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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-19 ≪サア! もう一息だ!≫

 野沢(こころ)が戻ってきたのは、五限目の始業チャイムが鳴り終わる直前だった。

 一方、愛華あいかは教員とともに教室に滑り込み、「セーフ!」と席へ着く。

 紙袋は持っていなかった。


「ずっと話し込んでたのか?」

「え?」


 彼女は目を丸くする。


「野沢と二人で話してたんだろ?」

「ココちゃんに? 会わなかったけど……?」


 遠目から見たココちゃんこと野沢は少し疲れたような表情に映った。昼休み中、愛華を探し回っていたのだろう。


「間抜けだなあ」


 では、愛華は昼休みの間どこへ行っていたのだろうか。

 振り返って訊こうする前に日直が号令を掛けてしまった。



 部屋が揺れた。

 地震だ。


 中間テストの日程の書かれたプリントを投げ出し、自室の窓を開けた。

 寮の周りを見回す。しかし、寮の周りを歩く生徒たちは取り乱す様子が無いし、電気を点けた外灯もぴしっと直立している。


 外からかすかに音が聞こえてきた。愛華の歌声ではない。女子数名の賑やかな声だった。どこかの部屋に集まって騒いでいるようだ。


「ダンスパーティか……?」


 徐々に揺れは大きくなっていく。


 どったんばったんどったんばったんどったんばったんどったんばったんどったんばったん。


 真上の部屋で、ヒトがとび跳ねている。そういう種類の音と揺れ方だった。

 歌声や話し声が少し聞こえる程度であれば、「たまにはいいか」と大目に見るところなのだが、さすがに、


「うるせえええ!」


 部屋をとび出し一階の事務室へ向かう。四階は女生徒のみのフロアで男子は行きづらく、複数人集まっているところに一人でじかに抗議しに行く勇気も無かった。

 そして「素行悪めな奴らでまともに話もできないだろう」という偏見もある。夜中に部屋で激しく踊り狂うような連中なのだから。


 事務室をのぞく。しかしスタッフの姿は無い。カウンターには「ちょっと外します汗 山添やまぞえ」と丸っこい字で書置きが残されていた。


「使えないな!」


 仮にも学校の職員である山添さんに対し、決して許されない暴言を吐き捨てる。怒りに任せて再び階段を駆け上がった。

 410号室のドアを力任せに叩こうとして一度冷静になろうと深呼吸を繰り返す。丁寧に三回、ドアをノックした。


「あ、あのー、すみません。音が大きいので、控えていただいてもいいでしょうか……」


 肝心なときに気弱な自分が情けない。ドアノブが回り、つい身構えた。


「ソーくん?」


 中から出てきたのは、赤い顔に汗を浮かべる愛華だった。


「ここ、愛華の部屋だったのか?」

「そうだよ。どうかしたの?」


 彼女の歌がよく聞こえていたのは、真上の部屋だったからか。310号室と410号室はともに角部屋で、四階は寮の最上階でもある。

 寮の構造を考えれば、歌が聞こえていた人物は自分の他にいなかったのではないだろうか。

 誰からも苦情が入らず、彼女が部屋で歌い続けられた理由に一人合点する。


「入って。みんなで遊んでたの」


 入り口で戸惑っていると、彼女はさっさと奥へ行ってしまった。文句を言ってすぐ帰るつもりだったのだが、仕方なく女子の部屋にお邪魔する。消臭剤なのか香水なのか、甘い匂いがほのかにただよっていた。


「ソーくんが来たよー!」


 愛華は部屋の中に呼び掛ける。恐る恐る中をのぞくと、そこに居たのはよく知る人物たちだった。


「山添さん? こんなところにいたんですか?」

「もしかして私のこと探してた? めんごめんご~」


 彼女はカーペットの上に座りにこにこしている。謝罪の言葉を口にしているが、反省の色は全く見えない。


 ベッドの上には野沢もいた。なぜかジャージ姿だ。こうして愛華の部屋にいるのだから、今日の一件はすでに丸く収まったということだろう。


「ソーくんはどこに座ってもらおうかな。四人も集まるとやっぱり狭いね」

「いや、すぐ帰るよ」


 そう言いながら、女子の部屋が物珍しくてつい見回してしまう。ベッドカバーやカーテンの柄がいちいち女の子らしい。

 野沢と目が合ってしまった。「なにじろじろ見ているの? 気持ち悪いわよ」なんて言い出しそうな表情をしているので、慌てて下を向く。


 視線をらした先、机の下には小さなゴミ箱があった。見覚えのあるプリントがそのまま捨てられている。英語単語が載ったプリントだ。

 その単語の出題される小テストは、明日。まだこれからだ。

 間違えて捨てたのだろうか。しかしゴミ箱をのぞいたことを知られたら引かれそうで訊けない。


「よおし! じゃあ佐藤くんにもやってもらおうかな」

「うんうん、男の子ならさくっとクリアしそう!」


 騒音の件もプリントの件も言い出せずにいるうちに、俺はなにかに巻き込まれてしまうらしい。よく見ると、山添さんは手首と足首にベルトで小さな器具のようなものをくくり付けていた。


「なにしてたんですか?」

「これよ」


 野沢は机の上を指さす。タブレット型のゲーム機が専用のスタンドに立てかけられていた。

 彼女がコントローラーを操作すると、暗くなっていた画面がぱっと光る。軽快な音楽をBGMに、≪サア! もう一息だ!≫とキャラクターがさけんだ。


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