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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-34 不合格

「まだまだミスが目立つし、愛華あいかが伴奏に合わせている感じがするわね」


 練習室の隅で演奏を聴いていたこころが、悩ましい様子で腕を組む。彼女の言いたいことはつまり、「よくない」ということだ。


 昼休みを使った今回の練習では、ミスをせずに弾けた。しかし最初の一度きりだ。弾き直すごとに集中力が削られていく。


 一方で、愛華の歌は完ぺきだった。何度やり直しても疲れを感じさせず歌い続けた。

 あとは本番で固まらなければいいだけ。オマケであるはずの伴奏者が主役の足を引っ張っているのだ。


「心、いつもみたいにはっきり言ってくれ」

「はっきり言っていいのなら、まだまだ下手よね」


 自分のことを棚に上げてよく言えるなと苦笑してしまう。


「でも本番までに弾き込めば何とかなるでしょう。今日の放課後も練習するのよね。付き合うわ」


 放課後の話になり、俺と愛華で顔を見合わせる。


「……今日の放課後は、練習ができなくなっちゃったの」

「あら。どうして?」

「俺が小テストで不合格だったから。放課後、追試を受けなくちゃいけないんだよ」

「……そう」


 心は、「余計なことは言わない」と自分に言い聞かせるようにまばたきをした。


「それなら、仕方ないわ」


 今日、うつらうつらしながら受けた英語の小テストはあと一点足りず不合格となった。

 愛華は今回も当然のように満点を取っただろう。歌の練習はサボっていないし、アルバイトのシフトだって減らしていないらしいのに。


 ばかにしてくれればいいのに。窓の外を眺めているふりをする心を見ながら思う。気を遣われると惨めな気分になる。いっそのこと、笑われた方がましだった。


「まさか、小テストを落とすなんてね」


 しかし、笑ったのは心ではなく愛華だった。彼女は眉を八の字に曲げ、笑みを浮かべている。


「……は?」


 思わず訊き返していた。


「なに、その言い方」


 今までに発したことが無いほどの低い声が出る。


「あ、ご、ごめん……」


 愛華は口に手を当て、わかりやすく狼狽した。


「伴奏を頼まれたから勉強時間を削って練習してるのに」


 彼女は何も考えず、ぽろりと口に出してしまっただけだ。皮肉ったわけではない。

 冷静に考えればすぐにわかることだ。彼女はそういう人間じゃない。


 しかし腹の虫が今日はなかなか治まらなかった。彼女が口を滑らせた内容はいつもなら笑って聞き流せるくらいの些細なことなのに。


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