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4話『料理禁止』

 僕は地面から立ち上がった。


「これからどうするんだ?」


 彼女を説得するにしても具体的に何を今から、これからすればいいのか分からなかったため、僕に笑いかけた後、爆弾のそばに立った彼女に訊いた。


「あなたの家に住ませてもらいます」


「……はあ?」


 あまりに唐突、突然言われたので僕はひどく驚き、言葉が出なくなった。


「私を説得したいのではないのですか?」


「……そうだけど、説得することと君が僕の家に住むことにはどんな関係があるんだ?」


「説得するためには、時間が要ります。なら、私があなたの家に住めば私を説得する時間を確保出来るでしょう?」


 一理ある、僕はそう思った。けれど彼女は見た目的に恐らく高校生で、未成年だ。こんな状況で世間体を気にする訳では無いが、あることは気にしなければならなかった。


「保護者は心配しないのか?」


 普通に考えて、自分の娘が出会って間もないような男と一緒に住むだなんて保護者は許さないし、警察に通報される恐れすらある。それを考えると僕は彼女を家に迎え入れようとは思えなかった。


「私は十八歳ですが、私の両親は私が中学三年生のときに交通事故で死にました。祖母に私は引き取られましたがその祖母も歳ですぐに死にました。高校には行っていないので、私には先生もいません。なので大丈夫です」


 彼女は淡々と、平然と、それが何でもないかのように言った。そして、その言い方や彼女の表情から彼女が悲しんでいるのか、憂いているのか、それとも傷心しているのか、僕には想像つかなかった。


「……分かった、案内するよ」


 僕がそう言って山を降りるため山道に戻ると、彼女はあまり僕の近くを歩きたくないのか、僕の三歩後ろについて歩き始めた。


 それを確認した僕は山を降りながら後ろを歩く彼女に質問をした。


「あの爆弾は君が作ったのか?」


 彼女は即座に「なわけないでしょう、アホ」と言った。


「私はあの爆弾を見つけただけで作ってなどいません。あんなもの私が作れる訳ないでしょう」


「じゃあ、誰があの爆弾を作ったんだ?」


 僕が彼女に訊くと、彼女は僕の二歩後ろで、僕に聞こえるような大きくて深いため息を吐いた。


「誰が爆弾を作ったのか、なんて考えてる暇ありますか?それとも私を説得して改心させるなんて容易いと?」


「そんなわけじゃないけど……」


 気まずい雰囲気がその場に流れた。僕も彼女も何も話さず、ただただ山を下って僕の家へ向かっていく。


 そんな雰囲気に耐えかねて僕はその場に止まり、後ろを振り返って口を開いた。


「そういえば、名前を訊いてなかった。君、名前は?」


「…… 南里詩乃(ナンリシノ)


 彼女はぶっきらぼうに名前を教えた。何故ぶっきらぼうなのか、それは僕と馴れ馴れしくするつもりはないということだろう。


「僕の名前は佐原泰樹、よろしくな」


「……訊いてませんよ」

 

 そこからは僕も南里も何も話さなかった、というより僕は話す話題がないので何も話すことができなかったし、南里はそもそも僕と話す気なんてないようだった。


 完全に、南里は僕のことを嫌っている。


 なのにどうして南里は僕に、僕が住む家に住むなんて提案を持ちかけたのだろうか。


 そうして僕と南里は僕が住んでいるアパートに着いた。僕のアパートは木造で、とても家賃が安い。そのため部屋の中はかなり狭いが一人暮らしだからいいや、僕はそう思いこのアパートを契約した。


 南里は僕の部屋を見て一言、


「狭い」


 やはり二人だと狭いか、そう思ったが自分から住むと言ってきた南里に文句を言われる筋合いはないため、僕は南里の文句を聞き流した。


 お腹が空いたな、と思い部屋の壁に付いている時計を見ると時刻は十八時だった。


「もうこんな時間か、僕は料理を作ることにするよ」


 南里はリビングのテーブルの近くにある座布団に座り、感情のこもっていない声で「そうですか」と言った。


 僕がキッチンに向かおうとすると、爆弾のスイッチを右手に持ち、僕を脅した。


「警察を呼んだり、私に暴行を加えたりしたらスイッチを押しますからね」


「わかったわかった、だからその危ないスイッチをしまってくれ」


 南里は僕の言葉を聞いて、嫌そうな顔をした後、僕から目を離さないでスイッチを小さな白いカバンに入れた。


「冷凍食品と惣菜でいいか?」


 キッチンで冷蔵庫を覗きながら言うとリビングの座布団に正座している南里がキッチンにいる僕が聞こえるように少し大きめの声で言った。


「私の身体に悪いのでダメです、きちんと料理をしてください」


 なんて図々しくて厚かましい奴だ、それなら自分で作れ、と言いたかったが僕の、いや地球の生死を握っているような人間にそんなことは言えなかったため、僕は元々冷蔵庫に残っていた食材を使って料理をした。


「はい、出来たぞ」


 僕はテーブルに白米の上に焼肉が乗った丼を二つ置いた。するとそれを見た南里は眉をひそめて言った。


「もうあなたは料理をしないでください、これからは私が料理をします」

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