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第2話 祓い屋御用達

 由来代は世夏を気にすることなく扉を開く。相変わらず我が道を突き進んで行く様子に、気が進まなかったが世夏も付いていく。


「いらっしゃいませ、二名様と四名様ですね。部屋までご案内致します」

「私もいるぞ!」


 師匠が下の方から抗議の声を上げる。


――案内されるまま席に着き、一通り注文を頼み終わると、待ってましたと言わんばかりに師匠が口を開く。


「こっちは二人だ、二十万よこせ」

「師匠は一人と数えるか微妙だぞ」

「お前までそう言うのか!」


 厚かましい師匠に対してはまあまあな口を聞く世夏。


「使役する妖を数えたら、私の取り分が増えるけど。二名と四名と言われただろ?」


由来代の口振りからすると、三名程の妖を従えているのだろうか。そう考えていると、ますます世夏は誘われた意味が分からなくなってきた。


「逆に半分も貰って良いんですか? 我ながらですけど、そこまで役に立たないと思いますよ」

「冗談がうまいね。役に立たないのに依頼を受けに行く訳ないじゃないか」


 今度から迂闊な行動はやめよう。そう決心している世夏達が頼んだ料理が届いたので、今日最初の食事を取りつつ反省する。


「この店は千里庵と言い、個室から外に音が漏れないよう出来ている。依頼を受けた土地師と開封屋にとっては馴染みの場所なんだ。覚えておくといい」

「参考にします」


 世夏の懐事情ではあまり使う機会は無さそうだが、この物言いからは由来代の親切心を感じたため、素直に受け取ることにした。


「で、一人で片付けるかどうかだけど、普通に僕だけじゃ荷が重いからね。力を合わせてこの世から解く」

「どのような術を用いるんですか?」

「枯岩村の封獣は白雲と言って、巨大な白い兎のような見た目をしている。山然封録縁起には桐の箱に封じられる様が描かれているから、匣を使った封印を施す」

「開けた後に、また封じ直すんですか?」

「過去のずさんな封印が内と外の干渉を防ぐものだとしたら、内側からの干渉のみを防ぐことで、祓いに応用できる術を使う一門もあると聞く」


師匠の言葉に由来代が相槌を打って続ける。


「私の家系には器に抑え、もろとも滅する術が多く伝わっていてね。普通の物と違って壊しても封印だけ解けたり妖の障気が溢れることはない。基本的には」


 由来代の匣術はあくまで妖を祓うことが目的の術らしい。世夏は最後に基本的にはと付け加えられたのは気にしないことにした。


「封印を壊して出てきたらそのまま滅してしまえばいいだろう」

「素人みたいな発言だな。退治人の師匠の方が向いていそうだけど」

「師匠、本能のまま動くな! あ、すいません!」


 師匠は食べかけのピザを急いで頬張り、由来代を睨む。その様はどちらかというと獣が威嚇している風にも見て取れた。

 特に由来代が萎縮した様子はないが、持っていた菓子を自身の影に取り落としてしまった。


「気にしないで良いよ。だけど、聞いてほしい。封獣と言うのは何年も力を蓄えて、当時とは比較にならない存在になっていることもある。特に、枯岩村にはかつて霊木とされる大樹が根付いている」


 最近は過去の杜撰な封印や、年月を経た結界自体の弱体化が問題となっている。ふとした拍子に破れてしまう前に、用意を固めて先手を打つ訳である。


「下級程度なら師匠の言う通りかもしれないけど、開封屋ならここら辺の判断もある程度出来るようになった方がいい」

「参考にします」

「炒飯でも頼むか……」


世夏と由来代のことなど意に介さず、師匠は更に食事を頼む。


「敵を知り、万全の準備をした上で、最大限の一撃をもって叩く。開封屋と土地師の依頼において最も重要なことだね」


 由来代の匣術や世夏の得意とする紙術は即効性、即応性に欠けるものが多いが、これも対象が封印されている開封屋の依頼ではそれほど不利にはならない。これも祓いの中でも退治人になるか開封屋になるかの分かれ目の一つである。


「敵は貴様のお陰で読めたと言って良いかもしれんな。次は万全の準備とやらだな。何をする?」

「私の匣術で滅して良いなら補助に回ってほしい。と言うか、君は何を使うつもりだったのかな」


 何気なく由来代の中に詮索する気配を感じた世夏は、気を引き締めて質問に答える。


「自分は札を使うことが多いですね」

「札ね。それなら白雲を私が匣に閉じ込めるまでの間拘束してもらう。出来るかな?」

「どのくらいかにもよりますが、事前に陣を設置できれば」

「三十秒もかからないよ。よし、私の匣を取りに行ったら枯岩村の下見といこう」


 スラスラと計画が進んでいくなか、師匠は師匠で口を動かしてすいすいと食事を平らげている。


「ふー食ったな、世夏」

「え? 途中から酒も飲んだのか!?」


 満足そうな師匠に対して顔が曇る世夏。一段落つき、これ以上食べられないように会計を頼む。





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