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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第10章 佐藤蒼紀
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10-1 私は変われる

第10章「佐藤蒼紀(そうき)



 客席で鳴った電子音。それはスマホでの動画撮影を開始したことを知らせる音だった。


 最悪だ。

 愛華あいかは能面のような顔になって会場を見下ろしている。

 彼女が何を考えているのかは、手に取るようにわかった。ごく小さな電子音は星盟せいめい学園での悪夢を思い出させる引き金としてはうってつけだ。

 会場のざわめきが大きくなるが、彼女はまだ伴奏を開始するための合図をくれない。


 さっさと弾いてしまおうか。でも無理やり弾き始めて今回も歌い出せなかったら。


 ステージに何者かの足音が響く。


 こころだった。

 愛華も彼女に気付き、目を見開く。


「ココちゃん、それ」


 マイクが愛華の声を拾う。心の手には小さなペットボトルが握られている。

 その中に入っているのは水だった。


「心! なにやって……!」


 彼女の名前を呼ぶ。しかし愛華の前に立ったまま、振り向こうともしない。


「根拠の無いことを言うわね」


 ペットボトルの蓋が開けられる。


「私は変われる。だから、愛華だって絶対に歌えるようになる」


 彼女は一度深呼吸しペットボトルに口をつけると、中身を一気に仰いだ。


「やめて……」

「心! やめろ!」


「……さし入れじゃないんかーい!」


 客席から誰かが突っ込むと、どっと笑いが起きた。事態の深刻さを理解できるのはこの会場の中で自分たち二人しかいない。


 笑われながら、彼女はひたすら水を飲み続けた。

 その気になればすぐに飲み切ってしまいそうな量を、少しずつ、無理やり喉に通そうとする。

 そのうちに会場を出ていこうとする客の姿が目立ち始めた。


「ココちゃん、なにしてるの……」


 泣き出しそうな愛華の呼び掛けには答えず、心はとうとう水を飲み切った。空になったペットボトルの蓋を閉めると愛華を強く抱きしめる。


「あなたは歌える。大丈夫」


 そして体を離し、何事もなかったかのように舞台袖へ消えていった。


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