2-4 毎日、必死に
「入試の順位は点数だけではなくて、中学生のときの生活面や課外活動も考慮したうえで決まるって言っていたわよ」
「生活面や課外活動?」
「つまり、内申ね。私は中学校では三年間、ほとんどオール5だったしボランティア部の部長もしていたのよ。それらが評価されたのではないかしら」
「す、すごいな」
「生徒会長の野沢優丞を覚えている? 入学式で挨拶した」
「覚えてるよ。なあ、あの人は野沢のお兄ちゃんなのか? 入学式のとき、愛華と話してたんだ」
「違うわ」
「え? だって苗字が」
「佐藤ほどではないけど、野沢なんてどこにでもいるわ。話の腰を折らないで」
焦りでつい早口になった。
「彼も新入生のときに入学式で代表を務めたそうなのだけれど、入試は満点に近くて、ヴァイオリンのコンクールでも入賞した経験があるらしいわ」
「……すごすぎて何も言えない」
成績優秀、音楽にも秀で、さらには生徒会長を務めている。高校生活に掛かるあらゆる費用の免除に加え、大学は間違いなく推薦で入れるだろうとのことだ。
これらの情報は先日の入学式の前に本人から聞かされた。全く興味が無かったのだが、彼は式が始まる直前までえんえんと自慢話を続けていた。
「順位、そういうことだったのか……」
私の話を聞いた彼は、すっかり腑に落ちたという顔でテーブルの上を眺めている。
「佐藤くんだって、ピアノをやっていたのでしょう」
「覚えていたのか? 忘れてくれ。中一のときに合唱の伴奏をして、以来弾いてないよ」
「伴奏の経験だって十分に評価されそうだけれど……。どうして佐藤くんはクラスで下から二番目なのかしら」
一点二点の差で合否が分かれることはあるだろう。しかし成績上位の人間より二十点ほど下だった生徒が果たしてクラスの下位になるだろうか。
「俺の場合は生活面が……。まあ、いいんだ、もう」
自分の順位になにか思い当たる節があるらしい。中学でやんちゃしたのかもしれないと思ったが、深入りする気にはならなかった。ただのクラスメイトの過去に、私はそこまでの関心は寄せられない。
他人への興味が薄いのも友達ができにくい原因の一つだろう。
しかし高校では友達を作ると決めたのだから、なにか一つ質問でもしておくべきか。
「佐藤くんは新入生代表になりたかったの? 目立ちたがりなのかしら」
「俺が目立ちたがりに見えるか? そうじゃないよ。自分で言うのもなんだけど、入試ではまあまあ点数が取れたと思ったのに順位が低くて悔しかっただけだ。悪いな、点数なんか聞いて」
「順位に固執する必要は無いと思うけれど……。でも、もし上位になりたいというのなら、これからいくらでも挽回できるわよ。高校生活は始まったばかりなのだから」
彼は狐につままれたような顔を見せた。
「……野沢からそんなふうに励まされるとは思ってなかったよ」
「どうして私があなたを励まさなきゃいけないの。思ったことを言っただけよ」
「まあ、そうだよな」
彼は苦笑いしながら頷いた。
「野沢の言う通り、挽回していくよ。まず一週間後の英単語の小テストを頑張る。要領悪くて地頭もよくないし、英語はとくに苦手なんだ。毎日必死に覚えないと」
「……毎日、必死に?」
思わず訊き返す。
「え? ああ、これでもな」
「不器用なりに努力はしているんだ、毎日机に向かって勉強している」などと彼が言い訳がましく言ってくるのを聞き流し、考え込んでしまう。
「努力するから、よくないのかも」
今すぐにでも試したいことができた。しかし準備ができていない。
気分が高揚していく。
こんな気持ちは久しぶりだ。
「な、なんだって?」
「ねえっ、あなたの成績を上げるためにお手伝いしてもいいかしら!?」
声が上ずった。
さっきまで体調が悪かったことなんて、もうすっかり忘れていた。
第2章 「野沢心」了




