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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-21 ≪やったあああああ!≫

 山添やまぞえさんはバーピーを中断し、ダッシュで部屋のドアを開けに行く。


「山添さあああん! どこにいます~!? Gが出ましたあああああっ!」

「……はいはーい、殺虫剤持っていくー!」


 汗だくになった彼女は廊下に向かって大声で返事し、一度ドアを閉めた。


≪ゲーム……オーバー……≫


 記録は二十六回。


「惜しかったねえ~。やば、化粧取れるんだが」


 彼女はへらへらとしながらタオルでひたいの汗を拭く。


「ごめん、そろそろ戻る。さすがにここで遊んでるのが見つかったらまずいわ。じゃあね~」


 彼女は小型の冷蔵庫を開け、中からビールと思しき缶を手に取るとさっさと出て行ってしまった。


「一番の頼みの綱が……。これでは次のステージへは進めないわね」

「正攻法では無理だ!」


 この場に残された人物の中で一番回数をこなせるのが、愛華あいか

 しかし彼女が出した結果も十二回。愛華の口ぶりから察するに、野沢にも期待できない。

 このまま三人で挑戦し続けても、無駄に体力を消耗しょうもうするだけだ。


「聞いてほしいことがある……!」


 俺は愛華と野沢に提案した。

 二人がかりでこのステージを攻略するのだ。

 一人が手首にセンサーをつけ、もう一人も身動きが取りやすいように手首に足首用のセンサーをつける。そしてテンポに合わせ、あたかもバーピーをしているかのようにセンサーを動かし、ゲームを騙してクリアする。


「え~っ!? そんなのズルいよ!」

「もはや目標は体を動かすことではなく、ゲームの攻略よ。その作戦で行きましょう」


 意外にも野沢が同意し、渋る愛華を説得した。


「では、私が手首用のセンサーをつけるわ。佐藤くんは足首担当よ」


 全く活躍できていない二人でセンサーをつける。彼女の足元にしゃがんだ。深呼吸し、自分自身に言い聞かせる。

 今、自分は野沢の足首なのだ……!


≪イックヨー!≫


「ぐええええっ」


 視界に稲妻のような閃光せんこうが走る。野沢のキックが俺の鼻っ面にクリティカルヒットしたのだと理解するのに数秒を要した。


「ごっ、ごめんなさい。ついうっかり普通にバーピーをしてしまったわ」


≪ゲーム……オーバー……≫


「お、俺はゲームで死にたくないぞ」


 鼻を押さえ、やっとの思いで立ち上がる。ゲームの主人公ではなく生身のこちらの体力ゲージが短くなりそうだ。

 上下運動だけをするように念を押し、ゲームを再開する。


≪イックヨー!≫


 キャラクターのテンポに合わせ彼女はしゃがみ、立ち上がる。彼女の足首になりきりセンサーを取り付けた手を前後に動かす。


「いい感じだよ!」


 ゲームは見事に騙されてくれた。敵のキャラクターが主人公による攻撃を食らい、苦し気なうめき声を上げる。はたから見ればさぞ間抜けに見えるだろうが、順調だ。

 希望の光が見えたとき、足首役の俺は気付いてしまった。


――おねえさんのしたぎ、みえちゃってます。はしたないですよ。


 公園で幼児たちに指摘されていたのはいつだったか。あの出来事から彼女は何も学ばなかったらしい。

 純白のレース。

 他人に見せてはいけないものを、野沢はジャージのウエストからちらりとはみ出させていた。


「うっ……!?」


つい動揺してしまい、俺の集中力は吹き飛んだ。


≪くうっ……、このままじゃ……≫


「佐藤くん、テンポがずれてるわよ!」

「ソーくん、ちゃんとココちゃんを見て合わせないと!」


 偽バーピーを試みる俺たちをゲームのセンサーが認識しなくなる。足首役の動きが乱れてきているからだ。


――冷静に足首役をするなんて無理だっ……!


≪ゲーム……オーバー……≫


「……っ、佐藤くん! 言い方が悪いけど、こんなこともできないの!?」


 野沢はセンサーを投げつけそうな剣幕で声を荒らげた。


「しょ、しょうがないだろ!」


 はしたない野沢のせいだと怒鳴りたくなるのをこらえる。


「実は……、腰が痛くてこの体勢がきついんだ。代わってくれないか」

「それならそうと早く言いなさいよ」


 下手な言い訳に文句を言いながらも、彼女はセンサーを交換してくれた。

 今度はしゃがんでいる彼女の前に立つ。視界に余計なものが入らず、集中できそうだ。

 「よし、行くぞ」と気合を入れ、愛華にゲームを開始してもらう。運動神経の悪い二人ではやはりもたつき、何回か攻撃をくらってしまったが、体力ゲージを多く残したまま二十回までこなすことができた。


 二十一、二十二。

 上下運動をしているだけなのに息が上がりそうだ。背後の野沢も苦しそうな息遣いをしている。

 二十五、二十六。

 とうとう体力ゲージが赤くなってしまった。


≪くうっ……、このままじゃ……≫


 もう後がない。


「もうちょっとだよ! 耐えてっ!」


 愛華が激励する。

 二十八、二十九、三十……!


≪やったあああああ!≫


 ゲームの主人公、そして愛華は飛び上がり歓声を上げた。


「やったやったー!」


 興奮した愛華が飛びついてくる。彼女の腕の中、鼻先が触れ合ってしまいそうなほど野沢と体が密接していた。


「ち、近いわよ」

「そ、そっちこそ」


 野沢が身をよじる。


「二人とも、本っ当にありがとう~!」


 しかし大興奮の愛華に抱き着かれたまま、俺たちはなかなか解放してもらえなかった。



「よおーし、休憩したら今度は腕立てモンスターに挑戦しようね!」

「まだやるのか!?」


 もう夜も遅い。一階の談話室は照明が減らされ薄暗く、自動販売機の明かりが眩しかった。


「ココちゃんはなに飲む?」


 自販機に小銭を投入し飲み物を買っていると、外へと続くドアが開いた。男子生徒が入ってきて、こちらに気付くと片手を上げて笑う。


「よう」


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