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伝説の保育士ドラコ登場!戦士式教育 vs ギータ流日本式保育 ~異文化理解の壁~

「おい、新入り。あいつらを黙らせろ」


ギータが幼竜たちの騒ぎに戸惑っていると、筋肉隆々の竜人族の男、ドラコがそう言い放った。


「え、俺が?」

「そうだ。貴様がここの担任だろう。さっさと始めろ」


ドラコは、ギータに有無を言わせぬ威圧感で迫る。


「……わ、わかりました」

ギータは、前世の保育士経験を活かし、幼竜たちに声をかけた。


「みんな、落ち着いてくれるかな? 先生と、一緒に遊ぼう!」


しかし、まだ竜人の扱いに慣れていないギータは言うことを聞いてもらえない。

幼竜たちはギータの言葉を無視し、さらに騒ぎを大きくする。


「肉よこせーっ!」「俺が一番強いんだぞーっ!」「うわあああん、痛いよぉーっ!」


ドラコは、その様子を見て、ギータを嘲笑った。


「甘い。貴様のような『混ざり物』に、この幼竜たちは言うことを聞かん」


ドラコは、ギータを押し退け、幼竜たちに声を張り上げた。


「お前ら、静かにしろ! 今から、俺が最強の戦士になるための訓練をしてやる!」

ドラコの言葉に、幼竜たちは目を輝かせた。


「訓練!? かっけー!」「俺、ドラコ先生みたいになる!」

ドラコは、幼竜たちに厳しい訓練を始めた。


「「腕立て伏せ百回! 魔法制御の訓練! 組み手!」

ドラコの怒号が、保育室に響き渡る。


幼竜たちは、必死にドラコの指示に従い、体を動かす。

しかし、その小さな体には、あまりにも過酷な訓練だった。


「うう……もう、腕が上がらない……」

一匹の幼竜が、泣きそうな顔で呟いた。


「泣き言を言うな! 戦士に涙は不要だ!」

ドラコは、容赦なく幼竜を叱り飛ばす。


「立て! まだ半分も終わっていないぞ!」

幼竜は、涙を堪えながら、必死に腕立て伏せを続ける。

その様子を、ギータは複雑な表情で見つめていた。


(これは……まずい)

ギータは、ドラコのやり方に強い危機感を覚えた。

「ドラコ先生、少しやりすぎです! まだ幼い子たちなんですから、もう少し優しくしてあげてください!」



ギータが抗議すると、ドラコはギータを睨みつけた。

「貴様のような『混ざり物』に、この子たちの何がわかる? 甘やかすだけが教育ではない。時には、厳しさも必要なのだ」


「厳しさ、ですか……。でも、今のドラコ先生のやり方は、ただの虐待です!」

ギータは、ドラコの言葉に反論する。


「貴様! 『混ざり物』の分際で、この俺に口答えするとは!」


ドラコは、怒りのあまり、ギータに拳を振り上げた。

その時、一匹の幼竜が、ドラコの足にしがみついた。



「ドラコ先生、やめて! ギータ先生は、やさしいんだよ!」


幼竜の言葉に、他の幼竜たちも賛同し、ドラコを非難し始めた。


「そうだ! ギータ先生は、僕たちと遊んでくれるし、面白い話もしてくれる!」

「ドラコ先生は、いつも怒ってばかりだ!」

幼竜たちの言葉に、ドラコは言葉を失う。


「……貴様ら、一体何を……」


ドラコは、戸惑いを隠せない。


「ドラコ先生、あなたは勘違いしている。この子たちは、戦士になるために生まれてきたのではありません。ただ、強く、優しく、そして幸せに生きてほしいだけなんです」


ギータは、ドラコに静かに語りかける。

「強さと優しさは、決して矛盾するものではありません。私たちは、その両方を教えることができるはずです」


ギータの言葉に、ドラコは考え込む。


(こいつの言うことは、俺の知っていることと、あまりにも違う。だが、この幼竜たちは、こいつの言うことを聞いている。なぜなんだ?)


ドラコは、幼竜たちの目を見た。彼らは、ギータを信頼し、尊敬している。


(俺は、この子たちに、何をしてきたんだ?)


ドラコは、自分の過去を振り返った。

幼い頃から、戦士として育てられ、弱さを見せることを許されなかった。

その孤独さは自分を強くしてくれたと思っていたが心に暗い影を落としていることも又事実だった。


(俺は、この子たちに、同じことを強いようとしていたのか?)


ドラコは、ギータを見た。

彼は、幼竜たちに優しく語りかけ、彼らの成長を心から願っている。


(こいつは、俺とは違う。だが、もしかしたら、こいつのやり方は間違っていないんじゃないか?)


ドラコは、葛藤した。

自分のプライド、過去の経験、そして、目の前にいる幼竜たちの姿。



そして、ひねり出すように言葉をこぼした。

「……貴様の言うことも、一理あるのかもしれない」


ドラコは、ようやくギータの言葉に耳を傾ける決意をしたのだ。


「しかし、俺は……どうすればいいのか……」


ドラコは、戸惑いを隠せない。



「ドラコ先生、私たちは協力し合いましょう。この子たちにとって、何が一番大切なのか。僕も分からないことだらけです。いっぱい教えてください」


ギータは、ドラコに手を差し伸べる。

ドラコは、ギータの手を握り返した。


「……わかった。貴様と協力してみよう。だが、その前に、謝らなければならないことがある」



ドラコは、ギータに頭を下げ、深く息を吐き出した。その表情には、普段の威圧感はなく、深い後悔の色が滲んでいた。


「……すまなかった。先ほどは、貴様を『混ざり物』と呼んだ。あれは、俺が長年染み付いてきた、忌むべき偏見だ」


ドラコの言葉は、重く、苦々しかった。

ギータは、その言葉に、ドラコの心の奥底に根付いた、深い差別意識への葛藤を感じた。


「俺たちは、異世界から来た人間たちを、そう呼ぶ。純粋なウシュムガル人ではない、異世界の記憶を持って産まれた、劣った存在、と」


彼自身が、その言葉を忌み嫌っているかのように、言葉を吐き捨てる。


「だが、それは……間違いだった」


ドラコの声が、わずかに震えた。

彼は、ギータの瞳を見つめ、続けた。


「貴様は、俺たちと同じように、この子たちのことを真剣に考えている。そして、その瞳には、嘘偽りのない優しさが宿っている。俺は、自分の浅はかな考えを、深く恥じる。これからは、貴様を『ギータ先生』と呼ぼう」


ドラコの言葉は、ギータの胸に深く響く。

それは、単なる謝罪ではなく、決意表明のようにも聞こえた。



「いえ、気にしないでください。ドラコ先生も、この子たちのことを思ってのことですから」


ギータは、ドラコの謝罪を受け入れた。

そもそもギータは必死過ぎて「混ざりもの」と呼ばれたことさえあまり覚えていなかった。


「ああ。俺は、この子たちが立派な戦士になることを願っている。だが、貴様の言うように、優しさも必要かもしれない。これからは、貴様と協力して、この子たちを育てていこう」


ドラコは、ギータに微笑みかけた。

こうしてギータはこの異世界ウシュムガルで新たな協力者を得たのだった。



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