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第37話 家に帰ろう

 李雨旋は枯れた低木の前にしゃがみこんでいる。何をやっているのか世夏の方からは分からなかったが、状況が状況なので、急かすように声をかけた。


「行きますよ、李雨旋さん!」

「了解……」


 世夏は李雨旋が頷き返すのを確認すると、薄暗い洞窟を駆けていく。


「奥が明るい……この体じゃ全然走れん! 戻っていいか?」

「ギリギリまでダメだ!」


 光が入っていると言うことは、入り口が崩れている訳ではないのだろう。終着点が分かり、一行の足に力が入る。


「祓いの仕事で洞窟に入るといつもこれだよ」

「でもこれなら間に合う……痛っ!」


 出口に意識が向けていた世夏は、地面に転がる岩にけつまずいた。先程の振動音、天井から落ちてきたのはこの場所だった。最悪の答え合わせに世夏は顔をしかめる。


「この一帯に瓦礫が散乱している、注意して進め!」

「世夏!? まずいまずい」


 並々ならぬ動揺っぷりで、世夏の後方に居た師匠が元の姿に戻る。


「師匠、何を……うわっ!」


 その金色の身体を岩壁に擦りつつも、世夏を後ろから押し進める。立炉木、李雨旋を巻き込んで、栓を抜くように洞窟の入り口から飛び出してきた。


「ビックリしました……」

「お師匠さんに助けられたな。ありがとう」


 山腹で息を整える一行だったが、後ろを振り返れば砂塵が舞う横穴に岩が積み重なっていた。大規模な崩落という訳ではなさそうだが、ここに滞在するのも危険かもしれない。


「来た道はここを登ることになりますが、内部が一部崩落した場合ってどうするんでしょう」

「俺はいつも普通に帰ってるが」

「え、大丈夫なんです?」

「知らん」


 立炉木と李雨旋が不穏なやり取りをしてる中、世夏は師匠に駆け寄る。


「師匠、その怪我は……!」

「やはり私には矮小すぎる横穴だったな」

「またそんな事を言って……」


 狭い通路を無理やり突き抜けるように進んだ為か、子供の姿となった師匠も腕の辺りから血が滲んでいる。


「まあ、明日には治ってるだろうし問題ないぞ」

「帰ったら美味しいものでも食べよう」

「成程!? とっとと帰るぞ、立炉木、李雨旋。帰り道は分かるな、行くぞ!」

「体力があるなら最後尾を任しても良いか?」


 洞窟は崩れ、滞在する理由も無い。一行は足早にその場を後にする。


「昼はどこで食べようか」

「飯時には麓まで着けるだろ」


 朝焼けの時間はとっくに過ぎ、今は青い空の下、食べ物のことを考えつつ尾根を歩く。師匠は行動食より店で食べたい様子だ。


「自分はどこでも良いですよ」

「俺は麓で食べるつもりだ」


 李雨旋と師匠は同じ意見らしい。それなら麓か、と世夏が口にする前に、李雨旋が言葉を続ける。


「そもそも、目的の妖は倒した。無理に行動を合わせる必要もない。ここまでくれば万が一の崩落もないだろう」

「解散するんですか? 目的地が一緒なら複数人のが安全だと思いますが」

「俺は、晴流傘には出来るだけ早く帰るつもりだ。胡仰藍は予定を偽り、この依頼では道中に不審な妖が現れた。理由を聞いてシバく」

「理由によらずシバかれるのか……」


 不審な妖は完全にこっちの推測ではあるが、世夏達の持つ情報だけでは如何ともしがたい。考えても仕方がない事とは分かっていても、尾根歩きの途中で世夏は何度かつまずきかけた。その度に、洞窟では危なかったとか、無事で良かったとか、そのような会話が続けられる。

 その後、進展のない推測の方は、麓まで持ち越しとなった。歩き続けた疲労から、師匠が言い出す間もなく料理屋に足が向いた。


「いらっしゃい、好きな席にどうぞ」

「ようやく一段落した気分だ。酒も飲める」

「歳星号に乗っても酔わないなら良いぞ」

「酔っても出さなきゃいいんだろ?」

「絶対注文するな」


 身体を投げ出すように席にもたれかかる師匠。昨日と違い、チラホラと客の姿が見える。近くでは、元気な婦人が他の客と立ち話をしていた。


「――それで、晴流傘は今大変なわけ。もー久々の旅で苦労したわー」


 意図せず世夏の耳に入った会話だが、それは李雨旋も同様だったらしい。


「我々は晴流傘に行く予定なのですが、良ければ話を聞かせて頂けませんか」


 物腰柔らかに李雨旋が混ざる。世夏は自分では何も言ってないが、同行者であり気にもなったので、いそいそとすり寄る。


「あんた、ちょうどいいね。行く人全員に声掛けてるんだ。南晴流傘では、有名な祓いが乱心して、何人も重傷者が出てるって」

「南では?」

「私は南の連中と特に関わりは無いけど、土地師組合の受付で話しててね」


 北と南を隔てられた晴流傘で、土地師組合の建物は唯一南北を跨って建てられている。しかし、南の問題で北の人が街を出るのは極稀だろうということは、世夏も理解している。


「正直その話には興味無かったけど、会話中に壁の向こうから悲鳴が聞こえてきて、我先にうちの家族は馬車を乗り継いできた訳」

「祓い一人が起こした事件など、のんびり帰ってれば終わってるだろうな」

「祓いの名前は分かるか?」

「え……呪術三家がどうとか」


 詰問しているという程ではないが、矢継ぎ早に問う李雨旋のプレッシャーに婦人が気圧される。


「とにかく、私はこの機会に家族と遠出するって話よ。今後はもっと東に観光するつもり」

「なるほど。気を付けて行くと良い」


 その後の世間話まで聞く李雨旋ではなかった。世夏は予定を決めてはいなかったが、合わせて食事を終わらせる。


「お前も付いてくるつもりなら、支度を急げ。明日の朝までには着くぞ」


 李雨旋は速やかに食事処を出ると、厩舎の方へ去っていった。慌てて世夏も歳星号の元へ走る。出来るだけ早く準備を済ませると、茶色い馬に跨がる李雨旋が見えた。二日かけて来た道を、ほぼ半分の行程で帰る。李雨旋の馬を途中で乗り換える以外には休憩という休憩はなく、日が落ち、せめて夜が明けるまでに到着してくれと思い始めた頃、見覚えのある大木を通り過ぎた。


 空が白み、いよいよ睡魔で落馬するかしないかと言った頃、歳星号が足を止めた。南晴流傘の玄関とも言うべく正門にたどり着いた。相変わらず思わず見上げてしまうほどの高さだが、前見た時とは一つ違いがある。街の名を刻んだ横板がないのだ。


「依頼をこなした我々に門すら出迎えてくれないのか」

「これは、部外者立入禁止を意味する」


 李雨旋が馬から降りて、ずかずかと入っていく。


「なら、しばらく外で時間でも潰すか」


 人の姿に戻り、のんびりとあくびをする師匠に、意外そうな声を上げる。


「え、今更何を言うんだよ。俺らは関係者だろ」

「もし宿でくつろぐ時間が邪魔されたら叶わぬ」


 人のいない大通りへと消えていく李雨旋。世夏はその背中と師匠を交互に見ていた。


「その原因を突き止めるんだ」

「お前自身の故郷はここではないだろ、もっと賢く立ち振る舞え」

「びびって立ち往生するのが賢いのか?」

「馬鹿よりマシだ」

「誰が馬鹿だって?」


 どこかいつもと様子が違う。師匠は世夏の言うことを聞かない事もあるが、世夏の行動に口を出すことはなかった。それとも、本当に自分がおかしいのだろうか。世夏も口では反発していたが、胸の内ではかすかに自分の行動に責任が持てるか迷っていた。何となく流れに任せて、従鬼を振り回しているのではないか。今回も、そこまでする義理はあるのか。採点することなく答案を解き続けるだけのような心地悪さがある。


「まあまあ、二人共。折角来たんだし、様子くらい見に行ってもいいんじゃないですか? 初めての事態ですが、本気でヤバいと思ったら帰りましょうよ」

「そうだな……ほら、師匠も文句言ってないで行こう」

「面倒事は嫌いだー……」


 未だ消極的だが、冷静になったのか大人しく着いてきてはくれる様子だ。やっぱり師匠がいれば安心する。振り返ってみれば記憶を無くしてから今までの間で、断言出来るのはこれくらいかもしれない。


「隣星、歳星。この街の様子を確かめに行こう」

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