6-1 直談判
第6章 「野沢心」
吹奏楽部の生徒たちがぞろぞろと舞台袖からステージへ出ていく。体育館に集う来場者たちの拍手が聞こえた。
「無理だと言っただろ。さっさと去ってくれ」
部員やスタッフの動向を見守りながら、生徒会長があしらう。言い聞かせるような落ち着いた口調だが、周囲に人が居なければ怒鳴られていたかもしれない。
「午前の部が終わって休憩に入ったとき、数分でいいんです。木戸さんに時間をください」
長く伸ばした髪先が床に触れそうになるほどに腰を折り、頭を下げた。
ゲリラライブなんて無謀だ。
生徒会や文化祭実行委員会に邪魔されれば、歌えないまま即退場となってしまう。
蒼紀と愛華が練習室に行っている間、一人で生徒会長に交渉しなければいけなかった。
蒼紀が自ら伴奏を担うと言ってくれたから、こうして直談判することが可能になった。
「その休憩時間で午後の準備をするんだ。暇じゃないんだよ、こっちは」
「お願いします」
「おまえ」
優丞が思いきり腕をつかむ。
「……いい加減にしろよ」
顔を近付け、どすの利いた声で彼は囁く。
ぞっとした。しかし引くわけにはいかなかった。
愛華からの話を聞き、一つ確信したことがある。
こんなことをしていてはゲリラライブさえもできなくなるかもしれない。その覚悟で彼に話をつけに来た。
「じゃー、俺らが代わりますよ」
「そしたらスケジュールもずれませんよね」
舞台袖にいたのは制服のシャツにカラフルな蝶ネクタイを付けた遠藤と大隅だった。
「俺らの前は合唱部の発表だから、ピアノはそのまま出しておいてもらえればいいですし」
「遠藤くん、大隅くん……」
彼らだって有志発表に出るために練習してきたはずだ。
しかし遠藤は明るく笑う。
「いいんだよ。漫才のネタ、作り直しても作り直しても全っ然、面白くならないんだよ」
「僕らも愛華ちゃんの歌を聴きたいしね。生徒会長、僕らからもお願いします」
「二人とも……」
「自由に出演者を変えられるような権限は僕には無い」
優丞がやっと手を離す。
「周囲の人たちにも頼み込んでもらえませんか」
「なぜ俺がそこまでしなければならないんだ」
「……理由が欲しい?」
彼にされたように、今度はこちらが耳元に顔を近付ける。
「たかが水で退学になりたくないわよね?」




