5-2 善処って?
変更は絶対にできない。有志発表のタイムスケジュールはぎちぎちに作成されているうえ、もうリハーサルも済んでいる。
それが生徒会長、野沢優丞の答えだった。
「力になれなくてすまない」
申し訳なさそうに肩を落とし、彼は生徒会室の中へ戻る。部屋の中の慌ただしさは廊下へ居ても伝わってきた。
「やっぱり駄目か」
委員会に辞退を申し出たのはやはり愛華本人だったようだ。
「どうして勝手なことをするのよ……」
心が唇を噛む。
「あとは、誰に掛け合えばいいかな」
少し前の自分だったら、ここで手を引いていただろう。勉強の妨げになるくらいなら友達は要らないと、意固地になっていたのだから。
「他に誰がいるって言うのよ。生徒会長に頼んでもダメだったのよ」
「……実は、提案があるんだけど」
放送が鳴る。生徒たちは手を止め校内から撤収するように、という旨だった。
日も完全に暮れ、もうじき完全下校の時間となる。寮に帰らなければならない。
「……本気?」
心に「提案」を聞かせた。
彼女は眉間に皺を寄せる。しかし愛華に歌ってもらうためには、もうそれしか手段は無いように思えた。
しばらく俯いていた彼女だが、「わかった」と頷く。
「停学なんてことにならないように、私も善処するわ」
「善処って?」
「今はまだ言えない」
大人数の集まる部屋の中から生徒会長の声がひと際大きく聞こえてくる。
生徒会室を顧みる心と、まだ中にいる野沢優丞の横顔はやはり酷似していた。
*
「また音が漏れてるぞ」
ドアをやや乱暴に叩く。
朝のA棟はすでにがらんどうで、四階も静まり返っている。
すぐにでも降り出しそうな曇天の空に不安そうな顔をしながら、みな早朝から校舎に向かってしまっていた。
文化祭の開催式まで、あと一時間を切っている。
「私じゃないよ……」
410号室の部屋の主がドアの隙間から少しだけ顔をのぞかせる。眼鏡の奥の重い瞼も梳かされていない髪も、寝起きそのままという様子だ。
「ずっと寝てたもん」
「寝ている暇なんて無い。ゲリラライブだ」
「早く準備をしてちょうだい」
「コ、ココちゃんもいるの? え? ゲリラライブって?」
後ろに心がいると知り、愛華は目を丸くする。
「中へ入れて」
心がドアの隙間へ手を掛けようとする。怯えたように「やめて」と叫んで愛華が反射的にドアノブを思いきり引いた。
「危ない!」
すかさず隙間に片足を突っ込む。
「ぐわああああああああああっ!!」
心が指を挟むのをどうにか防いだが、彼女の指の代わりに自分のふくらはぎが挟まれた。声にならない悲鳴を上げる。
「ココちゃん、大丈夫!?」
愛華が慌ててドアを全開にし、心の手を取る。
「ごめんなさい、つい」
「平気よ。当たってないわ」
負傷したことに気付いていない二人の足元でうずくまりながら、まだ引かぬ痛みに耐えた。




