3-28 そんなわけあるかああああっ!!
――順位のことで、ココちゃんは私のことなにか言ってたかな?
「え? えっと……」
練習室で野沢心と交わした会話を愛華に喋れば、大目玉をくらいそうだ。
「うう~、やっぱりなにか言ってたんだ。愛華とは友達やめる! とか言ってたんでしょ?」
「言ってない言ってない。そんなことで友達をやめる奴なんかいないだろ」
「……『成績がいいからって調子乗るな』って、よく言われてたんだもん」
「中学で?」
彼女は頷いた。
「ココちゃんと仲良くなれると思ったのに、また嫌われたらどうしよう……」
「嫌いだなんて言ってなかったってば。あ、そうだ。愛華から貰ったミサンガ、ちゃんと脚につけてたよ。この前、心に見せてもらった」
そして彼女を真似し、俺もミサンガを足首に結び直した。結び目がかたく、手首から外すのに三十分も掛かってしまった。
「コ、ココちゃんの脚を……」
瞬きを繰り返し、彼女はぽっと顔を赤らめる。
「そっかそっか。やっぱり噂は本当だったんだね。いつの間にか下の名前で呼んでるし……」
「? 噂って?」
「ソーくんとココちゃん、つ、つ、つつつ」
「つ?」
「つき合ってるんでしょ!?」
「そんなわけあるかああああっ!!」
「ええっ、違うの!? ソーくんの部屋にココちゃんがよく出入りしてたって聞いたけど……」
眩暈がしてきた。いつ目撃されたのだろう。壁に耳あり障子に目ありだ。
「ココちゃんはソーくんと打ち解けてるし、やっぱりあの二人はつき合ってるんだねーってみんなで話してたんだ」
「……みんなって、クラスのみんな?」
「ううん。他のクラスの子も」
「他のクラスも!?」
「ココちゃん、美人だから目立つでしょ? だからなにかと話題になるんだ。二人を温かく見守ろうねってみんなで約束し合ったんだけど、でも誤解だったんだね。ごめんなさい」
愛華は顔の前で手を合わせる。
「むしろ堂々と冷やかしてくれたほうがよかった。はっきり否定できたのに」
たとえば、寮のスタッフでもありカウンセラーでもある山添六実のように。
「ソーくんってば。高校生にもなって付き合った付き合わないで冷やかす人なんているわけないじゃない。……ハッ! い、今余計な事言ったかな!?」
「いや、全く気にならないけど……」
慌てふためく彼女を宥める。こうやって必要以上に気を遣うのも過去に辛い目にあったからなのだろう。
合点が行ったと同時に不憫に思えた。
「……本当につき合ってないの?」
「つき合ってない。本題に戻るけど、心は愛華のことなにも言ってなかったよ」
成績に嫉妬したとは言っていたが、それは彼女自身の問題だ。人間性については触れていなかった。
喋っているうちにA棟まで到着した。女子専用フロアである四階に続く階段の前で、彼女は振り返る。
「次の練習は明後日だね。またよろしくお願いします」
「もっと練習してくるよ。……有志発表、愛華にとって絶対いい機会になると思う」
「……うん、ありがとう!」
彼女は笑顔で手を振り、階段を上った。再びハミングが聞こえてくる。
足を止め、鼻歌が聞こえなくなるまで耳を傾けた。
この歌に一番に癒されていたのは誰だろう。
そんなことを考えた。




