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本体

 

 私立D高校 3年3組 出席番号18番

 間瀬ませ 亜汰流あたる


それが現実世界での、俺の全てだ。


 今朝はさすがに寝不足だったけれど、どうにか遅刻はせず学校には間に合った。

……朝食は食べ損ねたが。


校舎の玄関口で靴を履き替えていると、ふと姿見に映し出された自分の姿に気がつく。


普通の身長と普通の体重。こげ茶色の髪(生まれつき)とこげ茶色の瞳。

どこでも見かける典型的な日本の男子高校生だ。


こんな平凡な自分を見ていると、クダラノワールドでアマテラスとして活躍している俺は実は幻なんじゃないかと思うことがある。


しかし。


「昨日のトーナメント見たか?」


背後から、興奮した様子の男子達の会話が聞こえてきた。


「見たに決まってるだろ。アマテラス、今年も圧倒的だったな」


その手には、昨日の決勝戦の動画が流れるスマホ。


「すっげえよなあ」

「実物はどんな奴なんだろ」


そんな会話をしながら、賑やかなお喋りは去っていった。


昨日からテレビでも新聞でもネット記事でも、その話題はトップ級の扱いだった。


なんせ、賞金として相当の金額が動く世界規模の大会。それだけの価値があるということなのだろう。


ちょっとネクタイを直した俺は、自分の顔を一瞥いちべつして歩き出した。


 階段を上った3年3組の教室に入り、ざわつくクラスメイト達の横をすり抜け黙って窓際の自分の席へと向かう。


鞄をかけ、イヤホンを装着し、そして机の上で寝た。


基本的に俺は行動を共にする特定の相手……いわゆる友達というやつはいない。

誰とも喋らず一日を終えることだって珍しくはない。


だが決してイジメとかハブられている訳ではなく、必要があれば会話も交わすし班行動だってこなす。


そう、これは選択的ぼっちというやつだ。……うん。


 「なあなあ、間瀬はクダラノやってことあんの?」


暖かい陽気にウトウトしていた俺は、そんな声でハッと体を起こした。


顔を上げれば、クラスメイトの小林がニヤニヤとこちらを見下ろしていた。


「クダラノ……」


寝ぼけた頭で聞き返す俺に、その坊主頭(彼は確か野球部だ)はうんうんと頷く。


「クラス全員に聞いてんだよ。ほら、今日の5限でクダラノに潜るだろ?」


潜る。というのはクダラノワールドにログインすることを指すネットスラング。

俺のような古いプレイヤーは使わないが、最近よく耳にする言葉だ。


「なんで、そんなこと聞いてるんだ?」


純粋な疑問で尋ねると、待ってましたとばかりにその顔は俺に近づいてきた。


「それはさあ、まあ俺達がクダラノの経験者だからなんだよねー」


得意そうな小林の後ろでは、彼とよくつるんでいる竹内と木暮も他のクラスメイト達に同じようなことを聞き回っていた。


クダラノの戦闘メインのプレイヤーの強さは、主にレベルではかられる。


「自分で言うと自慢みたいになっちまうけど、一応いまレベル23だからさ」


1レベルの価値が重く大きいといわれるクダラノ内で、23は普通なら3~4年ほどのキャリアだろう。


そういえば、こいつらは普段からよくクダラノのことで休み時間に盛り上がっていた気がする。


「ほら、あのゲームってちょっと特殊じゃん? だから初心者に教えてやれって田代に頼まれちゃってさ。面倒だけど仕方ねえよなあ」


鼻息荒く語る説明で、何となくの事情は察せられた。


田代とは、5限の情報の授業担当の教師の名。

どうせ仲の良い小林達に他の生徒のフォローを頼んだのだろう。


「それで、どうなんだよ。クダラノやったことあるの?」


何故か偉そうに聞かれる質問に、しばし考えた。


この感じからして、やったことがあると答えれば どうせ絡まれる。

そこから根掘り葉掘り聞かれたり、余計なことを探られるのも嫌だ。


俺がアマテラスであることを隠しているのは、目立つのが何より嫌いな性格と学校の校則がバイト禁止となっているせいだ。


今更 巨額の収入があると申告したら怒られるのは間違いない。下手したら休学処分だってあり得る。


自分の身の安全のためにも、ここはしらばっくれようと思った。


「いや、クダラノはやったことない」


そう答えると、あからさまに小林の顔は優越感に輝いた。


なんて分かりやすい奴だろう……。


「そうかそうか。じゃあ仕方ないな、俺らがちょちょいと教えてやるよ」


いきなり肩に腕を回してくる小林。


「いや、別に……」

「まあ最初は難しいかもしんないけど、そこで諦めずに頑張ろうな」

「はあ」


ウザ絡みに困っていると、タイミングよくスピーカーからチャイムが鳴る。


続けて教室に担任が入ってきて、周囲の生徒はバラバラと席に戻り始めた。


「ま、少しでも俺らに追いつけるように努力するんだぞ」


そんな言葉を残して、小林はやっと離れて行ってくれた。

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