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第13話 見習いタッグ

 

「今日は俺が置いてく番か。……いってくるよ、師匠」


 朝早く、世夏は身を起こすと、膨らんだ隣の掛け布団に呼び掛ける。今日使う術の候補は幾つか昨日の内に決めていた。紙札などいつもの道具が入った鞄を持ち、世夏はもう一度だけ寝床の方へ歩いてみる。朝方は冷えるのか、師匠は頭まですっぽりである。少し早く準備が終わっても、特にやれることは無い時間に状況。六時前に世夏は宿を後にした。


「往来……というかこの時間は行く人ばかりだな」


 このような早い時間に街に着く旅人は殆どいない。僅かに世夏の眼に映る人々は、郊外へ繰り出すか、日が出るまでに備えて店の準備をしている。


「あ、世夏さん……師匠さんはいないんですか?」


 世夏も時間通りに着いたが、立炉木の方が早かった。一目見て昨日の幼女が居ないのに気付き、周りを確認する。


「多分二日酔いになってるだろうから宿で寝てるよ」

「分かりました」


 ちょっとそわそわした様子だったが、意を決したように世夏の方に向き直り、口を開く。


「では、行きましょう」


 晴流傘の西は草原が広がっていたのだが、東は岩場が多く所々に立ち木が生えている程度だった。世夏は横の立炉木が転ばないか心配していたが、思ったよりも足取りは軽い為、適当な話を始める。


「立炉木さんはなんで土地師になったんですか?」

「昔、街の外を歩いていたら妖に襲われたんです。その時に土地師の人に助けられて。従鬼も滅茶苦茶強そうだった……まあ、ありがちだよね……」


 途中まで光景を浮かべるように語っていた立炉木だが、ふと語調が弱まって来て、早めに話を切ってしまう。それに対して、世夏は真面目な表情で答える。


「立炉木さんにとって大切な思い出なんですよね。なら、誰からも文句を言われる筋合いはない筈です。立炉木さんには目標となる人がいるんですね」


 世夏は自分にとっての目標の人を考える。由来代さんか、胡仰藍さんか……パッと浮かぶ知り合いの強い人々は、少し世夏の目指す先とは違う気がした。


「いや。あの人はとても強くて、自分じゃ正直勝ち目ないから。開封屋が守ってくれるこの職業で、敢えて戦うほど器用でもないし。確かに憧れてはいるけど、何となく土地師になろうと思ってそのまま……」


 立炉木も目標を探す旅の途中なのか。皮肉な事に過去の立炉木は、憧れが生まれた瞬間、その憧れを目的に出来る程甘くない事を知ってしまった。彼は世夏から見ても幾分か若いが、他人の人生に触れ、改めて世夏は自分の旅の意味が知りたくなった。


「きっかけだけでも教えてくれて嬉しい。けど、正直踏み込んだ質問だったから、これからは気を付けます。目標はこれから見つかると良いですね」


 そう言うと世夏は立炉木に笑い掛ける。誰にでも性格の欠点は一つや二つあるものだ。今そう思うのは割と失礼だが、世夏はもう少し立炉木と仲良くなれる気がした。


「ところで、世夏さん本人は腕に自信が? 自分は基礎の術は知ってますが、戦ったことは無くて」


 まだ若干従鬼の事を引きずっているらしい。よくよく考えると、立炉木のように従鬼がいない土地師や開封屋は他にもいるのだろうか。分からない。ことあるごとに祓い全般への理解の浅さが嫌になって来る世夏。


「そういえば、土地師はどうやって実績を積むんだ? その、この界隈のことをあまり知らなくて」


 記憶が無い事は一応伏せて話す。


「色々ありますが、試験を受けます。その地域の事や、封印の事とか色々……自分は実戦は初めてですが、世夏さんのような熱い人と組めて良かったです。師匠さんはお留守番ですけど」

「熱い……ってこれが初依頼だったのか」


 想定外な評価に驚いていたら、更に衝撃的な事実を知った。


「あれ、開封屋組合の強そうな女の人には説明したんですが」


 内ではどうあれ、平静を装う世夏。世夏の言葉が気になったのか、思わず立炉木が聞き返すが、まだ彼まで焦ってはいなさそうだ。


「……任せてください。効きそうな陣と札は一杯持ってきたんで!」


 初心者二人はもしかしてヤバいのではないだろうか。世夏は急に道中の時間感覚が麻痺してきた。浮き足立って風景どころでは無かったが、立炉木の方から声を掛けられて我に返る。


「そろそろ清流にあたるのですが、ここらでお昼にしますか?」

「そうしよ……しましょう!」

「お腹空いたんですかね。別に敬語は良いですよ」


 世夏の勢いに思わず立炉木が笑う。


「そんなこと言うなら俺にも使わなくて良いよ」


 あと数分も歩けばちょうど良い場所に出ますよ、と立炉木に言われたが、確かに地形が少し開けている。普通に案内してくれるだけで世夏にしてみればありがたい。


「改めて座る岩には困らなそうな場所だ……」


 見渡すと岩ばかり。適当に選んで世夏と立炉木が座り込む。


「いただきます」

「世夏さんはいつもそんなご飯を?」


 立炉木が珍しく目を大きくして世夏を……世夏の手にする笹巻の寿司を見つめる。


「晴流傘では店で食べてるけど、遠出の時の保存食にもぴったりじゃないか?」


 千里庵では比較的お気に入りの寿司だが、前に胡仰藍が料理を持ち帰っていたので、世夏も出先で食べる為に頼んで来ていた。


「普段は外食、外ではこれ……世夏さん」

「え? はい、何ですか」

「自分が晴流傘の料理と金銭感覚を教えます!」


 そう言い放つ立炉木からは、遍片鬼退治に引けを取らない熱を感じた。


「分かっ……この岩」

「どうしました? 持ち帰ります?」

「いや、良いや。宿の管理人さんに怒られそうだし」


 西瓜くらいの岩に座っていた世夏。確かに手頃な大きさではあるが、わざわざ持っていくのは違う。何か這っていたような感覚から立ち上がって確認したが、何もいなかったので適当に流す。

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