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go home①


 何だかやけに懐かしい夢を見た気がするが、起きると内容はすっかり忘れていた。


スマホの時計を見れば時間は夜の11時。

学校であれほど寝たのにまだ眠れる自分にちょっと引いた。


とはいえ、昨日は夜遅くまでトーナメントの打ち上げ会につきあわされ、今日は学校で初心者としてクダラノにログインし、初めての(多分)友達ができた。


身体的、精神的に疲労困憊ひろうこんぱいしていたとしても不思議ではない。


ベッドから起き上がった俺は、モノトーンで統一された自分の部屋を見渡した。


あるのは、このベッドと机と本棚、制服と数着の服がかかったハンガーラック。


そして、床に無造作に置かれたクダラノのゲーム機だけ。


クダラノは据置すえおき機が必ず必要な訳ではないが、体ごと転送という特徴柄 安全な場所で起動しなければならない。

そのため、このように自宅に設置している人も結構多いのだ。


部屋から出て廊下を覗いてみたが、家の中に人の気配はなかった。


どうせ親父も姉貴も今日も午前様か帰ってこないパターンだろう。


マンションからの夜景を見下ろし、俺はクダラノの前に腰を下ろした。



 『おかえりなさい。アマテラスの休眠時間は現実世界で19時間43分でした』


ログインして瞼を開けると、360度の輝く青空が目の前に広がっていた。


眼下は見渡す限りの大海原。地平線の先には、どこかの大陸の先がぼんやりと見えている。


 昼間、クダラノのプレイヤーが家を持つことは憧れと便宜的な理由があるという話をした気がする。


ある程度のレベルに達した者は、そのほとんどが自分の住処すみかを持つ。


そして、人はこだわりや見栄という感情を持った生き物。


アバターの見た目を追求するように、プレイヤーは時間をかけて趣味趣向をこらした自分だけの城を作り上げる。


 俺の家……というか領地は天空にあった。


プレイヤーは決まった額(ゲーム内通貨)をクダラノ運営に支払うことで土地を所有し使用することが出来るようになる。


しかし、このゲームの世情が安定してきたのはつい最近のこと。


他人の土地に押し入り主を殺して権利を奪ってしまうなんて世紀末みたいな出来事もなくはなかった。


更に有名プレイヤーともなれば、イタズラ目的で所有地に侵入されるケースも珍しくない。


それだけに、特にランカーと呼ばれるような名の知られた連中は特殊な場所に拠点を構えていることが多い。


俺がこの『天空に浮かぶ城塞』を手に入れたのは6年ほど前。


最初はレベル235エリアの一部にある島だったが、最初に攻略した俺に交渉権が与えられ、そのまま所有することにした。


深い緑の森の中に残された、朽果てた古代宮廷風の城。


一目惚れして、城の改装を依頼すると共に魔法と飛行石をふんだんに使って島ごと空中へと浮かび上がらせ住居とした。


上空まで昇って来られるのは、かなり高いレベルのプレイヤーに限られる。


それにこの島は常に空を移動し続けているから、所在は主である俺自身か俺に招かれた者にしか分からない。


セキュリティ的にも申し分なく、俺はこの“家”を気に入っていた。


 ゆっくりと空中を漂う城のいただきの部屋。


絶景の景色を眺めつつ床に寝そべった俺は、目の前にウインドウを出現させた。


今日ログインした目的は、レベル上げやエリア攻略ではなくこれが目的だ。


『はあーい。アマテラスから連絡くれるなんて珍しいじゃん』


パッと現れたのは画面いっぱいのスィーティーの顔。


ウサギ獣人は昨日と変わらずご機嫌な様子で俺にモコモコの手を振った。


「ちょっと相談なんだけど」

『なになに?』

「家を一瞬で建て直す魔法ってあるか?」


ずばり尋ねた言葉への返答は沈黙。


『いきなり連絡してきて訳分かんないこと言うのやめてもらえます?』


そして、冷たい一言で俺の問いは一蹴されてしまった。


さっきまで嬉しそうにしてたくせに……。と口に出すのは思いとどまった。


『なんで、そんなこと聞いてくるのさ』


逆に質問され、俺はトリアエズの町がモンスターによって被害を受けたらしいことを説明した。


当然、自分がその場に居合わせたことは隠して。


別にアタルのことを喋っても良いのだが、シュヴァートに隠した手前スィーティーにだけ話すとまたややこしくなる。


ましてちょっかいでも出されたら嫌なので、俺はこのまま秘密を突き通すことに決めたのだった。


『あー、そういえばシュヴァートがたまたま近くに居たって言ってたなあ』


スィーティーもその話は聞いていたらしい。


そして話のかんじからするに、シュヴァートにも俺のことは気づかれていなかったようで一安心した。


「だから、何か手助け出来ればって思ったんだ」


その気持ちは本当だ。


もしそんな便利な魔法があるなら町の復旧は各段に早まるはず。


ただ、それが高難易度の魔法だったとしたら、素早く取得できるのは俺かインティくらいになる。


そういう事情を考えての相談だったのだが。


『残念ながらそんな魔法はないんだなあ。まあ、これから研究してみる価値はありそうだけどね』


俺の意図を理解しつつもスィーティーは苦笑いを浮かべ首を振った。


「それもそうだよな」


思いつきの魔法を欲しがるなんて、小学生が「宿題が勝手に終わってる魔法があればなあ」と考えるのと変わらない。


仕方ないと心の中で諦めた俺に


『でもさ、他にも出来ることはあるんじゃん?』


スィーティーはニヤリと笑いかける。


「え?」


感じた嫌な予感は、当たらずも遠からずとなった。

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