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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第4章 野沢心(回想)
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4-5 おかしいのかしら

「僕の母がおばあちゃんに贈ったものだ。こころも知っているだろう。僕の母が伯母さん……、きみのお母さんに頼まれて売っていたのだから」


 這いつくばい、優丞から逃げるように廊下へ出る。それ以上は歩けなかった。


向上水こうじょうすいには健康促進の効果もあるらしい。でも、おばあちゃんはきちんと飲まなかったようだね。心、きみもそうなんだろう。だから星盟せいめい学園に落ちたんだよ」


 床の上に寝そべった。冷や汗がひたいから流れ落ちていく。


「余っている水があれば、僕の母に返すように」


 ダンボールを抱えた優丞ゆうすけが横を通り過ぎる。

 箱の中に入っているのはただの水のペットボトル。占いやおまじないと同じだ。飲んだって頭はよくならない。

 そんなデタラメなものを彼は大事そうに抱えていた。少しでも衝撃を加えれば粉々に壊れるガラス細工のようだった。


 彼が広間に入り、代わりに大人達数人が慌てて出てきた。

 それからどうなったのかはよく覚えていない。



 季節は変わり、やがてせみが鳴き始めた。

 以前から決まっていた通り、祖母の家は取り壊されることになった。


 自分の目の前で解体機が容赦なく家を壊す。ダンプカーにがらがらと集められていく柱が、火葬された祖母の骨上げを思い出させた。


 休みの間、毎日ここへ来て家が壊されていく様子を見届けようと決めた。しかし工事はたった数日であっけなく終わってしまった。

 思い出の場所は空き地となり、「売地」と書かれた看板が立っているのみだった。


 一か月後に再び訪れると、だだっ広いコインパーキングに変わっていた。

 様変わりした思い出の場所を眺めている間、隣に立ち何も言わず手を握りしめてくれていたのは山添六実やまぞえむつみだ。仕事を休んで駆けつけてくれた。


 番号は知っていたが、電話を掛けたのは今回が初めてだった。社会人となり、以前よりもっと忙しいだろうことは小学生にも想像がついた。だからずっと気が引けていた。


 だんだんと空が陰っていく。雨雲が立ち込めていた。

 それでも彼女は「もう帰ろう」だなんて一言も言わなかった。


「……私って、おかしいのかしら」


 空っぽの場所を眺めていると、膨らんだ雲から一滴の雨粒がこぼれるように口から言葉が漏れた。


「最近、ずっと考えているの。消えちゃいたいって。生きていて楽しいことはあるのかなって」


 友達もいない。親には愛されている気がしない。

 祖母は遠い場所へ旅立ってしまった。


 ばらばらと音を立て、雨が地面を濡らし始める。




 六実ちゃんは、カウンセラーっていうお仕事をしているのよね。


 こんなことを思う私の心は、やっぱりどこか、おかしいのかな。




 そう訊きたかったのに、上手く喋ることができなかった。気付けば彼女に抱きしめられ、小さな子どものように声を上げて泣いていた。




第4章 「野沢(こころ)(回想)」了

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