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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-7 夢のような水

「じゃあ、事前テストや分散学習にも根拠があるってことか」

「そうよ。事前テストはその名の通り、勉強する前にテストをするってこと。テストをしてから学習すると効率がいいのよ。それは前にも説明したわね。……あとは分散学習についてだけど、ざっくり説明すると毎日必死になって覚えようとせず、勉強と勉強の間隔を開けろってこと」


 先に説明された事前テストは納得できる。

 まだ中間テストこそ受けていないし、気のせいかもしれないが、授業内容が頭に定着しているような感覚がある。


 しかし、分散学習はにわかに信じられなかった。確かに勉強時間は短縮できたが、点数は前回と全く同じだったのだから。


「間隔を空けると忘れそうになるんだけど。やっぱり毎日やるほうが俺には向いている気がする」


 しかし、一度「忘れそうになる」なるという感覚こそ分散学習のカギなのだという。


「必死に勉強したはずなのに、いざテストが始まると頭が真っ白になって解答欄になにも書けなかったってことはあるかしら?」

「あ、あるぞ。幾度となく」


 その悔しさはテストの度に味わっている。


「忘れそうになる前にまた勉強することによって、脳が『しっかり覚えた』と錯覚してしまっているの。本当は覚えていないのに覚えたと思い込んで、無意識のうちに『もう勉強しなくていいい』と思ってしまうのね」

「そ、そうだったのか……!」


 彼女の話を聞き、思わず突っ伏してしまった。


「くそお、今までがむしゃらに勉強していた日々は無駄だったってことだな……!」

「無駄ってことはないわよ。……まあ、忍耐力がついたんじゃない?」

なぐさめのつもりか?」

「どうして佐藤くんを慰めなくちゃいけないのよ」


 腕組みをする。


「なるほどなあ」


 彼女の解説について感心しきっていた。


「なんだか面白いんだな、心理学って……」

「面白いわよ。でも、事前テストや分散学習は研究が始まったばかりで曖昧なことも多いし、心理学のほんの一部の研究なのよ。あと、断っておくけど、事前テストや分散学習を実践すれば必ず学年一位になれるというわけではないわ。地道にこつこつ勉強するのは佐藤くんの今までの取り組み方と同じよ」

「結局、食べれば暗記できるパンみたいな便利な道具は無いんだな」


 そうよ、と彼女は頷く。


「飲めば頭がよくなる水なんて、どこにも無いのよ」



 ――水?



 遠い記憶にフックが掛かる。

 飲むだけで記憶力が上がるという、夢のような水のうわさをどこかで聞いたことがあった。


 聞き返そうとしたが、彼女はすでにベンチから立ち上がっていた。


「実験は全て終わり。本当はもっとデータが欲しいけど、これ以上あなたに負担を掛けるつもりはないわ。付き合ってくれてありがとう。これでもうあなたの部屋に行くこともないわ」

「こっちこそありがとうな」


 見送るために立ち上がる。


「野沢に教えてもらった勉強法、もうしばらく続けてみるよ」


 がむしゃらに勉強する。


 それがベストだと思っていた。でも、思い込みだったのかもしれない。


 彼女は実験をしたかっただけかもしれないが、せっかく有意義なアドバイスをくれたのだ。これらの方法でどこまで成績が伸びるのか、もうしばらく試してみてもいいかもしれない。



「……読書しながらご飯を食べるなんて、お行儀が悪いですよー」

「うわあっ!!」


 耳元でささやかれ、綿毛を突っ込まれたようなくすぐったさが鼓膜こまくに走る。

 図書館で借りた本を危うくカレーライスの上に落としかけた。


「そんなに夢中になっちゃって、一体なんの本を読んでいたの? えっちな本?」


 食堂のテーブルの上にトレーを置き俺の隣に座ろうとするのは、A寮のスタッフであり、なぜか自習室の監督をしていた山添六実《やまぞえ

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