戦いのあと③
「おーい、これどこに置くんだ」
「こっちの運び出しも手伝ってくれ」
祝宴も一段落したようで、武器屋には片づけと修繕を手伝うプレイヤー達が段々と集まってきた。
「この柱 押さえててくれ」
「こうでいいの?」
案外その中に馴染んでいるのがアカネで、大工のじいさんと組んで積極的に壊れた店の柱や壁なんかを直している。
「なんか、あいつ普段より生き生きしてるな」
「あの子、結構フィギュア作りとか好きだから性にあってるのかも」
俺が散らばった破片やゴミを箒で集めながら呟くと、隣でちりとりを持ったヒロカが明るく笑う。
「へえ、人は見かけによらないな」
とは言ったものの、快活な性格のアカネはガテン系とは相性が良いのかもしれない。
再び箒の手を動かし始めると、穴の開いた壁の向こうにミドリコの姿を見つけた。
彼女は修繕に使えそうな材木や部品を貰ってきてくれと頼まれて、武器屋と近所を行ったり来たりしている。
けれど、この武器屋の他にも被害を受けた家や店はたくさんあり、今はどこも材料不足だろう。
今夜にでもアマテラスとして何か支援をしたほうがいいかもしれない。
「そういえば」
ふと思い出し、俺はヒロカの背中に声をかけた。
「なに?」
「ミドリコって、なんで刀を扱えたんだ?」
そう尋ねると、黄色の目がこちらを振り返る。
確かミドリコもこのゲームは初めてだと言っていた。
なのに、初めて握った武器であれほどの動きが出来るなんてちょっと尋常じゃない。
もしや俺と同じで何か隠し事でもしているのでは……と思ったのだが。
「なんで、って」
顰められる眉と、ふいに低くなった声。
やっぱり いけないことを聞いてしまったのだろうか? と不安になったが
「碧子が剣道部の主将だって知らないの、あんたくらいよ」
その回答は、実に拍子抜けなものだった。
「え、剣道部?」
「しかも普通に全国レベルだし。全校集会とかでいつも表彰されてるじゃない」
肩透かしをくらった俺を責めるようなヒロカの口調。
まあ、友達の活躍を全くスルーされていたのだから怒りたくもなるのも当然だ。
だが俺が心配しているようなことは何もなかったらしい。
そして、ミドリコが咄嗟の場面であれほどの動きが出来たことにも納得できた。
クダラノ内の強さはゲームでのレベルがモノをいうが、直感的なセンスは元の自分に大きく左右される。
脳も体も現実と連動しているのだから、それは切り離すことが出来ない部分なのだ。
毎日のように武器を持ち誰かと相対している者ならば、そこらのプレイヤーより動けても何ら不思議ではない。
「……なるほど。剣道か」
「え?」
青空の下で呟く俺を、ヒロカは首を傾げて見た。
「皆、ちょっと休憩にしよう」
それからしばらく働いた頃、武器屋のオヤジが手伝いのプレイヤー達に声をかけた。
壊された店はといえば、散らかった床はある程度 片付いたがまだまだ元通りには程遠い。
「まあ、ゆっくり直すしかねえな」
気長にやることにしたらしいが、こんな時 壊れた家を一発で直す魔法でもあれば便利なのに思った。
「けど、嬢ちゃんは筋がいいな。そのうち自分の家を建てる時は手伝ってやるよ」
近所の人が差入れてくれたドリンクを飲みながら、輪になって座った話の中心はアカネだった。
気っ風が良く女がてら大工の仕事をこなす姿は、既におじさん達(中身は知らんが)の人気者だ。
「家?」
だが、その意味が分からないアカネは俺へと顔を向けて聞いてきた。
「このゲーム内に、自分の家を建てることも出来るんだ」
クダラノに滞在している間は、リアルな生活と同じように食事も睡眠も必要になる。
だから仮想空間にも関わらず、この世界では現実と同じように社会を支える職業が大きな役割を担っている。
「家を建てると、何かいいことがあるの?」
隣に座りジュースを飲んでいたヒロカに尋ねられ、俺はすぐに頷いた。
「クダラノ内ではアバターにも睡眠を取らせる必要がある。家があれば、現実世界に帰っている間も安心して自分を置いていけるだろ?」
極端な話、体をその辺の森に放置したら寝ている間にモンスターに食い荒らされてしまう可能性だってないとはいえない。(その場合はログインした瞬間にゲームオーバーとなる)
「だから、ある程度 長くクダラノをやるプレーヤーは自分の家や基地が欲しいと思うもんなんだ」
補足のように他の人が言ってくれたことは正しく、プレイヤーが我が家を持つのは憧れでもあり必要に迫られてでもあった。
大体のプレイヤーはアバターの睡眠時間=ログアウトという使い方をする。
寝るだけならば安く借りられる宿や無料の共同安置所もあるが、増えた武器やアイテムを置く場所も必要になるし、やはり腰を落ち着ける場所があるというのは良い。




