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5-1 S学園

第5章 「佐藤蒼紀(そうき)


 昇山しょうざん高校の全生徒に対し発信されたアドレス。


 それは動画サイトのある映像に繋がるものだった。

 タイトルは「S学園文化祭! 詐欺師の娘が熱唱!」。

 撮影された場所はどこかの学校の教室。恐らく「S学園」なのだろう。

 机や椅子は全て片付けられ、黒板や窓に装飾が施されている。赤いスカートの制服を来た四人組のうち三人が楽器を演奏し、真ん中の一人がスタンドマイクの前に立っている。

 ズーム機能によりボーカルの女生徒の顔が画面いっぱいに映し出された。黒い髪を束ね、眼鏡を掛けている。


 こころもすぐにこの女生徒が誰なのか察したようだ。画質は悪いが、澄んだ歌声を聴き確信した。


 動画の下には投稿者のコメントが書かれている。

――「飲めば頭がよくなる」などとだまし、水道水を売りつけている詐欺師の娘。彼女は名門S学園に通い、校内で水を売っている。

そういった内容だった。


「ここに映ってるのって愛華あいかじゃね!?」

「S学園って星盟せいめい学園のことだよな? 中高一貫のめちゃくちゃ偏差値高い学校だろ?」


 噂で持ちきりとなっているのは一年四組だけではなかった。

 他のクラスや上級生たちも渦中の人物の姿を見ようと廊下から教室を覗き込み、それを担任の中松が追い払った。


 当の本人は、愛華はあれから学校に来ていない。心と二人で何度か彼女の部屋を訪れたのだが、一度も返事は無かった。


「本番は明日なのに……」


 練習室のドアを閉め、心はため息をつく。文化祭当日は顔を出してくれると信じ伴奏の練習に励んでいた。

 彼女はなんとか右手だけは最後まで弾きこなせるようになっていた。驚くべき成果をあげている。


「愛華なら大丈夫だよ」

「根拠の無いことは言わないで」

「根拠ならある。愛華の歌を何度も聴いてきただろ。あとは無理やりにでもステージに立たせれば」

「オーディションのときだって歌えなかったじゃない」

「……」


 その通りだった。


「……なあ、教えてくれ。一体なにがどうなっている? 愛華と向上水と生徒会長、どう関係しているんだ。その、従兄を疑うようで申し訳ないけど、あの動画を全生徒用のアカウントに張り付けた犯人って……」

「まだ何も言えない。なにもかも確信が持てないのよ。確信が持てないのに名前を出したら名誉棄損で訴えられそう。でも……」

「でも?」

「……これがあれば」


 彼女が手にしていたのは一台のスマホだった。ピンク色のケースに入ったこのスマホを、誰に見せるというのだろう。


「だーかーらー、ここのボケを十連発ぐらいにしてだな」

「今さらセリフ変更したって覚えられないってば」

「あー、もう! どうしたら笑いの神様が降りてくるんだーっ!」


 頭を抱える遠藤と少しやつれた大隅おおすみが廊下の向こうから歩いてくる。彼らもこちらに気付いたようだった。


「佐藤くんと野沢さん……」


 切羽詰まっているのは彼らも同じであるらしい。


「遠藤と大隅も練習室か?」

「そうだよ。これから漫才の仕上げをするのさ」


 さっきの会話を聞く限り、仕上げの段階に入っているとは思えない。


「佐藤くんと野沢さんの二人は練習室で何を……。はっ! ご、ごめん。野暮な質問だったね」

「お、おい大隅! 二人のことは温かく見守ろうって決まっただろ……!」


 彼らはひたいを寄せ合い、こそこそと話し込んでいる。彼女との関係を勘違いしている人間が未だに残っていたようだ。


「明日に向けて伴奏の練習をしていたのよ。野暮って何のことかしら?」

「あっ、いや、そのー……。……んんっ? 伴奏って?」


 大隅がなぜか不思議そうに首を傾げている。


「だって、個人有志は辞退したはずじゃ」

「…………どういうこと?」


 心の腕から楽譜とスマホが滑り落ちた。


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