鳥籠の中の君へ
ピュアニスタ固定の短編物語
「Gavriel」×『謎の少年』
生暖かい光が、僕を現実世界へと引き戻してくる。
ああ、もう朝…。いや、この感覚はどうにも感じたことがある。
「…また、君なのかい?」
目を閉じたまま僕を見てるであろう彼にそう問う。
『 よく 気がついたね 。』
「…だと思ったよ。今日は何の用だい?」
小さくため息をついたあと、重い瞼を開けると案の定彼がいる。相変わらずルビーのような綺麗な瞳がきょとんと僕を見つめていた。
『 用 ? 特にないよ 。 君に 逢いたかったんだ 。』
「ああそうかい。随分僕のことが好きみたいだ。」
『 好き ? あんまり よく分からない 感情 …。』
「 君、本当に無知だな。可哀想なくらいに。」
『可哀想 …。 ぼくが? 』
彼が首を傾げる。
「そうだとも。人の子として必要な感情が君には足りていない。」
『ぼくは "感情" が 必要なの? 』
少し難しい顔をした彼が、更に首を傾げた。
正直、彼はとても興味深い。人の子でありながらまるで人の子とは思えないような言動をする。
「僕は、君みたいな"変数"が大好きなんだ。」
『 へん、すう … ?』
「君に全て教えてあげよう。感謝したまえ、大天使様の直々だぞ。」
僕が喋る度に、彼は難しい顔をする。
まるで赤子のようだ。何も知らない、完全なる無知。
「君、僕以外の夢にも行き来するみたいじゃないか。それは何故だい?」
『 分からない。 願うんだ。 心が 痛い時に。 』
これは傑作だ。彼の感情が無いわけではなかった。
表し方をしらないのだ。
「君は寂しがり屋だ。それもとてつもない、ね。」
『さみしがりや …。 お店なの ? 』
「…はぁ。違う。比喩としてだな…」
小一時間ほど詰めてようやく理解した様だった。
"感情"を段々と知る彼は、まるで子供のように表せることを全て話し出した。
『ぼく 、 君が好きみたい 。』
「ああ、そうかい。」
『ぼく、 独りが嫌なんだ。 』
「…君は、孤独だからな。僕にだって救えない。」
『大天使なのに ? ぼくのこと、 助けてくれないの。』
「それは…怒りかな。それとも、悲しみかな。」
『わからない。』
『 ぼく、 君とずっと一緒にいたい。 』
『ぼく、 また君みたいに話してくれる人を探さないといけなくなるんだ。』
『ぼく、 君がいないと… 心が 寂しいんだ…。』
今までに見た事もないくらい、必死に彼が僕に訴えかける。その綺麗な瞳には、涙が見えた。
初めて、苦しみを知った顔だった。
「できる限り、君に会いに行こう。」
『本当に…! もう、孤独じゃないんだ…。』
彼は目に涙を貯めて僕を優しく抱きしめた。
「そんなことをしていると、別れが寂しくなるだろう?」
『もう… 行っちゃうの? 』
「すぐ逢いに行くさ。」
嗚呼、なんて可哀想な人の子よ。
僕の教えた
ほんの少しの喜びと
小さな体には大きすぎる絶望を
背負って……
知らなくてよかった不幸を教えた僕に
依存してしまうなんて……。
まるで鳥籠の中で飼われている小鳥だ。
「最後に……」
「僕のことが好きで仕方がない君に、それを表現する言葉をひとつ教えてあげよう」
──愛してる。