3-38 オトモダチ
ショッピングセンターの自動ドアをくぐりスーパーへ向かう。
愛華は身動きもせずじっと出入り口の前で待っていた。遠くから目が合うとほっとしたような顔になる。
愛華、と手をあげようとした。
その横をすっと一人の女性が通り過ぎ、彼女の方へずんずんと近づいていく。
「木戸さん。まじで考え直してよ」
彼女の姿に気付いた愛華が目を見開く。
「私、金が無さすぎてもう無理なんだって。ほら、これだけじゃ受験までもたないよ」
女性はこちらに背を向けている。何か手に持っているようだが確認できない。
「愛華! どうしたの」
心は少しも躊躇せず、二人に駆け寄っていく。
「……ココちゃん、ソーくん、ちょっと待っててくれる? 三村先輩、あっちで話しませんか」
「三村先輩」と呼ばれた女性も振り返る。
知った顔だった。以前俺たちの教室へ来て愛華を呼び出し、オーディションが行われていたときは野沢優丞と並んでいた女生徒だ。
彼女に遠慮なくじろじろと見まわされた。見かけは大人びていて何歳も年上のようだが、その仕草は子ども染みている。
「あなたって、野沢……心さんだっけ? あなたもコレ、木戸さんに流してもらってんの?」
彼女が見せつけたのは、ラベルの貼られていない一本のペットボトルだった。
中身は透明な水。
「会長と兄妹揃って頭いいんだもんね?」
「兄妹なんかじゃ……」
心は顔を下に背ける。しがみつくように俺の腕につかまってきた。
「え、ほんとに違うの? 苗字同じだし、顔だって似て……」
隙をついて愛華が三村からペットボトルをひったくった。
「やめてください。この二人は関係ありませんから」
「へえ?」
彼女は愛華を睨みつけ、そして笑った。
「ねえ、二人はオトモダチなのに、もしかして知らないの? 木戸さんが星盟学園でこの水を売ってたって。昇山でも」
「やめて!」
愛華が叫ぶ。
周りの客が一斉に振り返った。愛華と三村の会話はもちろん聞き取れたが、内容はさっぱり理解できなかった。
星盟学園で水を売っていた?
その水とは、一体――。
「三村、どうした?」
人ごみをかき分け現れたのは、生徒会長の野村優丞だった。彼の顔を見るなり三村はペットボトルを奪い返し、隠すようにバッグの中に突っ込んだ。
「みんなで買い出しか? 奇遇だな」
彼は手に持っていたビニール袋を持ち上げて見せた。大きなペットボトルやスナック菓子が入っている。
「……どうかしたか?」
彼は心の顔を覗き込み、目を丸くする。彼女の顔が青ざめていたからだ。
「なんでもないです。失礼します」
その場を去ろうとするが、彼女の足元はおぼつかない。肩を支えてやりながら振り返る。
呆気にとられる野沢優丞の横で、三村は何も言わず俯いていた。




