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7話『説得と悪魔と地球と』

「どうして爆弾を使って地球を破壊したいなんて考えたんだ?」


 まずは何故南里は地球を破壊したいのか、それを知ることが重要だと僕は思った。


 それは地球を破壊したい理由が分かれば、その理由を解決することで南里が地球を破壊せずに済むからだ。


 南里は呆れたように言った。


「あなたそれ、私と出会った昨日も言っていましたよね?」


 昨日、南里に出会って爆弾のスイッチを押されないように時間稼ぎとして僕は同じことを言った。けれど、


「あの時とは状況が違う、南里はあの時は僕とこんなことになるとは思ってなかったから教えてくれなかったんだろう?僕は南里を説得したいんだ。何故地球を破壊したいかを教えてくれないと説得は難しい」


 南里は呆れた表情のまま、深いため息を吐いた。


「あなたが私を説得するのを、私が手伝うんですか……まあ布団を買ってくれたことに免じて教えてあげましょうかね。……特に大それた理由は無いのですが、強いて言うなら好奇心、ですね」


「……好奇心?」


 南里はうっとりと微笑んだ。


「はい。……あの爆弾を起爆し、地球を破壊したら面白そうじゃないですか?」


「面白そうって……!」


 こいつは頭がおかしいのか、僕はそう思わずにはいられなかった。地球を破壊することの何が面白そうなのか、自分が、全ての生き物が死ぬにも関わらずそれを面白がるだなんて、僕には理解出来なかった。


「みんな、みんな死ぬんだぞっ!世界中のみんながだ!南里の大切な人や今この地球上に生まれて間もない小さな赤ん坊だってそうだ!それでもいいのかっ……!」


 南里は毅然とした態度で、平然と、事実を淡々と語るように答えた。


「昨日も言ったはずですが、私の両親と祖母は死にました。親戚も居なくて、私は今まで一人で暮らしてきました。そんな私に大切な人なんていません」


 南里は続けて言った。


「そしてそれでもいいのか、という質問に答えると、別にいいですよ。地球上の人々や生き物に対して申し訳ないとは思いますが、私が地球を破壊しない理由にはなりません」


「……その考え方は、誰も認めてくれないぞ」


「別にいいですよ、世界中の人間が私に罵詈雑言を浴びせようと死人に口なし、私には届きません」


 この少女は悪魔だ。両親と祖母が死んでから一人で暮らしてきたのが関係しているのか、その言動は自己中心的で、自分以外のことなんて何とも思っていない。世界に自分しか存在していない。


 僕はそんな少女、南里に対して恐怖を覚えた、という訳ではなく、南里を不思議に思った。


 言動こそは自己中心的で常軌を逸しているが、僕は南里の行動が自己中心的に感じることはほとんどない。


 布団だって自分で買うつもりだったようだし、多少の文句を言ったものの、食事だって作ってくれる。


 言動がここまでおかしい狂った人間なら、行動も少しはおかしくなるはずなのに。南里の言動と行動はちぐはぐで、違和感がある。


 南里詩乃はおかしい人間なのに、おかしくない。そんな謎めいた不思議さがあった。


「さあ、説得を続けてください。まだまだこれからでしょう?」


 南里は悪魔のような笑顔を僕に見せて言った。僕が必死になっているのを見るのがそんなに嬉しいのだろうか。


「今日は……終わりだ」


 南里はそうですか、とつまらなそうに言ってまた部屋の隅に座った。


 南里のことは分からなかった。けれどそんなことでめげてはいられない。平凡から抜け出して特別な人間になるまでは死ねないから。


「これからは思考を変えるよ」


「……?」


 一回目の説得は失敗した。このままではきっと何回説得をしても南里の狂人的な考えは変わらず、地球は破壊されてしまうだろう。だから僕は思考を変えることに決めた。

 

 南里詩乃に暴行を加え、スイッチを奪い取る?それは無理だ。人に暴力を振るいたくないという高尚な理由なんかじゃない。自分が、地球が死ぬかもという時にそんなことを考える人間などいないだろう。ただ単に隙がないという理由だ。南里は肌身離さずスイッチを持っている。


 じゃあどうするのか、


「これからは南里に地球を、生きることを好きになってもらえるようにする」


「……というと?」


「色々な場所に出かけて、色々なことをして、色々と楽しむ。地球のいい所を知れば地球を破壊したいだなんて思わなくなるだろ?」


 続けて僕は言った。


「南里を止めれたら、僕は平凡じゃない、特別な人間になれたと言えるかもしれないしな」


 南里はいいんじゃないですか、と興味なさげに、ぶっきらぼうに言って小説を開き、読み始めた。


「そんなことをして私を止めれるとは到底思いませんけどね」

 

「やってみなければわからないさ」


 そうして南里に地球を好きになってもらうための日々が始まった。

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