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強襲⑤

これは……弱体化だ。


ある条件を満たすことで、プレイヤーやモンスターが持っているステータスが全体的あるいは部分的に減衰げんすいすること。


通常ならばある程度 防御力や魔力が下がるくらいだが、このレプティリアンの場合は違う。


元の性能が高かっただけに、もろに弱体化の負荷をくらっている。


俺は、以前にも同じような光景を一度だけ目にしたことがあった。


物理攻撃が一切使用できないレベル677エリア。


そいつも分厚い皮膜ひまくに覆われたモンスターで、どんな強力な魔法でもHPが1ずつしか減らない厄介な奴だった。


一緒に戦っていたスィーティーが唯一 空属性魔法のディザスタという呪文が何故か有効であることを発見し、その呪文をかけるとあれほど頑丈だった皮膚が変色して、その後は簡単にダメージを与えられるようになった。


ディザスタは双星という意味。

レベルはさほど強くないが、その名の通り二か所を同時に攻撃できる。


実はこのモンスターは自分の内蔵内に片割れを匿っている、双子のモンスターだった。


皮膚を弱体化させるには二匹を同時に傷つけなければならず、一匹だけを攻撃する魔法ではほぼ無意味だったのだ。


レプティリアンもこれでどうにかなる。


……と喜んだのは、ほんの束の間だった。


足裏から頭へと順調に広がった黒色は、再び目を向ければもう元の黄色に戻りつつある。


弱体化には時間制限があり、これは弱体化が終わることを意味する。


この調子だと、こいつはあと数十秒もしないうちにまたあのチートに戻ってしまう。


「誰か、こいつを攻撃してください!」


そう声の限り叫んだが、その意味が分からぬようで他のプレイヤー達はただ顔を見合わせている。


「なんか鱗が黒くなって更に強そうになってるじゃねーか」

「あんた、余計なことしたんじゃないの」


遠くから野次を飛ばすおっさんプレイヤーとあのセクシー女性。


そうじゃなくて、ああ、もう!


そんなやり取りで、既に貴重な時間を消費してしまっている。


レベル0のこの杖しか持っていない俺に直接攻撃をする術はない。


その間にも、鱗の黒はみるみる黄色へと変わってゆく。


頭のいいレプティリアンのこと。再び足裏を見せるチャンスをくれるだろうか……。


いや、動けるようになったこいつは真っ先に弱点を知られた俺を殺しにかかるだろう。


絶対絶命


そんな言葉が、頭の中に浮かび無意識に目を瞑ってしまった時だった。


「やあぁっ!」


倒壊した武器屋の瓦礫を軽やかに駆けのぼり、レプティリアンの正面へ飛び上がった影。


「ミドリコ!」


俺、ヒロカ、アカネは同時に叫んでいた。


武器はオーソドックスな『刀』。


そんなに強くないレベルのものだが、その振り上げた一太刀は見事にレプティリアンのまだ黒色の胴部分へとヒットする。


ギィギャアァァ


目の前の光景が信じられず ただ浮かんでいただけの俺は、苦しそうに鳴き出すレプティリアンの声で我に返った。


奴の叫び声はさっきと同じ。


けれど、その声は徐々に弱々しくなる。


ミドリコが入れた一撃の傷から光線が漏れ出してゆく。


その光に包まれ、レプティリアンの体はポロポロと……まるで崩れるようにゆっくり消滅していった。


「終わった」


そんな光景を茫然と眺めていた誰かが、ぽつりと呟いた。


「助かったんだ!」

「や、やったあ!」


口々に声が上がり、その場に集まっていた見知らぬプレイヤー同士が誰ともなく抱き合あう。


そんな様子を見て、本当にあのモンスターを倒したのだと、やっと俺にも実感がわいてきた。


何だか色んなことがあったが、とりあえずは勝った。


それが全てだ。


今になって体中の力が抜けてしまい、落ちるように俺は地面へと着地した。


「アタル!」


そんな俺を見つけたアカネとヒロカが駆け寄って来る。


「皆、無事だったか」

「やったな!」


言いかけた言葉も終わらないうちに、俺はアカネに飛びつかれていた。


「お、おいっ」

「すげーじゃん、あのでっかいモンスターを倒した!」


興奮気味の体からなるべく離れ、視線を逸らす。


アバターとはいえ、女性の胸部はやっぱり目のやり場に困るのだ。


「ほんと、無事で良かった」


ヒロカも心からほっとしたように微笑む。


「それより、ミドリコ」


俺は戻ってきた武器屋に刀を返却しているミドリコの姿を見つけ声をかけた。(俺と同じように店先に放置されてたものを拝借したらしい)


どうして、あの時 彼女が攻撃してくれたのか。


そこそこのプレイヤーすらも躊躇ちゅうちょしていた状況の中で、あれがなければ全く違う状況になっていたはずだ。


俺自身、彼女が戦うことなど微塵も考えていなかった。


「ん?」


俺に呼ばれたミドリコが、ちょっと首を傾げてこちらに駆け寄ってくる。


アカネとヒロカもそれを迎え入れ、周囲は安堵の空気と歓喜の声で溢れている。


そんなムードに、地面に座り込んだ俺も何だか気を抜いてしまっていたのだが。

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