一枚岩じゃないから、なかなかスッパリ断罪出来ないの。

 勿論良い貴族もいるけれど、古参貴族の汚職が多いのよ。

 隣国とか大国にも親戚がいるせいで、なかなか法も強く出られないらしいの」


「そうなんだよ。だから今回のことは宰相も喜んでいるんだ。

 彼は伯爵家出身だが、天才の名を欲しいままにした優秀な男で、最年少で宰相となり高位貴族の嫉妬も根深い。

 賄賂も利かないから、悪徳貴族には煙たがられている。

 でも俺はその宰相のことが気に入っているんだ。

 家にいる末息子と、気質がずいぶんと似ているからね」



 言い訳も諦めたアンディは、「暫く静かにします。ごめんなさい」としょんぼりしたが、

「「「「違うよ、アンディ。俺(私)達は、応援しているだから」」」」と何故か鼓舞される。


 みんなアンディの鮮やかな手並みに、惚れ込んでいると言う。


「何でそんなこと言うのさ。せっかく巻き込まないに、バレないようにしたのに。

 知らないことにしておいてよ」


「もう知っちゃったもんね。無理です」

「子供の責任は親が取るものよ」

「俺は生まれた時から、お前を守ると誓っている」

「格好良い弟の力にならせてよ」


 何を言っても無駄のようだ。

 だからアンディの方が諦めた。

(絶対に痕跡は残さず、細心の注意をして家族を守ろう)



 それから暫くは大人しく、でも目に付いた悪党には多少の危害を、細心の注意をしながら加えていたアンディだった。




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