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神々の打ち上げ②

「来年もこのメンバーで集まれるといいなあ」


同じようなことを思ったのか、ぽつりとスィーティーが呟く。


彼女は本来 順位や立場にこだわる性格でない。


けれどトップランカーともなれば他のプレイヤーから常に狙われ、地位を守るためには絶えず戦い続けなければならない。


そのプレッシャーは、上位者同士だからこそ分かり合える。


「まあ、それは また明日からの頑張り次第だな」


キラの言い方はぶっきらぼうだが、新しい挑戦者が毎日のようにこの座を奪おうと挑んでくる世界。


生き残るためには、俺達も今まで以上に努力と挑戦を続けなければならないのだ。


 「明日といえば、アマテラスは明日は学校ですか?」


そんな言葉で思い出したのか、インティがふいに俺に尋ねた。


基本的にクダラノの中では“本体”の個人情報について尋ねるのはご法度。

本人が開示している場合以外は、プライベートに触れないのがマナーとされる。


俺も、本名、国籍、年齢、性別すべてを非公開としてきた。

アマテラスの容姿が中性的なのもそのせいだ。


けれど、俺が子供だった頃から知っているインティには、大体の年齢や男であることも把握されているだろう。

 

それにランカーと呼ばれるような上位プレイヤーになればなるほど口は固い。


俺だって周囲が過熱するから引くに引けなくなっただけで、そこまで必死に個人情報を隠したい訳でもない。


だから、このメンバーだけにはふんわりとだが俺の本体のことも会話の中で伝えていた。


「ああ、そういえば」


そして、あることを思いだした俺も、ジュースを持っていた手を止めた。


「どしたの? 何か面白い話ー?」


脇腹をつつきながら、目ざといスィーティーが丸い目でこちらを見上げてくる。


「いや、大した話じゃないんだけど。……明日、授業でクダラノをやる」


何気なく言ったつもりだったのだが。


一瞬の沈黙の後、皆は興味津々といった風に一斉に俺を見た。


「どういうことだよ、それ」


不機嫌そうにキラに聞かれるが、言葉の通りだ。


「だから学校でICT?とかの勉強の一環で、流行りの仮想現実空間を実際に体験してみましょう♪ ってことみたいなんだ」

「へえ、今は学校でそんなことやるんだね」


インティが感心したように言うが、最近では授業や課外活動にクダラノを取り入れる学校は世界中で増えているという。


その理由はバトル以外にも様々な分野を体験できて生産的だから。という尤もらしいものだが、いくら人気とはいえ日本の一企業が運営するゲームをなぜ各国が推奨するのか……。

それはクダラノ七不思議の1つといわれている。


「じゃあ、アマテラスのアカウントでログインするの?」


隣からスィーティーがふざけて言うが、当然そんなこと出来るはずもない。


「仕方ないから、新しいアバターを作る」


クダラノでは複数のアカウントを持つことは禁止されてないし、明日のログインは学校の機器を使用するから不都合もないはずだ。


授業で一度使うだけの、いわゆる捨て垢というやつになるだろう。


「若者は楽しそうでいいなあ」


本心なのか酔っ払いの戯言なのか、シュヴァートがゲラゲラと馬鹿笑いをする。


俺達のことをよく若者とからかうが、彼(または彼女)が何歳なのかはいまだに謎だ。


これで実際は綺麗なお姉さんとかだったらどうしよう。


「じゃあ、あんまり遅くまでは引き止められませんね」


インティがそう言ってくれた通り、明日も学校の俺は酔っ払い達につきあっている暇はない。


「じゃあじゃあ、最後にまた乾杯しよーよー」


ウサギの耳をぴょこぴょこ跳ねさせながら、スィーティーが立ち上がった。


「これで本当に最後だぞ」


嫌そうな口ぶりのくせに、キラが歩み寄りテーブルを囲む。


「何に乾杯しましょうか」


にこやかなインティが華奢な指でグラスを持つ。


「そりゃ、もちろん アレだろ」


どうせ言われると思っていたが、シュヴァートがこの肩に太い腕を回してきた。


「そうそう、あの音頭おんどはアマテラスじゃないと」


逆隣からスィーティーまで悪乗りしてくるから、へいへいと仕方なく俺は立ち上がった。


「よっ、トップランカー!」


とシュヴァートが囃す声はとりあえず無視しつつ


「……それじゃ」


葡萄ジュースの入った透明なグラスを持ち上げると、他のメンバー達が同じようにならう。


これはクダラノワールド内の合言葉というか、一種の慣例みたいなものだ。


俺が最初に優勝したトーナメントの祝勝会で言った言葉が、後にプレイヤー全体に広まったらしい。


子供が恰好つけてしまった黒歴史が恥ずかしくて自分では言いたくないのだが、この雰囲気で照れたら逆に絶対からかわれる。


小さく息を吸った俺は、皆を見渡してグラスを掲げた。


「この優しき世界に、乾杯」

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