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神々の打ち上げ①


 「ということでぇ、最強ランカーにかんぱ~い」


 グラスを掲げ、既に何回目か分からない乾杯を強要するシュヴァートに俺は絡まれていた。


「いや、だから俺 未成年だって」


このやり取りももう何度したか分からないが、ベロベロに酔ったシュヴァートには聞こえていない。


「仮想空間でそんなのぉ、関係ないらしょー」


そう言いながら持っていたビールをいっきに煽る。そして俺の肩で寝る。酒臭い。


セリフだけ聞いているとまるで酒に弱い女の子のようだが、これで普段は不愛想なゴリマッチョのおっさんアバターなのだからたちが悪い。


クダラノワールド第7回競戦トーナメント、3位の猛者の面影はどこにもなかった。


 「まあまあ、こうして皆で久しぶりに会えたから嬉しいんだよ」


そんな声に顔を上げると、近づいてきたスィーティーが俺の隣に腰かけた。


スィーティーの見た目は、女の子とウサギを掛け合わせたような獣人型アバター(ウサギのケモ度高め)。


だが、形態の中ではこの姿が一番可愛らしく、他にはゴリラや鷲、鰐やライオン、恐竜なんてものにも変わることも出来る。


クダラノでは、プレイヤー1人につきアバター1体が当然のように常識だった。


そんな中、動物が大好きで仮想空間なら好きなだけ飼育が出来る! という理由でワールドにやってきたスィーティーは、手当たり次第 色々な動物のアバターを作成していたが、ある日


「これ、一つにしたら良くない?」


と思いつき、自分で変身魔法と武器用の融合アイテムを魔改造し……1つのアカウント内でいくつものアバターに変身する技術を開発してしまった。


それ以来、アバターは1つという固定概念は崩れ、特異な技術と高度な魔法力を持った高レベル者には限るが、変身術を使うプレイヤーは日々増え続けている。


俺も以前スィーティーと戦った時は、鰐獣人を斬ろうとした瞬間に可愛らしいリスに変身され、つぶらな瞳に躊躇ためらったところを反撃されたという苦い思い出がある。


元々あまり戦闘は得意でないものの、その唯一無二の能力で何となく勝ち進んだ彼女は今年もランク5位をキープした。


 「たっく、これだから酔っ払いの集まりは嫌なんだよ」


ボソリと聞こえてきた声に「また始まった」と思いながら、寄りかかってくるシュヴァートを押しのけ飲み会場になっている酒場の隅へと目を向けた。


そこでは予想通りの気障きざな佇まいでキラがワインに口をつけている。


「そんなこと言って、お前だって来てるじゃん」

「ふん。誘われたから仕方なく顔を出しただけだ」


美しい青系グラデーションの長髪をかき上げる生意気そうな仕草。


この色彩パターンは限定一点もので、キラにしか使用が許されていない。


瞳を飾るのは湖の底を思わせる煌めくアイスブルーで、その容姿端麗なアバターはクダラノ内はもちろん現実世界の女性からの人気も非常に高いという。


キラはプレイを初めてまだ4年とクダラノ内では中堅どころだが、その情熱と戦闘センスでみるみるランクを駆け上がり、今や4位のプレイヤーにまで成長した。


「元々、俺は一匹狼なんだ」


しかし、こんな風にすかしているが、俺はこいつが重度の中二病かつアニヲタだという事実を知っている。


そして(多分)年が近い分、何だかんだで実は一番仲が良いのもキラだったりするのだ。


 「まあまあ。本当はキラ君だって皆で集まれて嬉しいんだから」


そして、最後に俺の目の前に座った人物。


長い白金プラチナの髪と、虹色の瞳。白い薄衣のドレスがトレードマークの彼女を見た者は、皆が最初はその職業を巫女や聖女だと思うらしい。


しかし、実際はゴリゴリの魔法剣士。


一番長く戦ってきたライバルであり、このクダラノワールドの古い戦友。


そして……俺の初恋の人でもある。


ランク2位のインティは、いつもの優し気な微笑みで俺のグラスにゆったりと葡萄ジュースを注いでくれた。


 「まあ、そういうことで」


グラスではなく目の前のインティの顔につい見入ってしまっていると、存在を忘れていたシュヴァートがのっそりと起き上がる。


「競戦トーナメント7連覇のアマテラスに~乾杯!」


そう叫び、再び酒盛りは始まるのだった。


 ちゃんと1日の時間経過があるクダラノの世界で、今は夜中。


外へ目を向けると、酒場の窓ガラスには“自分”の姿が映っていた。


ランク1位:アマテラス


星空を思わせる輝く黒髪に、太陽のエフェクトが揺れる赤い瞳。


神話の最高神の名を冠したこのアバターが、クダラノワールドでの俺だった。



 ここは第7回競戦トーナメントの打ち上げ会場。


競技が終わった後、インティが1位から5位までのプレイヤーで一杯やろうと声をかけてくれて、こうして集まっていた。


普段は人見知りで他人と慣れ合わない俺だけれど、ここにいるのはつきあいの長いメンバーばかり。


皆、気ごころの知れた信頼の出来る奴等だ。

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