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トリアエズの町①

 

 クダラノワールドは日本生まれのゲームだ。

それ故に日本の言葉や文化が由来になったであろう名称が各所に見られたりする。



 「クダラノには、膨大な数のエリアがある」


草原の小径を歩く俺の後ろをミドリコ、ヒロカ、アカネの3人はキョロキョロとしながらついて来ていた。


きっと今は見るもの全てが物珍しいのだろう。


「最初にクダラノに潜った奴が飛ばされるのが、このレベル0エリア。草原と湖、そして町がある広範囲ゾーンだ」

「ってことは、私達は今レベル0ってこと?」


ヒロカに尋ねられた俺はこくりと頷く。


クダラノのレベルは0スタート。しかも中々レベルが上がらない仕様のため、戦闘メインのプレイヤー以外は半年間レベル0のままなんてことも決して珍しくない。


「じゃあ、レベル1になったら次のエリアに行けるようになるの?」

「いや、そうじゃない」


ミドリコの質問に、今度は俺は首を横に振った。


「クダラノにレベル縛りはない。極論を言えば、レベル0で現在最高のレベル1104エリアへ入ることも出来る」


あくまでエリアレベルは目安というか推奨なのだ。


「でも、今の私達がその1104エリアに行ってもワンパンでやられるっしょ?」


そう聞いてくるのはアカネ。


いかにもギャルな彼女からワンパンという言葉が出てきたのはちょっと意外だった。


「ワンパンどころか、エリア内の瘴気しょうきにやられて空気吸っただけでお陀仏だろうな」

「いやいや、息しただけで死ぬなら行く意味ないじゃん」


ケラケラと笑っているが、それは核心でもある。


実際プレイヤーはクダラノに慣れてくるにつれ徐々に自分に合ったレベルを知り、その範囲内で行動するようになる。


クダラノワールドでの“死”、つまりゲームオーバーには活動停止5日間のペナルティが課せられる。


それに加え、レベルの減退(レベル10以下は-1、レベル10~20は-2……というように)、稼いだポイントと通貨の一部没収と、そのダメージは他のゲームに比べ信じられないほど重い。


当然多くの者は死を回避することが最優先となり、無茶をせず自らの身の丈を知ることが上級プレイヤーへの第一歩ともいわれる。


「でも、それなら どうしてそんなシステムなの?」


ミドリコが首を傾げるのも無理はなかった。


行っても無駄なら、最初から自分のレベルにあわせたエリアだけを解放してくれたほうが親切だ。


「確かに、俺達がレベル1104エリアを攻略することは難しい。でも、例えばレベル5エリアなら?」

「あ」


逆に問うと、ミドリコは何かに気づく。


「かなり厳しいけど、大勢で力を合わせたり、作戦を練れば不可能じゃない」

「戦略次第でどうにかなるってこと?」

「そういうこと。それがクダラノの難しいところでもあり、面白いところでもある。……と、雑誌に書いてあった」


今の自分はアタルだったことを思い出し一応付け加えたが、お喋りに夢中な彼女達は俺の話など大して聞いちゃいなかった。


「それで、今から行く町で何すんの?」


町が前方に見えてきたあたりで、俺の隣に並んだアカネが尋ねる。


「トリアエズの町では、とりあえず……」

「は?」

「ん?」

「トリアエズの町って何? ダジャレ?」


しばし顔を見合わせた後 彼女は大きく笑い出した。


まあ確かにオヤジギャグかと思われても仕方ないのだが、本当にあの町の名前はトリアエズなのだ。


「このクダラノワールドは最初は何もない空間からスタートした。段々プレイヤーが増えて集まり、建物を造り、道を開き、そして町ができた」

「それが、あの町ってこと?」

「初めに町を開拓したプレイヤーの中に日本人がいて『とりあえず町を作ろう』って言ったのを聞いた外国人がそのまま町の名にしたらしい」


実際は俺がこのレベル0エリアから離れた後の話だから真偽は分からない。


けれど、クダラノ内ではまことしやかに語り継がれているエピソードだ。


他にもアッチの滝とかソコノ薬屋なんてのもどこかのエリアにあるとかないとか。


「町では何が出来るの?」


話題を戻したミドリコの問いに俺はちょっと考え込んだ。


言われてみれば、これと一つに絞るのは難しい。


「色々できる。本格的に冒険に出掛ける者なら仲間探しや装備の入手とか。しばらくそこで情報収集をするのも賢いやり方だ」

「他には?」

「それほどバトルに興味がなければ、町で商売を開くプレイヤーなんかもいる」

「商売?」


不思議そうに3人が声を揃えた時、ちょうど俺達の足はトリアエズの町の入口に到着していた。


「まあ、説明するより見たほうが早いだろ」

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