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フタシカなまま、ぼくたちは  作者: ばやし せいず
第3章 佐藤蒼紀
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3-2 成績を上げるコツ

「さあ、早速始めましょう!」


 忍び入るなり詰め寄る彼女を慌てて制す。お互いまだ息も整っていない。


「せっかくで申し訳ないけど成績を上げる手伝いなんて、そんなのいいよ」

「手伝わせてくれるから部屋に入れてくれたのでしょう?」

「違う。人目を気にしてだ」

「人目?」

「部屋に出入りしていたらうたがうやつだっているだろ。……そ、その、付き合っているんじゃないか、とか……」


 だから、厄介やっかいなことになる前にさっさと出て行ってほしい。


「疑われたら、なに? はっきり言えばいいでしょう。『付き合っているわけない』って。『佐藤くんと付き合うなんて頼まれてもごめんだ』って、みんなの前で言ってあげるわよ」

「………………オブラートに包むってことを本気で学習してくれ」

「私、また言わなくてもいいことを言ったのかしら……?」


 彼女は「なぜたしなめられているのか全く見当がつかない」といった様子で口に手を当てる。


「じゃあ、これだけでも目を通してくれる?」


 そこで初めて、彼女が大きな茶封筒を持っていることに気付いた。受け取って中をのぞくと、冊子が入れられている。


「なんだこれ?」


 冊子は全部で七冊。

 それぞれ表紙に「現文」、「古文」、「数学」、「地理」……と科目名が印字されている。来週から本格的に始まる授業の科目と一致している。


「これ、まさか」

 息を呑む。

「次の中間テストの問題……!?」

「そんなわけないでしょう」


 ほとほと呆れたというようにため息をつかれてしまった。


「こんなに早い時期に先生たちがテスト問題を作っているわけがないじゃない。作っていたとしても、私がどうやって手に入れるのよ」


 それはごもっともだ。


「あ、じゃあ過去問とか?」

「友達もろくにいないのよ。過去問をくれるような先輩なんて知り合いにいないわ」

「それなら、これは?」

「私が昨日準備したの。これから授業で習う内容をテストにしたものよ。来週から平常授業になるでしょう?」

「……昨日一晩で作ったっていうのか?」

「下書きだけは前から作っていたのよ。自分用にね。それを昨日の夜、パソコンで清書してプリントアウトしたの。佐藤くんに渡すために」


 冊子をめくる。一問一答や記述問題。本物のテストのように丁寧に作られている。


「七科目、全部?」


 彼女は頷いた。せっかくのきれいな目が充血している。


「テスト前にこれを解いて復習しろってことだな。……あ、ありがとう」


 頭のいい彼女が作ったオリジナル問題集ということだ。要点を押さえた効率のいい復習ができるのだろう。

 わざわざこんなものを作って持ってきてくれたとは。

 素直に嬉しくなった。


「違うわよ。今からやるの」

「……は、はい?」

「今からこのテストの問題を全て解いてほしいの。試験監督は私がするわ」

「と、解けって言ったって……。だって、まだ習ってない内容だろ!?」

「それが成績を上げるコツなのよ。事前テストっていうの。昨日のあなたの話を聞いて、どうしても解いてほしくて」


 一度も学習したことがない授業内容のテスト結果なんて、散々に決まっている。

誰もがそう思うだろうが、一度テストを受けることにより重要な部分を意識しながら授業を受けることになるので、学習効率がぐんと上がるのだそうだ。


「いや、でも今日は自習室で数学の予習をやったり英単語の暗記をしたりするつもりで……」

「成績を上げたいんでしょ? でも今まで通りの方法を続けたって今まで通りの成績にしかならないわよ。一度自分のからを破ってみるのはどう? 現に私はこの方法で成績を上げたわよ」


 どんな口実を並べても、やたら饒舌じょうぜつな彼女はこの部屋から退しりぞかない気がした。


「わ、わかったよ……。でも、こういうのは一回きりにしよう」


 新学期が始まるたびに部屋に訪問してくるなんて、遠慮願いたい。


「野沢だって負担だろ」


 下手な言い訳を付け加えておく。


「今回だけはやってくれるのね」

「そうだ」


 野沢の顔がいつになく明るくなり、声をはずませた。


「他人もこの方法で成績が上がるのかどうか、やっと実験ができるわ!」

「……」


 彼女は踊り出しそうなほど喜んでいる。やっと感情を手に入れたロボットを見ているようだった。

 どうやら、彼女はこの要領の悪いクラスメイトを実験体にしたかったらしい。


 効果が無いとわかればもう相手にしなくなるだろう。そう踏んで承諾してしまった。


 しかし、すぐに後悔するはめになったのだった。


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