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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-14 水の噂

 餃子の上に大きな皿をかぶせ、フライパンを返す役目となった。プレッシャーと皿の重さに手が震えそうになる。

 慎重しんちょうにフライパンを取った。こんがりと焼かれた羽根つき餃子が皿の上で湯気を立てている。


「……うまーい!」

「味付けがいいわ」


 餃子も炊き立ての米も、あっという間に三人の胃袋へ消えていく。


「手作りするとたくさん食べられるし、本当においしいんだよね。ねえ、今度はなに作る? 食堂じゃなかなか出てこないものがいいよね」


「今度って?」「またやるのか?」


 俺と野沢は、同時に同じ疑問を口にした。


「あれ? そのつもりだったのは私だけ?」


 恥ずかしそうに愛華あいかが振り返る。


「すっかりそのつもりだった。そっか、今日だけか。勘違いしてた」

「木戸さんがその気なら私もまたやりたいわ。今日、楽しかったから」

「俺も。うまかったし」


 食堂で提供される健康的な味付けの食事ばかり食べていたから、なおさら満足度が高かった。


「うん、私もすごく嬉しい」


 愛華が微笑んだ。


「そうと決まったら、二人はなにが好きなのか知っておきたいな。好きな食べ物はなに? ソーくんは焼肉が好きなんだよね」

「よく覚えてるな」

「私はハンバーグ、からあげ、オムライスかしら」


 子どもの大好物ランキング上位三つか?


「ソーくんって苦手なものは無いんだっけ」

「本当によく覚えてるなあ」


 友好を深めるために他人の好物や苦手なものを覚えられるのは一種才能だと思う。


「ココちゃんの苦手なものは?」

「私もとくに無いけれど」


 彼女はテーブルの上のグラスに目を落とした。


「強いて言えば、水かしら。ペットボトル入りの水……」

「水?」


 彼女の発言に、つい鼻で笑ってしまった。


「水なんて、ただ飲めばいいだけだろ?」

「たまにいるよ? 水やお茶が苦手な人」

「佐藤くんが無知なだけよ」


 容赦なく言って、野沢はグラスになみなみとコーラを注ぐ。食べ物といい飲み物といい、外見に似つかわしくないものを好むようだ。


「ペットボトルに入った水が飲めないの。見るだけで気持ちが悪くなってくるのよ」

「見ただけで? ……あっ」


 自習室での出来事を思い出す。彼女が部屋を飛び出す直前、床に落としたのは勉強道具一式。


 それから、水の入ったペットボトル。


「……自習室で具合が悪くなった原因って、もしかして水のせいか?」

「そうよ」

「ご、ごめん。俺のせいで」

「謝る必要なんて無いわ。知らなかったのだからしょうがないわよ」

「もしかして、ココちゃんが利き水コンテストをやりたくない理由も?」


 野沢はうなずく。

 ジュースやコーラにしてはどうかと提案したのは、視界に水を入れるのを避けるためだったようだ。見るのも嫌だと言うのなら、確かに参加することは不可能だろう。


「そういう事情があるなら私からエンショーくんたちに言ってみるよ。水以外にしてって」

「そんなことを言ったら、きっとあなたのほうが白い目で見られるわよ。心配はご無用。文化祭当日は仮病を使ってでも休む予定だから」

「文化祭はクラスメイトと交流を深めるいいチャンスじゃない」

「絶対無理」


 取り付く島もない。


「私が水を避ければいいだけ。みんなに理解してもらう必要なんてないわ。そんなことより、木戸さんは有志発表に出るべきよ。素晴らしい歌声だもの。誰かに伴奏を頼んでみたら?」

「有志発表ってなんだ?」

「体育館でのステージ発表のことよ。遠藤くんと大隅おおすみくんが漫才をやるって張り切っていたわ」

「わ、私がステージに立つなんて無理だよ」


 思わず同調して頷きそうになった。たった二人のクラスメイトの前で歌うのもやっとなのだ。


「勿体ないわ」

「あ、そうだ。そろそろ余った餃子を焼こうかな!」


 話をさえぎるように彼女は立ち上がった。フライパンに入り切らなかった餃子をまた並べ始める。

 野沢は肩をすくめた。


「……水と言えば、飲むだけで成績が上がる水の噂って、聞いたことある?」


 片栗粉を溶きながら、愛華が尋ねた。


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