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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-3 むしろ光栄

 全くわからない。

 何もかもわからない。

 ちっともわからない。


 一教科につき、制限時間は四十五分。自信が無いながらも解答欄を埋めようと試みたが、二教科目の試験中に完全にやる気が失われた。

 知らないことなど、答えられるわけがない。


 これがあと五科目。すでに嫌気がさしていた。


 野沢(こころ)は俺の部屋のすみに大人しく座り、読書をしている。

 狭い部屋に美少女と二人。この環境だって、集中するのには不向きだ。

 そもそも、同じ空間に彼女がいる意味はあるのだろうか?


「ペナルティを設けましょうか」


 左手で消しゴムをいじっていると、野沢が厚い本を閉じた。一応テスト中なのだから話し掛けないでいただきたい。


「どうせわからないからってテキトウな回答が目立つようなら、佐藤くんと付き合っているとみんなに言いふらすわ。嫌なら真面目にやってよ。そうじゃないと実験にならないわ」


 テストに飽きたことを気付かれてしまったようだ。


「勘弁してくれよ」

「私のような変人と付き合っていると思われたくなかったら、しっかり解くことね」

「いや、浮ついた話題が好きな人間っているだろ。そういう奴らにあれこれ詮索せんさくされたくないだけだ。もし野沢みたいな美人と付き合えるのだったら、むしろ光栄だよ」


 彼女はぱちくりとまばたきを繰り返す。そして背を向け、また本に目を落とした。


「どうかした?」


 伏せた横顔が真っ赤だ。


「また具合が悪くなったとか?」

「……容姿の話題はやめてと言ったわよね」

「あ、ごめん。気に障ったのか」

「いいから早く続きを解きなさいよ」


 うっかり怒らせてしまった。

 それ以上の無駄口は叩かず、再びテストを解き始める。



 四教科分を受け終えたところで、腹の虫がぐうと鳴った。いつの間にか昼の十二時を過ぎている。


「そういえば朝飯を忘れていたな」


 彼女のせいで俺は食堂に入れず、そのまま部屋に引き返すことになってしまったからだ。


「私もトーストだけだったからお腹が空いてきたわ」

「野沢はちゃっかり食べてきたんかい」


 中身なんて無いんじゃないかと思うほど細いウエストをさする彼女に突っ込む。


「じゃあ、食堂に行きましょうか」

「食堂? 今日は土曜だよ」

「……土曜日だけど、それがなに?」


 立ち上がった野沢は不思議そうにこちらを見下ろしている。なんのことだかピンと来ていないようだ。


「土日は朝食しか出ないんだよ。オリエンテーションでスタッフが言っていたぞ。野沢も意外と抜けているとこがあるんだな」


 つい笑うと、彼女は片眉を悔しそうに上げた。


「な、何事も完ぺきな人間なんていないわ。それにオリエンテーションのとき、遠藤くんたちの声がうるさくて話がよく聞こえなかったのよ。……佐藤くんこそ、今日は『自習室へ行く予定』だと言っていたけど、土日は空いていないわよ」

「それ、昨日の時点で教えてくれよ」

「事実より相手の気持ちを尊重しろと言ったのは佐藤くんよ」

「この場合に尊重すべきなのは事実だろっ」


 不毛なやり取りの末、二人で食料を調達しに学外へ出かけることに決まった。

 部屋を出る前に少し距離を置いて歩くよう頼んだが、門に到着するまで幸いにも他の生徒とすれ違わなかった。


「コンビニでいいか? 場所を調べるからちょっと待って」


 まだ場所に不慣れなうえ、この辺りは片田舎でコンビニ一軒探すのにも手間がかかる。


「できればコンビニ以外がいいわね」

「コンビニの総菜そうざいも食べてみると結構美味いんだよ。種類多いし」

「知っているわ。食べ飽きたのよ」


 それは意外だ。

 美人はオーガニックや産地直送を謳う食品ばかり口にするのだと思っていた。


「近くのスーパーの場所ならわかるわ。手作り弁当も売っているのですって。チラシを見たわ」


 近所の広い公園を抜けたところにショッピングセンターがあり、スーパーも入っているらしい。そこで弁当を買うことにした。


「いや、でも」

 聞き覚えのある声がしたのは、校門を出た直後だった。


「その、それはちょっと……」

 車道を挟んだ反対側の歩道に、一人の男と昇山しょうざん高校の制服を着た女生徒が立っている。

 女生徒は、遠目にも目立つ金髪だった。


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