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第25話 目指せ新人脱却

「お前らか。毎度毎度、殊勝な事だな」

「毎度って言う程依頼は受けてませんよ」


 三度目になる本部での受付だが、担当する翠梨は早くも顔馴染みになったと判断したらしい。


「何を言っている、ひと月に複数回会うならベテランだ」


 世夏は後ろを振り向き、立炉木に視線を投げ掛ける。新人にとにかく甘いのか自分がズレているのか。聞き返すこともないが、気になるところであった。


「土地師は祓いがメインでも無いんで……」


立炉木が愛想笑いで誤魔化す。


「まあまあ。で、今回は何をしてくれるんだ?」

「これです、六青眼入道!」


 一瞬思案する世夏を差し置き、歩み出た立炉木がいかにも用意してきました、という表情で答える。こう言う所が図々しいと言うか、調子が良いと思う要因なのだろうか。

世夏は視線を正面より少しだけ下に落とし、頭頂から首筋まで真っ直ぐ流れるような立炉木の黒髪を眺める。思案の対象は、いつの間にか妖から彼に移っていた。


「結構な大物狙いだな。ま、良いや。一応開封屋の証明書も見よう」

「よろしくお願いします」


 前回の依頼から何か変わった訳でも無いが、翠梨は指先で一言一句をたどりつつ、証明書を読んでいる。


「しっかり確認するんですね!」

「まあ内容忘れたしな」

「そこは覚えておらんのか」


 分かっている上で手を抜かないのではなく、一から思い出していただけだった様子。それを踏まえれば、確かに一人で納得したような声を上げつつ進めていくのが見てとれる。


「そういや白雲の討伐してたな、最初に」

「そこは忘れないで下さいよ」

「冗談冗談、今は覚えてるって」


 翠梨の言葉は世夏を不安にさせてくるのだが、一つ頷いて証明書が返される。問題は無かった筈だ。


「良い感じだ。この依頼は任せるよ」

「分かりました、待っていてください!」


 世夏は師匠と立炉木を連れて開封屋の本部を後にする。


「立炉木、いつ頃空いてる?」

「遊びの予定を決めるんじゃないんですよ……基本いつでも」


 そんな唐突に、いかにもそう言いたそうな前半とは打って変わって、馬車が通り過ぎるように素早く、ボソリと呟く。


「そこは開封屋とあんまり変わんないんだな……」

「その日暮らし」

「さっきからボソボソ言うな! 明日で良いか?」

「それは流石に早すぎます!」


 世夏が冗談のつもりで、空白だらけのスケジュールにとんでもない密度を加えようとすると、素早く反感を示す立炉木。世夏が準備をする一方で、彼も一応下調べを行うのである。

 それならばと、世夏は軽い思い付きを口にする。


「明日立炉木の家に行っても良いか? 前々から気になってたんだ」

「え、そんな急に……分かりました」


 大丈夫なんだ、と思う世夏だが、下手に確認すると考え直されそうだと判断して、次の段階に会話を進める事にする。


「明日の正午にここで良いか? ……土地師って街の西側が本拠地って感じだし、やっぱり千里庵前にしようか」

「了解です」

「すごいな……譲歩してる感を出して一切相手に決むぐっ!」


 余計な事を口走りかけた師匠の顔に手を引っかける。

 ただ、この街の家がどんなものか世夏も興味があったのだ。未だ標準的な家屋に足を踏み入れたことはないが、今まで目にした二つの住居は恐らく平均とはかけ離れたものに違いない。ある料理を知らなくても、黒焦げの素材が炭のような棒に貫かれているのを見て、ちゃんとした料理だと思うことはないように。


「あの店主……今度見かけたらとっちめてやる」


 世夏は街に着いたばかりの頃の、立炉木とは全く関係のない過去の過ちを思い出していた。


「でも、依頼の準備をお二人に手伝って貰いますよ」

「え、私もか?」

「問題ないぞ!」


 世夏は条件に快諾すると、膨れた師匠を連れて立炉木と別れる。


「なんでこういう時に私も巻き込むのだ。私はあの若造の住むところ事情に興味はない。一人で行ってこい、一人で」

「えー、一人でか? もしかしたら良いもの食えるかもしれないぞ?」

「客の立場でそんなものに期待して人を釣るでない。それに奴は浪費を嫌うタチだろ」


 立炉木の姿が行き交う人々に混ざり合うような距離になると、師匠が塞いでいた文句が出てくる。確かに言う事はもっともだが、胡仰藍の屋敷で好き放題してたと思うと素直に受け止めるのも癪だ。


「別に俺が出掛けてても食費は渡さないぞ」

「ケチめ。しょうがない、私も行くか。明日屋台の前で駄々をこねる」

「俺まで恥ずかしくなりそうな犯行声明を出すな!」


 落ち着いた口調で呟かれると、一周回って本気か冗談か分かりづらい。世夏はいざとなったら知らない振りをする事に決めた。


「それより、依頼の準備って何するんだろうな」

「そりゃ荷物と美味しいご飯の用意に決まっておるだろうが」

「荷造りに俺はいらないだろ」


 師匠の中では食べ物は荷物と別でカウントされるらしい。ここまで徹底した食欲には改めて感服する。

今度、弁当を持って郊外に出掛けてみようか。街まで運ばれてきた初夏の風が体の芯を通り抜けると、そんな気持ちを湧き上がらせてくる。


「ま、情報でもまとめてくれるのだろう。六眼なんちゃらとかいう妖なり、そこに至る道筋なりな」

「そうか……土地師って文献ごちゃごちゃにする人には厳しいのかな」


 世夏は旅の荷物入れでさえも綺麗にまとめる事は珍しい。食糧品の分だけ荷物は少なくなるにも関わらず、日々を重ねる度何故だか身の詰まった家畜のように、パンパンに膨らんでいくのだ。


「そう思えばガイドも奴には悪くないのかもしれんな」

「同じ土地の違うガイドブック三冊くらい買って見比べてそうだしな」

「私は居酒屋のガイドブックは五冊持っている」

「なんで張り合ってるんだ……てか、俺が渡したお小遣い、酒に関連する物にしか使ってないのか?」

「趣味のない妖のしがない娯楽なのだ」

「その姿でくたびれるなよ……」


 世夏も子供好きという訳ではないが、子供の姿を取っている間の師匠から聞きたくない台詞もある。


「とりあえず飯買って帰ろう」

「うむ」

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