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第41話 地下

 いつからいたのか、その気配に世夏が門の脇へ視線を振ると、人影が見える。思わず半歩後ろに仰け反ったが、至近なら顔を認識できるようになった時分、ソレには見覚えがあった。


「客人か」

「お前は肆? 主人は――胡仰藍さんはいるか?」

「母屋に。気味の悪い少年とな」

「妖から見ても……いや、すいません。何でもないです」


 立炉木の言葉に胡仰藍の肆は眉をひそめる。その表面上の運動で玉のない眼孔が強調され、知り合いである世夏さえ釘付けになった。


「……違うぞ、少年。妖から見たら気味が悪いのだ。胴は犬で顔は羊より、顔だけ人間の方が嫌悪するだろう」

「こんなとこで羊を持ち出すな」

「羊の妖だったか。知り合いの種類が多いと禁句も増えるわ」


 冗談混じりに肆の眉と口元がゆるむ。妖気で人を知覚する妖にとって視覚以上に鼻につくものなのかもしれないが、その門下の例え話はよくわからない。


「貴様が敵対せぬのなら、先に行かせてもらう」

「師匠、誤解されるような言い方するなよ」


 この状況でその物言いでは胡仰藍の敵か味方か分からない。


「よい。今は主こそあるが、命令するものは誰もおらぬ」

「それは――」

「胡仰藍は妖に憑かれた」


 可能性としては低くないものだった。しかし、改めて耳にすると覚悟が決まる。


「貴様らは、奴が死んだらどうなる?」

「自由よ。ここを訪れる者を見定める必要もない。しかし」


 どこか上の空のように雲を見上げる従鬼の肆。


「可能なら、助けてくれないか」


 それは依頼とは言えない。どちらかといえば願いのようなものだった。ただ、世夏は答えあぐねていた。それはこの場所まで来た者にとって当然のことで、ここでは師匠が口を挟んだ。


「私の主は、最初からそのつもりらしい」

「では……頼んだ」


 肆が一礼したかと思えば、来たときと同じく瞬きの間に消えていった。


「じゃあ、母屋に行くかい?」

「その前に寄り道しても良いですか?」


 もしかしたら由来代も何か策を持っている可能性はある。しかし、世夏にはそれが分からなければ、一刻を争うということもない。世夏は、前を行く由来代に声を掛ける。


「実はこの前、師匠の旧友に会ったんですが、その人によると、ここの地下で何かが壊れた? みたいな」

「世夏の師匠の友達?」

「誰かは分からないが、地下ね……確か十年くらい前は胡仰藍の作業場だった筈。まだ聞いてみていいかい?」


 世夏は必要ない情報はかいつまんで、出会った男が言っていたことを由来代と立炉木に伝えた。


「なるほど。昔、胡仰藍に特別な匣を用意してほしいって言われたことがあってね」

「さすが由来代さんです! でも関係あるんです?」

「何かが壊れて人に憑くなんて、大体封印が解けたせいだと思って」

「どういう妖のための匣だったんですか」

「彩麗斎を封じる匣だね」


 何気なく言い放つ由来代に、今まで食いついていた立炉木が遠慮がちな相槌を打つ。


「ちなみに昔使った匣は唯一無二だから、それとは違う……」


 由来代が歩く道の先――芝を越えて木々が茂る風景を注視する。見落としそうではあったが、世夏が通ったことない道を行くと、東屋が見えた。前を行く由来代が東屋に到着すると、隅を探り燭台を取り出す。床板になっている天板を外すと、埃は舞わず、ただカビ臭い匂いが溢れてきた。


「久しぶりに入るな、ここ。はしごが長いから気を付けなよ」


 カツリ、カツリという音と共に、由来代が地下に姿を消す。少し待ってから世夏も後を追う。手をかける梯子は固くて冷たい。


「この部屋、天窓があったのか」

「さすがに気休めだけどね」


 弱い火ではあるが由来代の手元が照らされる。後ろで降りてくる立炉木を尻目に部屋の中央と思しき場所まで歩いていく。


「匣が壊れてる……」

「やっぱりか」


 頭一つ入りそうな匣がバラバラに砕けて、キラキラと光る砂のような物が中から溢れていた。


「そろそろ説明してくれても良いんじゃないか?」

「何がです――」


 不可解な発言から、世夏が由来代に視線を移すと、灯りに照らされた彼の影が波打った気がした。考える間もなく、錯覚ではないことが二度目の隆起によって明らかになった。影を破るように現れたのは、彼の従鬼だった。


「主語が欠けていると、友人さまからの指摘ですよ」

「この事件の妖はお前の同族か?」

「晴流傘にはある妖の亡骸が眠っております。それを私の本体と称するのなら、同族というほど分かれてはない。欠片とか、一部でありますね」


 朗らかな彩麗斎の語り口が、今回ばかりは素直に受け取れない。


「妖だけでもないでしょう。その壊れた匣をもう少し見てみましょう」


 部屋の中ほどまで歩いていくと、人の頭部ならばすっぽり入るような木箱が横倒しになっている。蓋の外れた上部からは、青い砂のような細かい粒が床に溢れていた。


「魂寄せの石が砕けてしまってる。これを使って胡仰藍様は妖をおびき寄せてたのでしょうね」

「これって昔由来代さんが作ったっていう……?」

「ええ。ですが、この世に無二という訳でもありません」

「同じものを持って来た」

「ネギが鴨を背負ってきた、という所です」

「今度から聞いてたなら会話に混ざれと命令しようか」

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