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第46話 再興

 屋敷を後に、誰もいない道を歩いていった一行。土地師組合の建物を前に、初めて師匠が言葉を発する。


「今やってるのか?」

「開封屋には萃梨さんもいたし、こっちもやってるんじゃないか? 北にも用事があるらしいし」


 世夏は不安になったが、表情に出さず扉に手を掛ける。手応えから空いているらしい。


「居ますか……?」


 組合に入ると、西側を背中にして設けられた受付に、男が一人座っていた。関係者は受付の奥から北と南に出入りするようだが、今は南北を隔てる壁に風穴が空いていて、大まかに向こうの様子が分かる。


「あん……? あ、お客さんか」


 曇った顔の男性が目線を送る。身内と勘違いしたらしい。由木代からは組織に勤めているという雰囲気が微塵も感じられないが、もしかしたらあの二人を待っていたのかもしれない。


「先日ここを荒らした少年を捕まえたんですけど」

「対応出来るやつを連れてくる」


 荒らされたとは言うものの、開封屋と違って再開しているらしい。開封屋の生業は古い封印であるが、日頃から祓っていれば緊急性が高いものも少ない。


「あっちも普通に人が居るみたいだ」

「方角的に晴流傘の北側だろうな」


 造りはこちらとそう変わらない。当たり前だが、目に映る人もこちらと何か違うように見えない。


「復旧作業は進んでないみたいだ」


 暗い木の床に落ちていた壁の破片が、世夏の足に当たってコロコロと転がっていく。


「責任者を呼んできました」

「ありがとうございます」


 さっきの男性が、かしこまった様子で人を連れて来た。


「関係者を捕まえたと聞いたが?」


 責任者と思しき男性が、王深徳の顔を手に持っている紙切れと見比べた後、最初の男に連れて行くよう命じた。


「ああ、間違いなさそう。皆待機してるってのに問題だらけだ」

「いつも祓いが問題を持ってくるんです?」

「今日も由木代が空いた壁からさっさと北に抜けてったからな。まあ、覚悟はしてたぞ」

「早朝から予想通りだったか」

「あれ、由木代さんだけですか?」

「そうだ」


 男が即答する。世夏が見送った由木代は胡仰藍の従鬼を連れていた。北の問題は一人で対処したのだろうか。世夏が思考を巡らせていると、師匠が壁の裂け目を一瞥した。


「人は私だけ、って所だね」

「お、戻ったか」

「由木代さん!」


 由木代の後ろから、ぞろぞろと胡仰藍の従鬼も帰ってくる。しかし、男は従鬼のことを気にかけている様子はない。


「見えないものは数えられん」

「え、妖が見えないんですか?」

「襲撃されたときは襲撃されてるなー、とは思ったぞ」


 北には妖が見えない人もいるらしいが、責任者のようだったし、てっきり妖が見えるものだと思っていた。


「そっちはご苦労さま。立炉木もその内来るんじゃないかな」


 世夏はあらかじめ聞いた所をかいつまんで由木代と責任者の男に伝える。


「こいつを裏に連れて行っといてくれ」


 最初に案内してくれた男が王深徳を裏手に連れて行った。


「私も後で確認しておくよ。胡仰藍も感謝してるんじゃないかな」

「してますかね?」


 胡仰藍は実利で動こうとしている節があるので、表立っては示してこなさそうだ。だが、確かに内面では優しいこともあるのかもしれない。

 世夏は感傷に浸っていたが、ふと思った。晴流傘も胡仰藍も大事だが、最初の目的はそこではない。


「一段落したし、別の街に行こうかな……」

「マジ……?」


 世夏の背後から声が聞こえたので振り向くと、目の前、やや下に立炉木が立っていた。


「何してるんだ?」

「いや、何も」


 開封屋として生計を立ててはいるが、このままで記憶を取り戻せる気配はない。


「そういえば、未花槌さんもそろそろ帰って来ますかね」

「組合がうるさくなる」

「未花槌?」

「呪術師だね。滅傷の」

「相変わらずゴリゴリの名前ですね」

「各地の山を巡っては、麓で食糧と情報を交換して山に戻るから要塞とも呼ばれてる」

「もはや人間の呼び名ではないだろ」


 山で情報を集めるというのが世夏にはパッと来なかったが、ふと壁に並べられた妖に関する貼り紙が目につく。僻地に点在する封印などは土地師の人が確認して回ってるのだろうか。


「最初の受付の男は、その未花槌とかいう奴が戻ってきたと勘違いしてたのか」


 世夏が扉を開いたときの反応を思い出すと、手放しに帰還を歓迎されてはいなそうだ。


「俺が居なくなっても元気でな、立炉木」

「言われなくても分かってる」

「冷たいな」

「あ、いや……今聞くのも何だけど、やっぱ大事なものなのか」


 立炉木はばつが悪そうに話を変えた。


「まあ前は不安で戻りたかったけど、今は取り戻したいというか――」


 世夏が師匠を見るが、その表情からするとピンと来てはいないようだ。


「ふむ、微妙な言い方だな」

「今は今の俺がいるし、どっちかの俺で上書きできるようなものでもないと思う」

「自意識が高いな。少なくとも負けることはないんじゃないか?」

「……この生意気な師匠は素直にさせたい」

「私が元は素直だと?」

「記憶を失うと性格が変わると相場が決まってるんだ」


 世夏と師匠のやり取りを気にも留めず、立炉木は先程の言葉を反芻していた。


「分かった。どこにいても、応援する」

「いや、数日はいるだろうけど」

「え……まあ、それはそうか」


 空回りしたものの、安心した様子の立炉木に対して、世夏は笑いかけた。


「世話になった人には挨拶をして、それからな」

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