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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-4 恐れ多い

「木戸さん、どうしたの」


 野沢が躊躇ちゅうちょなく道の向こうの二人に声を掛ける。彼らははじかれたようにこちらを向いた。


「ゆ……、生徒会長」


 男のほうは昇山しょうざん高校の生徒会長、野沢優丞(ゆうすけ)だった。顔がよく見えなかったうえに私服を着ていたため、すぐには彼だと認識できなかったのだ。


「あなただったんですか。突然声を掛けてすみません。てっきりクラスメイトがナンパをされているのかと」

「ちっ、違うよココちゃん! ここでたまたまお会いして、これからどこへ行くのかって聞かれいただけだよ!」

「生徒会長が他の生徒にナンパを働くわけがないだろう」


 彼はため息をつきつつ笑ってみせる。


「木戸さん、引き留めて悪かった」

「は、はい。失礼します。ココちゃん、ソーくん、心配してくれてありがとう。急いでるから、またね!」


 愛華あいかは逃げるようにこの場から走り去ってしまう。ずいぶんと慌てた様子だった。


「休日だというのに制服を着ている女生徒がいたから、どこへ行くのか聞いてみただけだ。ただの世間話だよ」

「す、すみませんでした!」


 野沢の代わりに平謝りする。彼女は失礼なことを言っておきながら、憮然ぶぜんとした表情で生徒会長を見つめている。

 謝りながら、つい彼の顔を観察した。間近で生徒会長の顔を見るのはこれが初めてだった。男でも見惚みとれるほどの顔立ちだ。


 そしてやはり、野沢と似ている。

 しかし彼女は兄だとは言っていなかったし、野沢優丞も妹に接するような態度とは思えない。


「友達を心配するのはいいことだ。……じゃあ、僕も行くよ」


 片手を軽く上げると、彼は学校の敷地の中へ戻っていく。

 一つ、気になることがあった。


「なあ。あの二人、世間話をしていたように見えたか?」


 愛華と生徒会長の間に何か不穏な空気を感じたのは、自分だけだっただろうか。


「それに、制服姿が気になったのなら野沢にも声を掛けるべきだよな?」

「早く行きましょう」


 野沢はさっさと歩きだしてしまう。


「愛華を心配して声掛けたんだろ。気にならないのか?」

「気にならないと言えば嘘になるけど、今は時間が無いわ。さっさと買い物を済ませてあと三科目、今日中に終わらせてしまいましょう」

「ええ、本気かよ」


 慌てて彼女を追いかける。

 もう一度振り返ったが、生徒会長の姿は無かった。



「お疲れ様。さっそく採点してみるわね」


 七枚の解答用紙の端を合わせ封筒に入れ直し、野沢は満足そうだった。


「丸付けなんてすぐ終わるよ」


 ほとんど空欄なのだから。

 ぐったりと机に突っ伏しながら答える。


「点数は気にしなくていいわ。わからなくても一所懸命取り組んで考えてみるってことが重要なのよ」


 そうは言われたものの、やはりこんなテストで効果が出るとは思えない。


「じゃあ私はこれで……」


 これで、やっと「実験」が終わる。野沢も満足したようだし、深く関わることもないだろう。

 封筒を抱えて立ち上がり、彼女は不思議そうに天井をあおぐ。


「……なにか音が聞こえたような?」

「あ、聞こえる? 耳がいいんだな」


 窓を開けた。今日もあの歌が聴こえてくるということは、この曲を流している人物も居残り組なのだろう。


「寮生の誰かが、毎日流しているんだ。いい曲だろ。曲名は知らないけど」

「毎日? それはさぞ迷惑でしょう。私が犯人を突き止めて引っ張り出してあげるわよ」

「やめてくれっ」


 犯人捜しのために部屋をとび出そうとする野沢を制す。


「ねえ、佐藤くん。これって、寮生が歌っているのだと思うのだけれど」

「え? まさか……」


 ただの高校生がこうも上手く歌えるものだろうか。しかし野沢は確信したというように頷いた。


「さっきよりも声が疲れてきているわね」


 半信半疑、耳を澄ます。サビの途中で歌声は止んでしまった。しかしメロディだけはずっと流れている。

 ゴホゴホと咳払いが聞こえ、そのうち曲も消えてしまった。


「……本当だ」


 彼女の言う通りだった。配信されている音声ではない。寮内のどこの部屋かはわからないが、生徒の誰か歌っているのだ。


「今、初めて気が付いた」

「私だって、部屋で電子ピアノを弾くのを我慢しているのに」


 ほどなくして声の持ち主が練習を再開する。

 文句を言う野沢と窓の前に並び、ついそのまま二人で歌を鑑賞してしまった。

 ふと横を向けば、目を閉じ聴き入る野沢の顔が間近にある。しかし、すぐに目を逸らした。

 日差しに輪郭を照らされた美しい横顔を眺めているのは、なんだか恐れ多い行為のように感じられたからだ。


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