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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-20 ≪ゲーム……オーバー……≫

「どういうゲームなんだ?」

「ソーくん、『ウィング・カット』のこと知らないの?」


 首を傾げる。ゲームはプレイした経験がほとんど無いし、流行にもうとい。

 三人の話によると、この「ウィング・カット・アバンチュール」は手足に専用のセンサーを付け、実際に体を動かすことで敵を倒していくゲームらしい。キャラクターから言われた通りに動けば、筋トレの効果が生まれるという。

 ゲームを楽しみながら運動不足を解消できると、発売当時は入手困難になるほどヒットしたそうだ。


「夏に向けて体を引き締めようと思って、山添やまぞえさんとココちゃんを誘ったの!」

「私は体を引き締める必要は無いけれど、運動不足は健康に害を及ぼすから誘いを受けたまでよ」

「だから今日は制服じゃないのか」

「運動するときまで着ないわよ」

「よおーしっ! ではでは佐藤くんの実力を見せてもらおう!」


 山添さんはマジックテープをバリバリがし、身に着けていたセンサーを渡してくる。


「ええ、俺もやるんですか。あとこのセンサー、山添さんの温もりが残っていてちょっと……」

「嬉しい?」

「ちっとも嬉しくないです」

「女子三人でやってたんだけど、どーしてもクリアできないステージがあるんだよお。そこだけ協力してちょ!」


 はたしてこの場に「女子」は三人も居るだろうか。疑問に思いつつ、渋々手足にセンサーを付けた。


「ソーくんには次のステージ、『打倒! バーピーモンスター』をやってもらうね」

「なんだそりゃ」

「キャラクターが説明してくれるわよ」


 やたらとテンションの高いキャラクターが主人公であるらしく、画面にアップで映し出される。彼の目の前には「バーピーモンスター」がいて、この敵を倒さないとストーリーが進まないのだという。


「三人で交代しながらやってるんだけど、誰もクリアできないんだ」

「ええと、この『バーピーモンスター』を倒すにはバーピーってやつを三十回しなくてはいけない、のか」


 キャラクターがバーピーについて説明する。動きの手本を見せてくれるのでわかりやすい。

 まず、肩幅に足を広げる。


「このくらい?」


 真似して立ってみる。

 両腕を上に真っすぐに伸ばし、手のひらを合わせる。次はその場にしゃがみ床に両手を付けるのだが、両手を付けたらすぐに足を後ろに伸ばし腕立て伏せの態勢を取る。

 そしてまたしゃがんだ状態に戻り、ジャンプして直立し両手のひらをパチンと合わせる。  

 

 これでワンセット。

 同じ動きを三十回繰り返す。


 チュートリアルを聞きながら一つ一つの動きを真似してみたが、なんとかついていけそうだ。


≪よおし、準備はイイ⁉ イックヨー!≫


 キャラクターの掛け声とともに戦闘シーンが始まる。不穏な音楽が流れると、俄然わくわくした。


≪三、ニ……≫


カウントダウンが始まる。頭上でぱちんと手を合わせたが、


≪一……、ハイハイハイハイハイッ!≫


「っ!?」


 しゃがもうとしている間に、主人公が敵からの攻撃をもろに受けてしまった。手本のモーションは「しゃがむ! 腕立て! しゃがむ! ジャンプ!」という一連の動きをこなし続けている。


≪くうっ……、このままじゃ……≫


「え? ちょ、ちょっと速すぎっ……」


 戸惑っている間に画面の右下に示された体力ゲージがあっという間に赤くなり、ついに主人公は倒れてしまった。


≪ゲーム……オーバー……≫


 悲壮感漂う効果音が流れ、また元のメニュー画面に飛ばされる。


≪サア! もう一息だ!≫


 さきほどまでの悲惨な戦闘のことなど無かったかのように、キャラクターが気合を入れている。


「ココちゃんよりひどい……」

「真面目にやりなさいよ」

「なめてんのか?」


 三人とも引いている。


「い、いやこれちょっとおかしくない? こんな速さでできる人間いるのか?」

「ソーくん、バーピーってテンポよくやるものなんだよ? よしっ、じゃあ私がお手本見せてあげるね」


 愛華がセンサーを取り付け、部屋の中央に立つ。女子のベッドの上に座るわけにもいかないので、部屋の隅で肩身狭く傍観ぼうかんすることにした。


≪イックヨー!≫


 しゃがむ! 腕立て! しゃがむ! ジャンプ!


「おお……!」


 彼女はリズミカルにバーピーをこなしていく。カーペットとヨガマットは敷いているが手をつきジャンプする度に、彼女の手足がドンドンと床を打ち付ける。下の階まで振動が響くのは当たり前だ。

 出だしは順調そのものだったが、徐々にキャラクターのテンポと動きがずれ、彼女の表情は歪んでいく。


「も、もう無理いっ……」


 そしてベッドに座る野沢の膝の上に倒れ込んでしまった。

 結果は十二回。


「よおーし、木戸さんの手本を見たところで次、佐藤くんやってみよう!」

「で、できる気がしないです……」

「フッ、情けないわね」


 彼女は息絶え絶えの愛華からセンサーを剥ぎ取った。


「さあ! 私を観察学習なさい!」


≪イックヨー!≫


 しゃがむ! 腕立て! しゃがむ! ジャンプ!


「山添さん、その調子!」


 愛華の残した記録、十二回を超えてもなお彼女の表情からは余裕を感じられる。


「ほらっ佐藤くん、ちゃんと見てるの!?」

「は、はい……」


 そう返事したものの、彼女の動きを全く直視できていなかった。立派な二つの胸までもがぽよんぽよんとリズミカルに弾んでいるからだ。観察しなければいけないのはバーピーの動きなのに、どうしてもそこに目が行ってしまう。


――冷静に観察学習するなんて無理だっ……!


「山添さん、今度こそクリアできますよ!」



「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」



 廊下から女子の悲鳴が聞こえたのは、そのときだった。


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