強襲③
これで、どうにかなるか?
俺が出張らなくて良いなら、それに越したことはない。
救世主の出現に、半分願うような気持ちで見上げた上空では屋根から飛び立った戦士風の女性プレイヤーが大鉈を振り下ろす。
ガキィンッ
という嫌な音が響いて、レプティリアンの鱗に当たった刃は呆気なく砕けた。
「周囲の奴はどけ!」
次に進み出てきたのは背の高いマントを羽織った青年。
右手に持った杖に青い光がみるみる集まってゆく。
俺が手にしている杖なんかより余程 複雑で上等な代物。
水属性の魔法を強化してくれる系のやつだろう。
杖を中心に空中に出現した水が融合し、巨大な水たまりを形作ってゆく。
「ウォータフォール!」
青年魔法使いは杖を振り下ろし、水の塊をレプティリアンへと叩きつけた。
ちなみにクダラノでは、新しい技を開発した場合、そのプレイヤーに技名をつける権利が与えられる。
大体は本人が名づけるが、俺なんかはセンスもないしどこか気恥ずかしいので募集をかけて他人に頼むことが多い。
それはともかく、まさに瀑布ともいうべき水属攻撃を受けたレプティリアンだったが、やがて水飛沫が収まった中から現れたその様態は攻撃前と少しも変わっていなかった。
「そ、そんな……っ」
屋根の上で、攻撃をしかけた2人のプレイヤーががっくりと膝をついた。
恐らく、それぞれ一番自信のある一撃だったはず。
それがあそこまで効果無しなのだから絶望的にもなるのも無理はない。
「あのレベルのプレイヤーが歯も立たないんじゃ、もうダメだ」
「この町を捨てるしかない」
周囲から聞こえる、嘆きや絶望の声。
崩れた瓦礫の下では、小さな男の子がその場に立ち尽くしてシクシクと泣いていた。
別にクダラノ内で死ぬことは、大したことじゃない。
その考えは変わらない。
けれど、この世界で集めたアイテム、作った建物、使った時間は、壊された場合元には戻らない。
そうなれば、気持ちが折れてもうクダラノへログインすることをやめてしまうプレイヤーも出てくるだろう。
何だか、俺はそれが嫌だった。
「フユウ」
紫の石の杖に意識を込め呪文を唱えると、ふわりと俺の体は地面から浮かび上がる。
紫色は重力を司る。
フユウという呪文は簡単に言えば“浮く”魔法名、名づけ親はあろうことか俺だ。
とはいっても、この杖では3m程度まで浮上するのが限界。
アマテラスの体だと飛行魔法をプラスして大空を自由に飛び回れたものだが、今の俺には無理な話だ。
なんせレベル0はMPも0。この杖が持っているステータスに頼るしかない。
けれど、3mでも視線が高くなれば色々なものが見渡せる。
逃げ惑うプレイヤーの姿。道の真ん中に座り込む小林達。武器屋の影からは3人娘が心配そうにこちらを見上げていた。
「うわっと」
そんな よそ見をしていると、レプティリアンの巨大な尻尾が振り回され、その風圧だけで俺はふらついた。
今の俺など、まるで台風に吹き飛ばされるビニール袋程度の存在に過ぎない。
しかし、そのお陰で運よくレプティリアンの背後に回ることが出来た。
「やめろ! 俺達で歯が立たなかったんだ!」
「そうよ、早く逃げなさい!」
右からの声に顔を向ければ、さっきの青年魔法使いと女性戦士がこちらに怒鳴っている。
あんな状態で他者を心配できるのは、心から素晴らしいと思う。
けれど、俺には確かめたいものがあった。
歯が立たないと彼は言ったが、その通り。
このレプティリアンの性能はちょっと滅茶苦茶すぎやしないか? と思うのだ。
「お、っと」
レプティリアンが俺を捕まえようと鱗の手を伸ばしてくる。
奴からすれば、蝿が目の前をウロチョロしているようで邪魔で仕方ないに違いない。
鱗で覆われたモンスターといえば、鱗の1つだけ色が異なり、それが弱点だったというモンスターに以前出会ったことがある。
こいつもその類かもしれないと思ったが、全身をざっと見る限り変わった箇所はなさそうだ。
けれど、物理攻撃も魔法攻撃も《《あまりにも》》効かない。
それが、俺には解せなかった。
ここに集まったプレイヤーからすれば確かに絶望的な脅威の敵ではあるが、所詮はレベル48のモンスター。
あそこまで攻撃に対してノーダーメージというのは明らかにおかしい。
考えられるのは、何かの縛りがあって、その分だけデタラメな強さを保っているということだ。
それならば、強さに比例して弱点はかなり脆い可能性がある。
そこさえ見つけられれば……。
木の葉のように漂いながら思考していた俺は、ふとレプティリアンのちょっとした癖に気がついた。




